【完結】王子様の身代わりになった僕は最恐と恐れられる皇帝を肉球で癒す

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1.身代わり生活の始まり

10.

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 皇帝とお昼寝をしていた僕は、コンコンと部屋の扉がノックされる音で起きた。隣にいる皇帝はまだ眠っている。起こした方がいいのか、起こさない方がいいのか迷うところだ。
 気持ちよく眠っている時に起こされると、僕はちょっとムッとしてしまうことがある。でも、皇帝に大事な用事かもしれないと思うと、このままノックを無視してはいけないとも思う。

 起こそう。怒られるかもしれないけど、緊急の用事だったら寝ているのを起こして機嫌を損ねるより大変なことになる。
「陛下」
 僕は小さく呼びかけて、皇帝の少し冷たい頬に触れた。

「ん……」
 起きたかな?
 まだ瞼は閉じたままだ。だけど僕の手に頬がすりすりと擦り付けられている。寝ている皇帝は眉間に皺も寄っていないし、ちょっと怖い目が開いてないから怖くない。頬擦りしてくる姿は弟みたいでちょっと可愛く思えてくる。

「陛下、誰か訪ねてきました。起きてください」
「はっ?」
 皇帝の瞼が急に開いて、血みたいに真っ赤な瞳と至近距離で目が合った。やっぱり機嫌を損ねたみたいだ。震えるくらい怖い目で睨みつけられた。さっきまではなかった眉間の皺も深くなった。

「あの……気持ちよく眠っているところ起こして申し訳ありません。扉の外に誰か訪ねてきています」
「分かった。お前はここにいろ。ベッドから出るなよ」
「はい」
 皇帝は僕の手をぎゅっと握ってから、天蓋を掻き分けて出ていった。
 機嫌は悪そうだったけど、怒鳴られたり手を上げられたりしなくてよかった。

「何用だ?」
 不機嫌を隠そうともしない低い声で、皇帝は扉の外の人に声をかけた。あんな声で話しかけられたら、僕は逃げたくなってしまう。

「西の国との戦況を報告に参りました」
「入れ」
 皇帝が入室を許可をすると、全身黒ずくめの軍人と思われる人が硬い表情で入ってきた。何かを報告しなければならないのだとしても、機嫌が悪い時に皇帝に話しかけるなんて怖いよね。軍人は鍛えているから怖くないのかな?
 僕をお城に連れてきてくれた軍の人たちとは制服がちょっと違う。鎧は重いから脱いだだけかもしれないけど、重そうな鎧や手や足につける防具をつけていない。

 戦争の話なんて僕が聞いても分からないと思うけど、これも帝国の勉強だと思って聞くことにした。
 なんとか部隊ってのが廃村になっている場所で敵と衝突して、被害がそこそこ出たみたいな報告だ。だけど他の部隊が援軍に駆けつけて敵を追い返したのだとか。被害が出たから部隊の入れ替えをしたいってことだった。
 戦っているのは西の国と言っていた。僕の出身国であるエルヴァニアは帝国の中央から見てちょっと東寄りの北に位置する。北北東というのが一番しっくりくる。

 帝国を挟んだ向こうの国となると僕は国の名前すら分からない。どんな人が暮らしていて、どんな風土なのかも分からない。明日にでもエデラーさんに聞いてみよう。計算だけでなく、エデラーさんに帝国の歴史や地理なども教えてもらえることになっている。

 どんな国と戦っているのかは知りたい。エルヴァニアは戦争と無縁だった。だからなぜ戦っているのかも聞いてみたいけど、戦いの理由は聞いていいのか分からない。戦いの理由は聞けなくても、周辺にどんな国があるのかだけでも知っておこうと思った。

 機嫌が悪そうだと思っていたけど、皇帝は報告に来た人を怒鳴りつけたり、無茶なことを言ったりはしなかった。報告に来た人が部屋を出ていくと、皇帝は小さくため息をついてベッドに戻ってきた。

「手」
「どうぞ」
 皇帝は僕の手をふにふにと触りながら寝そべって話し始めた。

 西の国はヴェスト公国という人間の国で、人間以外の獣人や亜人を認めていない。それは国の方針だから勝手だけど、帝国から竜人族を度々攫っていくのだとか。

 なぜ獣人や亜人を認めていない国が、わざわざそんなことをするのか僕には分からない。
 帝国の人間をヴェストに潜入させたら、人間より力が強い竜人族を奴隷として働かせていたそうだ。しかも人間以外を認めていないため、竜人族の奴隷は酷い扱いをされていたらしい。力が強い竜人族がなぜ他国の人間に従うんだろう?
 竜人族であっても、全員が屈強な軍人みたいな人ではないのかもしれない。

「逃げられないのですか?」
 僕は少し不思議に思って、思わず皇帝に質問をしてしまった。勝手な質問をして怒られるかな? 皇帝の顔をチラッと見たら、特に気にする様子はなかった。いつの間にか眉間の皺も伸びている。

「逃走したり逆らったりできないよう、特殊な魔道具を嵌められている」
 そんなものがあるなんて怖い……僕はそういう魔道具を嵌められていない。嵌められていないからって、逃げようとは思っていないけど、僕の扱いってどうなんだろう? もしかして奴隷ってやつ?

 
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