【完結】王子様の身代わりになった僕は最恐と恐れられる皇帝を肉球で癒す

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2.猫の王子(グレオン視点)

22.

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 アルの計算の試験が終わった頃に薬師がやってきた。
 今日はいつもの不味い薬を飲んでいないのに、頭痛が軽い。

 いつもであれば朝起きたときから頭は重く、朝食後は少し落ち着くが、薬師がやってくる頃には重さよりズキズキと痛みが響いている。今日も痛みが全く無いわけではないが、かなり軽い。
 近頃は薬の効果が切れるのも早かった。不思議なこともあるものだ。

 窓の外を見ると、いつもより明るい。この季節はいつも空は灰色の雲に覆われていて、昼間でも場所によっては灯りが必要になるくらいだ。
 部屋の奥にある魔導灯に目をやると、灯りはついていなかった。灯り無しでこの明るさか。
 それは頭痛が軽いわけだ。

 理由は分からないが、天気がいい日は頭痛が少しマシになる。そういえば俺の父も生前そんなことを言っていた気がする。
 父も俺と同じように頭痛を抱え、薬師の世話になっていた。血筋なのだろう。

「お前も聞くか?」
「はい」
 俺がアルの横に立って告げると、一緒にソファへ移動する。なぜ彼を同席させたのか自分でも分からない。ただの気まぐれで、いつもより俺の機嫌がよかっただけの話だ。
 エデラーがコソコソとアルに伝えていたように今日の俺は機嫌がいい。

「調子はいかがですか?」
「今日はいつもより頭痛がマシだ」
「そうですか。今日は空も明るいですし、その影響かもしれません」

 薬師のネルベが言うとおりだ。今日は空が明るい。湿度も低く空気も軽い気がする。
 隣に座ったアルが耳をピクピクさせながら何か考え込んでいるのはいいとして、ネルベがアルに視線を送ったのは気に入らない。

「それでこの方がケットシーの血を引くという王家のお方ですか?」
 ネルベもケットシーの血筋が気になっていたんだろう。そんなもの見れば分かるというのに、なぜわざわざ聞いたのか、そのせいでアルが怯えている。

「別にとって食おうとか、人体実験をしようなんて思っていませんよ」
「勝手に俺の物に話しかけるな。誰が許可をした? そろそろお前も戦場に立ちたくなったか?」

 少し威圧を込めるとネルベはすぐにテーブルに額を擦り付けるように頭を下げた。こいつの代わりなどいくらでもいる。俺の頭痛を治すこともできないような薬師をいつまでも雇っているのは考えものだな。
 ネルベが来るのは大抵、頭痛が酷く上手く思考が働かない時だ。とにかく早く薬が欲しくて、それしか考えていなかった。

 ネルベなど戦場に立たせてもよい働きができるとは思えない。それなら衛生兵として送った方が役に立つ。ネルベを戦場へ送るかどうかは別として、俺の担当薬師は他の者との交代を考えておこう。

 薬を拒否してネルベを部屋から退室させた。あいつが作る薬より、幾重にも重ねられた天蓋より、よく眠れるとかいうキャンドルより、アルの手の方がずっと俺のことを癒してくれる。

「手」
「はい」
 そっと差し出された小さな手。温かくプニプニと柔らかい手は、本当に癒しだ。

「お前の手は心地いい」
「そうですか。褒めていただけて嬉しいです」
「俺が呼べばすぐ来い」
「はい」
 アルは自分の手のひらに視線を落としたまま、少し目を細めた。

 そしてアルは欠伸をした。
 俺の前で欠伸をするなど! と普段なら怒り心頭だが、アルなら仕方ない。アルは本来であれば今日はベッドで過ごすべきだった。きっと今も体が辛いんだろう。今日の俺はそんなふうに人を気遣う余裕がある。悪くない日だ。

「申し訳ありません」
 怯えたように頭を下げるアルのことは、やはり休ませるべきだと思った。

 エデラーも下がらせ、アルの手を引いてベッドへ向かう。
 きっとアルは俺が寝ろと言わなければ、我慢するんだろう。

「ほら、昼寝だ」
 俺が横になると、アルも少し迷いながら隣に横になった。
 温かいアルを引き寄せたことまでは覚えているが、俺はそのまま眠っていた。

 
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