僕の過保護な旦那様

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二章

292.しつこい火種

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「マティアス様、あれどうなってるの?」
 翌日、騎士のみんなを見送った後でうちに来たフェリーチェ様が門を指さした。情報通のフェリーチェ様でも分からないことがあるんですね。フェリーチェ様に分からないなら、僕はもっと分かりません。
 フェリーチェ様が「あれ」と言ったのは、閉ざされた門の外で門番のように立っているロランド・アリオスティのことだ。

 昨日ラルフ様が追い返したのに、今朝になってみんなが早朝訓練をしていると、ロランドがまたうちを訪ねてきたんだ。
 ラルフ様が「無視すればいい」と言うから放置していたんだけど、みんなが出勤する時には門を通らないわけにはいかない。

「なあラルフ、ルキオという騎士に合わせてもらえないか?」
 やっぱりロランドの目的はルキオらしい。責任をとって退団したけど、実家に帰ってよく考えてみたら第三騎士団の大隊長という肩書きが惜しくなったんだろうか?
 だからってルキオがロランドの退団を取り消せるわけもない。きっかけとなったルキオに一言言わなければ気が済まないのか……
 ルキオは被害者なのに、本当に貴族主義の人たちは面倒な性格をしている。

「帰れ。
 リーブ、俺たちが出たら門は施錠をしっかりしておいてくれ。知り合いであっても誰も入れるな」
「畏まりました」
 こうして今日もロランドはラルフ様に追い返されて、目の前で門を閉ざされた。

 あれ? そういえばラルフ様を見送った時に門は閉ざされて施錠されたはずだ。僕もそれを見ていた。じゃあ僕の目の前でシルとルキオを眺めながら、優雅にお茶を飲んでいるフェリーチェ様はどうやって入ったんだろう?
 門が閉まっているのに抜け出したパンといい、今回のフェリーチェ様といい、うちって案外出入りは簡単にできてしまうのでは?

「マティアス様、黙り込んでどうしたの?」
 フェリーチェ様に声をかけられて、僕は我に返った。
「いえ、ロランド様のことでしたね。僕も何がなんだか……昨日の昼頃に訪ねてきて、ラルフ様に追い返されたんですが、また今朝やってきたんです」
 今日もまたラルフ様が帰ってくるまで門のところで待つつもりなんだろうか?

「領地に帰ったはずなんだけどね。後でちょっと調べてみる」
「はい。お願いします。ルキオに会いたいようですが、目的が分からないので会わせたくはありません」
「そうだね。本当の目的が分かるまでは危ないから会わせない方がいい。見た感じは負の感情はなさそうだけど、隠すのが上手いだけかもしれない」
 ですよね。生粋の貴族ですし、本心を隠すなんて息をするように簡単にやってそうです。

「あの人、僕の想像とイメージが違ったんですが、元々あんな感じだったんですか?」
「うーん、私も団が違うし、あいつは仕事をしない奴だったから話したことはないんだよね」
 フェリーチェ様に聞いてみると、ロランドはいつも隊長室に籠っていて、何をしているのか分からない人だったそうだ。フェリーチェ様の情報網でも分からないなんて、とんでもなく隠すのが上手いんだろう。ますますルキオに会わせたくないと思った。

 しかしロランドは懲りもせず毎日、早朝とラルフ様が帰宅する時間にやってくるようになった。ずっと門のところに立っていることはなくなった。立ちっぱなしは疲れるのか、それとも醜聞になると誰かに注意されたのか、理由は分からない。

「ラルフ様、ロランド様と顔見知りなんですよね? どんな人なんですか?」
 権力を笠にきた人が門前払いされているのに、毎日うちに通うだろか? どこか腑に落ちない感じがして聞いてみた。
「知らん。昔は気が弱く歳下の俺の後ろに隠れるような奴だった。だがそれは一桁の年齢の頃だ。今は知らん」
 幼馴染でしたか。ラルフ様は伯爵家だから歳が近いし関わりがあったのかも。

「マティアス、あの男が気になるのか?」
「毎日押し掛けられたら気になります。僕は寮長なのでみんなの安全を守らなければなりません。危険人物かどうか気になっているだけです」
「そうか」
 僕は浮気性じゃないのに、なんでそんなにラルフ様は不満そうなんだろう?

「ラルフ様だけが特別です」
 この前ラルフ様が嬉しそうにしていたから言ってみたら、次の瞬間に僕はベッドの上で裸だった。『特別』という言葉は思った以上に強力みたいだ。

「マティアス、俺のことをもっと見てくれ」
「ラルフ様のこといつも見ていますよ。大好きです」
 ラルフ様は拗ねたみたいに、僕の唇をチュッチュッと啄んで、そっと優しく僕の頬に触れた。ラルフ様の手が熱い。不安そうに僕を見つめる瞳が揺れている。

「マティアス、愛してる」
「うん、僕も愛してます」
 ラルフ様の温かい手は、そっと優しく僕の体をなぞっていく。温度は感じられるのに物足りない刺激。ラルフ様が力加減を忘れてしまった時みたいに、そっと触れていく。

「ラルフ様、わざとですか? 僕が他の男の話をしたから?」
「すまない」
 それって肯定ってこと?
「僕がこれから先もずっと愛してるのはラルフ様だけです」
「分かっている。優しくしたいのに、嫉妬に狂って酷くしてしまいそうで怖い」
 そういうことか……だから力加減を間違えないようにそっと慎重に触れて、確認しながら進めていくのか。

 大丈夫だと思う。もう何度体を重ねていると思ってるの? 僕よりも僕の身体を知り尽くしているんだから、僕はラルフ様に委ねることに何の不安もない。

「ラルフ様、僕は何も心配していません。続きしよ?」
「マティアスは強いな。俺はいつも負ける」
 いつの間にラルフ様は僕と勝負をしてたんだろう? 勝ち負けの基準が全く分からない。
 僕がラルフ様に勝てるところなんて花の知識と妖精を彫ることくらいしかないと思う。

 …………加減。
 いいんだけどさ、ラルフ様は翌日がお休みということで朝まで放してくれなかった。

 
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