2 / 72
1.身代わり生活の始まり
2.
しおりを挟む神殿に行った数日後の空が真っ青に晴れた日、僕は旅立った。天気の影響で、少しだけ出発が遅れたんだ。
馬車に王子様と一緒に乗せられて、御者はたぬき人族の無口なおじいちゃんだった。
周りを護衛が囲んでの移動。正直、王子様と話す話題なんてない。王子様はずっと不機嫌で、僕とは目も合わせてくれない。きっと平民の僕と同じ馬車に乗るのが嫌なんだろう。
こんな状態で従者なんて務まるんだろうか? 不安はあるけど、一年間しっかり勉強してきた。これから先の人生は長いんだから、僕は王子様のよき理解者になって彼を支えていくんだ。
しかし途中で問題が起きた。
王子様が、「こんな服は動きにくいから嫌だ」と我儘を言い出したんだ。そんなこと言われても困る。僕は平民で王族に逆らうことなんてできないんだ。
動きにくくても、激しい運動をするわけじゃないんだから、どうか我慢してほしい。
「おい、この服着てみろよ、肩はガチガチに固まって腕も上がらないし、こんな動きを制限されるような服で馬車に乗る気持ちをお前も味わえ」
半ば無理やり王子様の服を着せられ、「確かにこれは窮屈で苦しいですね」と言ったら、やっと落ち着いてくれた。
今王子様はラフな生成りのシャツに、剣術の訓練でもするかのような茶色の少しよれたパンツを履いている。
「それを何時間も着たまま馬車に乗ってみろ」
「はい」
王子様の命令だから聞くしかなかった。
僕はさっきまで王子様が着ていた、綺麗な飾りがたくさんついた、豪華な服を着て馬車に揺られている。
年齢が近いせいか、サイズも違和感がなく、宝石がついた重い靴まで履かされた。
王子様のいうとおり、こんな格好で馬車に長時間揺られるのはかなり辛い。
国内を移動する三日間は何とか窮屈な服で耐えていたけど、王子様もとうとう限界がきたんだろう。気持ちは分かる。
国境を越えて小さな村をいくつか通り過ぎ、最初の街に入ると、仰々しい帝国軍に囲まれた。お迎えってことらしい。
「王子だけ引き渡せ。あとは国に帰っていい」
僕は帰れるのか。色々と勉強してきたけど、残念ながら活かす機会はなかった。これから先、王子様は一人で大丈夫だろうか、一人は心細いと思うけど、国のために頑張ってください。
──そう思ったのに、「このお方が王子殿下です!」と王子様が僕を前に出した。
違う、僕は……
何が起きているのか全然分からない。だって僕は王子様じゃない。唖然としたまま王子様を見ると、僕にしか分からないように口元が僅かに弧を描いた。
そして耳元で囁かれた。
「お前は生贄だ。俺の代わりをちゃんと務めろよ。このために平民を従者にしたんだ」
僕は声も出せなかった。
そんなのすぐバレるよ……
「我々は国に帰ります」
あっさりと王子様は護衛を引き連れて帰っていった。もしかしてあの護衛たちって、平民の中から選ばれた人じゃなくて、初めからこの計画に組み込まれた王子様を無事に国まで連れ帰るための精鋭の人たち?
平民が一年くらい訓練したからって、王族の護衛なんてできるわけなかったんだ。
611
あなたにおすすめの小説
猫の王子は最強の竜帝陛下に食べられたくない
muku
BL
猫の国の第五王子ミカは、片目の色が違うことで兄達から迫害されていた。戦勝国である鼠の国に差し出され、囚われているところへ、ある日竜帝セライナがやって来る。
竜族は獣人の中でも最強の種族で、セライナに引き取られたミカは竜族の住む島で生活することに。
猫が大好きな竜族達にちやほやされるミカだったが、どうしても受け入れられないことがあった。
どうやら自分は竜帝セライナの「エサ」として連れてこられたらしく、どうしても食べられたくないミカは、それを回避しようと奮闘するのだが――。
勘違いから始まる、獣人BLファンタジー。
異世界オークションで売られた俺、落札したのは昔助けた狼でした
うんとこどっこいしょ
BL
異世界の闇オークションで商品として目覚めた青年・アキラ。
獣人族たちに値踏みされ、競りにかけられる恐怖の中、彼を千枚の金貨で落札したのは、銀灰色の髪を持つ狼の獣人・ロウだった。
怯えるアキラに、ロウは思いがけない言葉を告げる。
「やっと会えた。お前は俺の命の恩人だ」
戸惑うアキラの脳裏に蘇るのは、かつて雨の日に助けた一匹の子狼との記憶。
獣人世界を舞台に、命の恩人であるアキラと、一途に想い続けた狼獣人が紡ぐ、執着と溺愛の異世界BLロマンス。
第一章 完結
第二章 完結
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます
muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。
仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。
成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。
何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。
汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。
もふもふ聖獣様に拾われた不遇オメガは、空に浮かぶ島で運命の番として極上の溺愛を注がれる
水凪しおん
BL
「オメガがいるから、村に災いが降りかかったのだ」
理不尽な理由で村人たちから忌み嫌われ、深い雪の森へと生贄として捨てられた十九歳の青年、ルカ。
凍える寒さの中、絶望に目を閉じた彼の前に現れたのは、見上げるほど巨大で美しい「白銀の狼」だった。
伝説の聖獣である狼に拾われたルカが目を覚ましたのは、下界の汚れから切り離された雲海に浮かぶ美しい島。
狼は人間の姿——流れるような銀髪と黄金の瞳を持つ壮麗なアルファの偉丈夫、レオンへと変化し、ルカにこう告げる。
「君は、俺の運命の番だ」
これまで虐げられ、自分を穢れた存在だと思い込んでいたルカは、レオンの甘く深いアルファの香りと、恐ろしいほどの優しさに戸惑うばかり。
温かい食事、美しい庭園、そして決して自分を傷つけない大きな手。
極上の溺愛に包まれるうち、ルカの心に固く巻きついていた冷たい恐怖の糸は、少しずつほどけていく。
そして、ルカを捨てた村人たちが強欲にも島へ足を踏み入れたとき、ルカは自らの意志とオメガとしての本当の力に目覚める——。
これは、孤独だった不遇のオメガが、伝説の聖獣の番として永遠の幸せと自分の居場所を見つけるまでの、心温まる溺愛ファンタジー。
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる