【完結】王子様の身代わりになった僕は最恐と恐れられる皇帝を肉球で癒す

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1.身代わり生活の始まり

1.プロローグ

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 僕が暮らすが暮らす国、エルヴァニア王国は獣人が八割を占める。残りは森の奥に住むと言われるエルフや亜人、人間も少しだけ住んでいる。ケットシーの血を引く王族が頂点に立っていて、歴史や伝統を重んじる国だ。

 ちなみに僕は猫の血を引いている。当たり前だけどケットシーではなく、ただの猫だ。
 耳が猫なのと、手のひらと指の先がちょっとぷっくりしていて柔らかいと言われている。特に僕の手は柔らかい。
 この国の大半の獣人は犬か猫かウサギだ。他にもいるけど数は少ない。

 巨大な国土を有するお隣のヴェルナー帝国は各地に戦争を仕掛けて今でも領土拡大に勤しんでいる。帝国軍は数万の兵を抱え、とても強いとの噂だ。
 そんな帝国がお隣で危なくないかと心配になるけど、僕たちが暮らす獣人の国とは不可侵条約を結んでいる。

 王族から人質? 生贄? を五十年に一度送ることで、不可侵、そして他の国の侵攻から守ってもらっている。ずっとその盟約が続いているから、エルヴァニア王国のみんなは安全に暮らせるんだ。

 一度帝国に送られた王子や王女は、二度と国には戻らない。送られた彼らが向こうでどうやって暮らしているのか、監禁されているか、自由に過ごしているのか、全く記録は残っていない。文のやりとりもできないんだろう。
 ということは送られてすぐに殺されているという可能性もゼロではない。それならなぜ帝国が我が国を守ってくれるのかが分からない。
 ない頭を捻っても、僕には帝国の考えなんて分かりそうになかった。

 そろそろだと噂されていたけど、先日、盟約に従い帝国に王族が送られることが決まった。送られるのは第二王子アルバン様だ。
 王族だから、帝国へは身の回りの世話をする従者と護衛を引き連れて向かう。
 どんな扱いをされるのかも分からないし、二度と帰れないんだから、誰も行きたがらない。
 そこで選ばれるのが平民だ。
 王子様以外は平民が金で雇われる。

 結構なお金が支払われるから、応募する人は多い。
 僕もその一人。病気の母の薬代を稼ぐために応募した。まだ小さい弟二人と妹が母と共に幸せに暮らせますように……

 応募者は僕のような人が多かったように思う。借金を背負った人、家族などのためにお金が必要な人。
 実際に帝国へ行く従者は一人だけど、何かあった時の予備なども含めて五人が採用となった。護衛は十人。
 応募者は数え切れないほどたくさんいて、従者だから王子様とそれほど歳の離れていない人でないといけないのに、小さい子どもや老人なども会場で見かけた。

 僕は五人のうちの一人として、従者での採用が決定した。あれだけの人がいたから、正直、採用されるなんて思っていなかった。驚きと嬉しいのと、少しの不安がある。
 護衛として採用された人たちは厳しい訓練を一年間受ける。
 僕たち従者は読み書きやマナーを一年間学ぶことになった。

「銀の髪のお前、猫だろ? 名前は? 俺はトールズだ。ライバルだけどよろしくな」
「僕は猫のアルフレート。よろしく」
 犬人族のトールズは、僕に最初に声をかけてくれた人だ。
 白と黒の耳の先がちょっと垂れていて、目がまん丸で可愛い。だけど結構豪胆な性格だと思う。
 その他に、虎柄の耳の猫のトアラ、白い耳の猫のビアンカ、ウサギのライトが従者での採用となった。

 採用となって最初の講義の日、ウサギのライトは採用辞退を告げて消えた。国の歴史を学ぶ途中で無理だと言って、ピョンッと飛んで部屋の窓から出て行ってしまったんだ。
 よくあんな人を採用したものだ。彼は見た目がよかったから、それで採用されたのかもしれない。

 僕は、読み書きは亡くなった父が教えてくれたから、そんなに苦労はしなかった。歴史や周辺国のことは色々知るのが楽しかった。でもマナーはちょっと苦手だ。
 堅苦しいけど綺麗な衣装も国が用意してくれる。最終的に帝国へ行かなくても、この勉強の期間は安くないお給料が出るから、本当に助かる。
 勉強もできてお金ももらえるなんて、本当にありがたい。

 勉強の中には魔法もあった。魔法の適正を神殿で調べてもらい、僕はちょっと珍しい光の魔法の適性があることが分かった。今まで十七年生きてきて、全然知らなかった。

「なぜ君が光の適性を持っているんだ?」
「なぜと聞かれても……」

 神殿で調べてくれた神官になぜと問われたけど、そんなの知らない。魔法なんて欲しいと神様にお願いしたからといってもらえるものでもない。

 貴族は魔法を使える人が多いらしいけど、平民は十人に一人くらいしか使えない。
 大抵は火か風か水で、火は薪を燃やすときに火をつけることができる。だけどそれだけだ。
 風は種を蒔くときに使えると聞いたことがあるけど、畑じゃないところにまで飛んでいってしまうから、あまり重宝されない。
 水は使えそうなんだけど、一日に小鍋一杯程度の水しか出せないから、そんなに活躍の場がない。

 大抵小さい頃に火に憧れて、子どもたちはみんな火が出せないか試すんだ。
 僕も例に漏れず、何度も試したことがある。でも火は出なかった。
 それは僕が魔法を使えないからじゃなくて、火でなく光の適性を持っていたからだ。

 トールズとビアンカは、魔法の適性がなかった。トアラは風の適性があった。僕とトアラは魔法の適性があるってことで、魔法も学ぶことになったんだ。
 魔法とは何かという概論はよかった。しかし実践となると問題が出た。

「光ですか……それは困りましたね。光を使える者がいないんですよ。王族にも発現しなくなってもうかなりの時が経っています」
「そうですか……」
 先生はとても困った顔をしているけど、そんな顔をされても僕も困る。
 トアラが風で木の葉を巻き上げている姿を見て、楽しそうだなって思った。

 だいたい光ってなんだろう?
 日の光を出したりできるんだろうか?
 日の光を出したところで、役に立つのかどうかも分からない。それなら火の方がよかったな……
 適性はあるけど使えない魔法。とても残念だ。時間があれば王城にある書庫にでも行って魔法の本を読んでみたかったけど、勉強が忙しくてそんな暇はなかった。

 半年もすると、歴史や周辺国の情勢を学ぶ講義以外はみんなと一緒になることがなくなった。
 僕は読み書きも計算も初めからできたからかもしれない。みんな元気かな?
 一人で受ける講義やマナーは寂しい。みんなを手本にできないし、本格的に謁見のマナーなどが始まると不安になった。

「アルフレート、君の帝国行きが決定した」
「はい」

 ここひと月ほど、みんなの姿を王城で見なかったから、そんな気はしていた。だけど……まさか僕が選ばれるなんて。
 報酬のズシリと重い革袋を渡されて、急に実感が湧いた。
 もう二度とエルヴァニアには戻れない。

 本当はもう辞退してもよかったんだ。一年の間に払われた給料で母の薬は買えたし、弟からの文に母の病気が良くなってきていると書かれていたから。

 勉強すればするほど帝国は恐ろしい国だということが分かるし、不安はある。
 だけど母の病気が良くなり始めているときに薬を止めてしまうのはもっと怖かった。王子様の従者を辞退して、この一年と同じ額の給料をもらえるところに就職できる保証はない。
 だったら僕は帝国に行く。

 大臣からお金が入った革袋を渡されたとき、僕は安心もしたんだ。
 これで母の薬を買い続けることができる。きっと母は治ると。
 そして弟も妹も、空腹を我慢することがなくなると。
 だから僕は帝国へ行く。

 ──父さん、僕は家族を守ることができたよ。そばで見守ることはできないけど、これでいいんだよね?

 国を出発する前日、僕は神殿に足を運んだ。五年前に天に旅立った父さんに報告するためだ。
 家族には会わなかった。会ってしまったら覚悟が揺らぎそうだったから。もし引き留められたら、行かないと言ってしまいそうだから。

 
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