【完結】王子様の身代わりになった僕は最恐と恐れられる皇帝を肉球で癒す

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1.身代わり生活の始まり

11.

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 僕が生まれたエルヴァニア王国にも奴隷制度はある。だけどエルヴァニアの奴隷は、犯罪奴隷と借金奴隷だけだ。罪を犯した人が罪を償うために鉱山へ送られて仕事をしたり、借金を抱えてしまった人が給料なしで返済が終わるまで働くという制度だ。
 犯罪者でもなく、借金もない人が連れ去られて働かされるなんてことはない。

 実は僕はそんな制度があるなんて知らなくて、帝国に行く前に王城で先生に教えてもらった。
 教えてもらった当時はそんな制度もあるんだって感心していたけど、皇帝からヴェスト公国の話を聞いて少しだけ疑いの気持ちが出てきた。
 第二王子のアルバン様は僕に命の危険がある身代わりを押し付けた。この立場って奴隷より酷いと思う。
 だけどきっと彼が捌かれることはない。だから僕は少しだけ疑ってしまうんだ。

 皇帝の話を聞いて、僕が帝国に抱いていたイメージが少し変わった。
 帝国は戦争が大好きで、各国に戦争を仕掛けて領土拡大に勤しんでいるって聞いていた。だけど今聞いた話では西の国が悪い。国民を攫われて黙っていられるわけないんだ。
 僕だって弟や妹を攫われたら泣き寝入りなんてしない。取り返すためならなんだってする。

「これからしっかり報復の計画を立て、完膚なきまでにヴェストを潰す」
 また皇帝の眉間の皺が深くなっていくのを僕は黙って見ていた。少し空気が重い。

「アル、恐ろしいか?」
「いいえ」
 ここは肯定してはいけないところだ。いつも皇帝の考えには忠実にいようと思っているけど、全てを「はい」と肯定してはいけない。
 僕が否定を口にすると、皇帝は満足そうにふんっと鼻を鳴らしてニヤリと怪しい笑みを浮かべた。これでいいんだよね?
 恐ろしいかと聞かれて恐ろしいとは言えない。

 攫われた国民を助け出したり、攻撃を受けて怪我を負った人を回収するだけでなく、皇帝は報復すると宣言した。
 僕が帝国に抱いていたイメージは変わったと思ったけど、分からなくなった。イメージ通りとも違うけど、全くイメージとかけ離れているというわけでもない。
 やっぱり皇帝は最恐と謳われるだけのことはあるし、さっきの質問には否定の返事をしたけど、正直恐ろしいと思った。

 なんだか今は、ちょっとだけ皇帝の周囲に黒いもやが見える気がする。
 でも気のせいだと思ってゴシゴシ目を擦ると、次の瞬間には見えなくなっていた。やっぱり気のせいだ。

 それにしても皇帝はなぜ僕にこんな話をしたんだろう? 僕は戦えないし、戦争のことなんて全然分からない。ヴェスタ王国のことだって知らなくて、そんな状況だったことに驚いた。僕は皇帝にとってなんなんだろう?

「アル、さっき何かしたか?」
「さっき?」
 何かしたかと聞かれてもいつの話で何についてのことか分からず、僕は首を捻った。

「昼寝の時だ」
「ごめんなさい。気持ちよく寝ていました」
「謝ることはない」
 そうなの? 眠ってしまった以外は特に何もしていないけど……いや、何もしていないことはない。

「あ……人が訪ねてきたので、皇帝の頬に触れました。勝手に触れてごめんなさい」
「それくらいは構わない。俺を起こそうとしたのだろ?」
「はい」
 よかった、怒られるかと思った。僕は皇帝の言葉の一言一句に怯えている。僕のたった一言で、皇帝のたった一言で、僕の命なんて簡単に消えてしまうんだ。

「起こそうとした、か……」
「起こさない方がよかったのでしょうか?」
「そうではない。俺がノックにも気づかないほど深く眠るなど珍しいと思っただけだ」
「そうですか」
 だから僕に何かしたかと聞いたんだ。僕は何もしていないけど、薬師のおじさんが言っていた空が明るくて頭痛がマシと言っていたのと関係あるのかな?
 普段は深く眠れないのなら、深く眠れたのはよかったってことにしておこう。

 皇帝は僕の手を触りながら少し話をすると、部屋を出ていってしまった。
 僕はどうしようか迷った挙句、エデラーさんにもらった計算問題を解くことにした。
 時間がなくて解けなかった問題、どうやって解くのか分からなくて解けなかった問題。
 たくさんあるけど考える時間はたくさんある。

 本当は『竜に乗った少年』の本を読みたかったけど、本棚の高いところに戻されていて、僕では届かなかった。

 
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