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二章
273.頑張れジーノ
しおりを挟む>>ジーノ視点
今回の犯罪組織の掃討作戦に自分たちは組み込まれなかった。一年間の基礎訓練を終えた二年目の騎士がベテランと組んで潜入し、逃げられた際に取り押さえる役としてそれ以外の騎士が各所に散らばっていた。
弟のリーノがシュテルター隊長と組むことになったと聞いた時は羨ましいと思う反面、少し心配だった。
当日、作戦に参加しない自分たちは、街の巡回だった。決められたルートで歩くだけという簡単な仕事だ。
稀に街の人の喧嘩の仲裁や、迷子や困っている人などの世話をすることはあるが、あまり楽しくない仕事だ。
夕方になり、今日の仕事はもう終えて帰ろうという時に、ボーッと遠くを眺め立ち止まっている人を見つけた。
それはよく見てみると、シュテルター隊長の旦那さんだった。彼は騎士団で知らない人はいない有名人だ。夏には虫除けのオイルを提供してくれるし、街で流行りの妖精の棒を騎士団に提供してくれた。騎士でもないのにその他にも色々と功績を残している人だ。
一緒に巡回をしていたルキオと顔を見合わせ、一応声をかけてみることにした。ここは街の外れでこんなところに彼がいるのはおかしいし、様子もおかしかったからだ。
「マティアス様? こんなところにお一人でどうされたんですか?」
「ボーッとしてたら迷ったみたい」
声をかけると、彼は迷子になったのだと恥ずかしそうに笑って、送っていくことになった。
彼は有名だが、話をするのは初めてだった。
シュテルター隊長の分隊の人と話をする機会はなかなかない。彼らは寮に住んでいないから寮の食堂で見かけることもないし、底辺騎士の自分達の訓練に携わることはないからだ。
あれだけ功績を残しているから、少し話すのは怖かったんだが、想像とは違い穏やかで優しい雰囲気の人だった。ただ、体調が悪そうなのが気になった。
彼は突然道端にしゃがみ込んで嘔吐したんだ。ルキオがついている間に近くの店に行って水を買ってきて渡した。
ルキオが背負って家まで送ると、ちょうどシュテルター隊長も帰ってきた。弟が参加しているから気にはなっていたが、今日の作戦は成功したようだ。
「マティアスを送ってきてくれたのか? ありがとう、俺が代わろう」
シュテルター隊長はとても怖い人だと思っていたから少し緊張したが、彼が旦那さんを見る目はとても優しかった。
ルキオは隊長にマティアス様を渡そうとしたんだが、彼は嫌がった。
「ルキオに部屋まで背負ってもらいます」
吐いたばかりだから、動かされたくなかったんだろうか?
シュテルター隊長は「なぜだ?」と問いかけたけど、よほど体調が悪いのか、マティアス様は何も答えなかった。
執事の男性に促されて、ルキオと共に部屋まで連れて行き、マティアス様をベッドに下ろした。
「ルキオ、ジーノ、ありがとう。お礼はまた改めて」
そう言ってくれたマティアス様は、少し回復したように見えたが、部屋を出るときにはぐったりとベッドに沈み込んでいた。
部屋を出ると執事の男性がいたため、荷物を渡して、送ることになった経緯と途中で体調を崩して嘔吐していたことを話した。自分たちにできることはこれくらいだ
「要塞と言われているシュテルター隊長の屋敷、建物自体は普通の貴族屋敷だったな」
「そうだな。防壁と櫓以外は普通に見えた」
「執事もメイドも武装していなかった」
「武器がその辺に転がっているということもなかった。噂は噂でしかないということか」
ルキオと出した結論は、シュテルター隊長も旦那さんも屋敷も、思ったより普通ということ。
そして色々あり、弟とルキオと三人でシュテルター隊長に訓練をつけてもらうことになった。
子どものシルヴィオくんと一緒に訓練をすることになったんだが、敷地内で剣を抜くことは禁止され、スクワットを延々とやらされることになった。
弟は何の疑問も持たず真面目に取り組んでいたが、ルキオと自分はこんな訓練ならシュテルター隊長に教えてもらうことはないと思った。分かってはいたが、地道に基礎訓練をするしかないのだと現実を突きつけられ、正直期待外れだった。
