【完結】王子様の身代わりになった僕は最恐と恐れられる皇帝を肉球で癒す

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1.身代わり生活の始まり

12.

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 テーブルで計算問題を解いていると、少し部屋の気温が下がってきた。
 窓の外を見るともう真っ暗になっている。皇帝はいつ戻ってくるんだろう?
 まさか何日も戻らないってことないよね?
 それにしてもこの部屋は昼間みたいに明るい。魔導灯が灯されていることは分かるけど、僕では届かない位置にあるし、僕は魔導灯を灯していない。
 勝手についたの?

 カチャッ
「アル、夕食はまた部屋でいいか?」
「はい」
 皇帝が戻ってきた。
 皇帝の周りにまた少し黒い靄のようなものが見える。暗いから?
 それとも、竜人族は黒い靄を纏う性質を持っているんだろうか?
 あまりよいものではない気がするんだけど、それは僕が見慣れていないってだけの話かもしれない。

 このことは聞いていいんだろうか?
 余計なことかもしれないから、もし皇帝がニコニコして機嫌がいい時があるなら、その時に聞いてみよう。
 今はちょっと眉間に皺を寄せているから、あまり機嫌はよくなさそうだ。

 今日もメイドが食事をワゴンで運んできた。
 毒見はどうしようかと悩んでいると、「毒見はしてやるから安心しろ」と言われてしまった。僕ってそんなに分かりやすいのかな?

 今日も皇帝は大きなお肉の塊にフォークをグサッと刺して齧り付いて食べている。ナイフは使わない主義なのかな?
 僕はこんなに大きなお肉は噛み切れる気がしないから、ナイフで小さく切っていただいた。
 でもパンは皇帝みたいに千切らずに大きいまま齧り付いてみる。チラッと皇帝を見たけど、僕を咎めることはなかった。

 でも僕は王子様ってことになっているから、こんな食べ方をしてはいけないかもしれない。やっぱりお上品に小さく千切って食べることにしよう。

「俺の真似をして食べてみたのか? お前は面白いな」
 皇帝はなぜか機嫌がよくなったみたいで、眉間の皺が薄くなった。チラッと見える牙はちょっとだけ怖いけど、僕に齧り付いたりはしないから気にしないことにしよう。

 夜が更けてくると少し緊張した。また体がバラバラになるみたいな犯され方をするんだろうか?
 痛くて苦しくて、思い出すだけでちょっと体が震えそうになる。

「風呂に行くぞ」
 皇帝に声をかけられると、僕はビクッとしてしまった。
「はい」

「今日はしないから安心しろ」
 そうなんだ……今日は気分じゃないのか。毎日するものでもないのかもしれない。
 しないとしても、お風呂は嫌だな……
 断ったら怒られるかもしれないし言えないけど、できるだけ耳が濡れないようにしよう。

 僕が少し躊躇っていると、「早く来い」と怒られてしまった。
 竜人族ってのは水浴びが好きなんだろうか?
 ハーブの束を入れたお湯の匂いは嫌いではないけど、やっぱり水に濡れるのはちょっと不快。
 雨が降った日みたいに湯気で耳の先の毛が丸まって、ちょっと気持ち悪い。

 少し憂鬱になりながら、僕はサッと自分の体を洗って皇帝の大きな背中とか腕とか色々洗った。
 皇帝の前についてるものは、僕のと比べて異質だ。そこだけ別物をくっ付けたみたいに、なんていうかちょっと凶器にも見える。だからそこだけはちょっと怖くて洗えなかった。洗えと言われたら洗うしかないと思っていたけど、特に何も言われなかった。

 お湯に浸かるの嫌だな……水が飛び散って絶対に耳にかかるんだ。僕は覚悟を決めてザブンと入ってすぐに出た。覚悟を決めたつもりだったけどやっぱり無理だった。ちょっと耳にかかったお湯が気持ち悪い。今すぐに拭きたい。

「早いな。湯が嫌いか?」
 そんなこと聞かれても困る。お風呂が嫌いって言っていいんだろうか?
 お風呂が嫌いって言ったら、お風呂に入らなくていいの?
 分からないけど、怒られそうなことは言いたくない。そんなことないって言って、じゃあもっと浸かれって言われても困る。
 僕は「早いのが好きです」と自分でも意味が分からない回答をしてタオルを手に取った。

「俺は変温だから、冷たいのも温かいのも好きだが、猫科は違うのか。ふむ」
 怒られはしなかったけど、あの答えが正解だったのかは分からない。怒られなかったからいいや、なぜか分からないけど、僕の答えに皇帝は納得してくれたってことだ。

 
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