シュテルター隊長の分隊は精鋭が揃っていると聞いていたが、過大評価なのでは? と思い始めていた頃、出かけようと言われた。やっと外で剣を教えてくれるのかと思ったら違った。
「走って行く。荷物は俺たちが持つ」
「はい」
雪に閉ざされた街道など誰も通らないから、踏み固められた地面など無い。雪に埋まりながら走らされた。
シュテルター隊長もハリオさんもアマデオさんも、大きな荷物を背負っているのに息を乱すこともなく平然と走っている。まるで何も無い平地を走っているように。
自分たちは彼らに引きずられ、転がりながら進んだ。
大きな荷物を背負っていたから何泊か野営をするのだと思っていたが、意識を朦朧とさせながら街について、鍛冶屋で荷物を受け取ると、すぐに帰ることになった。
「泊まらないのですか?」
もう足は限界だった。足だけじゃない、雪の上を引きずられて転がったから全身がプルプルと震えている。
「まだ日は高い。思ったより時間がかかったが日暮には王都に着くように帰る」
日暮に? ということはまた走って帰るのか? 無理だ。とても辿り着ける気がしない。
まさかスクワットはこの強行軍のためだったのか? もっと真面目に寮に戻ってからも鍛錬を重ねるべきだった。今更後悔しても遅い。
泣きそうになりながら雪深い街道を引きずられて進んでいると、こっちに向かってくる影があった。
こんな雪で閉ざされた道を通るのは自分たちだけだと思ったが違うのか?
向かってきた影はルーベンさんと、その婚約者の男だった。ルーベンさんは大丈夫でも、一般人の婚約者はこんなところに連れてこられて可哀想だと思った。
もう体力が限界を迎え、何かを考えることも億劫で、ボーッと去っていく彼らの背中を眺めた。
「お前ら、体力がないな」
「すみません」
もうここは素直に謝るしかなかった。騎士団の訓練をサボったことなどないが、それ以外に自主的に訓練をしていたかというとそうではない。底辺の騎士で終わるか、上に上がれるのかはそこで差が出るのかもしれないと思った。
もう一歩も動けないほどに疲労困憊の自分たちに比べて、隊長たちは涼しい顔をしている。こんなに差があるとは思っていなかった。もう足は動かない。引きずられているだけの自分たちが足を引っ張っていることは明らかで、日暮れまでに王都に辿り着けそうにないことを申し訳なく思った。
「ルーベンたちに手伝ってもらうか。早く帰らないとまたマティアスを悲しませる」
「それしかない。早く帰らなければルカくんの店が閉まってしまう」
「俺はニコラの迎えがある」
隊長たちはそれぞれ早く帰りたい理由があるようだ。
少しすると、ルーベンさんと婚約者が来た。まさか彼らも今日中に王都に帰るのか?
合流すると、隊長たちが背負っていた荷物をルーベンさんと婚約者に渡した。
そして自分たちは隊長たちの肩に担がれて運ばれることになった。
ルーベンさんはいいが、婚約者がそんなものを持てるのかと思ったが普通に背負っていた。
そして婚約者までもが隊長たちと同じペースで走り始めたんだ。嘘だろ?
「ルーベン、アックアには何しに行ったんだ?」
「タルクとお揃いのポポの兜を頼んでいたから、取りに行った。内側にお互いの名前も彫ってもらった」
「なるほど、お揃いか。それはいいな。俺も今度ニコラとお揃いのを作ってもらおう。だがニコラは冬は無理だ。タルクさんのように鍛えていない」
ルーベンさんとアマデオさんが走りながら、まるでゆっくり散歩している時のように普通に話していた。
その先の会話は聞いていない。肩に担がれていると揺れが酷く、途中で気持ち悪くなり嘔吐した。上半身が逆さになっているため、頭にも血が上るし、内臓をぐちゃぐちゃにされているような錯覚に陥る。
気付いたら隊長の家のベッドで横になっていた。弟もルキオも同じような状態だった。
後日、ルーベンさんの婚約者は花屋だと聞いた。騎士団に入って満足している場合ではなかった。自分たちは甘かった。そして彼らは普通ではないと認識を改めた。
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