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2.猫の王子(グレオン視点)
23.
しおりを挟む人が来たとアルに起こされるまで、俺はすっかり眠っていたんだ。誰かに起こされるなど久しぶりだ。近頃は特に眠りが浅く、ノックの音や人の気配で簡単に目が覚めてしまう。
「何用だ?」
「西の国との戦況を報告に参りました」
「入れ」
報告は我が国の西にあるヴェスト公国側の国境に近い廃村で敵と衝動したという話だった。
あの廃村は我が国から攫った人々を一時的に隠す場所として昔使われていた。今でも使われているか調査に行ったへーネスの調査部隊が敵と鉢合わせた。
怪我人が多く出たへーネスの部隊を引き上げ、他の部隊と交代させたいという申出には許可を出した。
我が国が誇る軍隊は、総勢五十万人。現在戦っている国はヴェストだけではないが、ヴェストにだけ人を割いていては他が保てない。だがあの国だけは決して許さない。
ヴェストの相手には人間の部隊を当たらせている。戦いの中で竜人族が拐われたことがあるからだ。
人間より竜人族の方が力があるから、できれば竜人族も投入したいが、拐われるリスクを冒すくらいなら、人を増やした方がいい。交代だけでなく追加投入も考えるか。
ヴェストから救出された我が国の者たちの話を思い出すと、沸々と怒りの炎が燃え上がる。
奴らは竜人族を人だとは思っていない。奴らの国で開発された人を支配するという魔道具、反抗すると雷に打たれ、力の強い竜人族でも簡単には抜け出せないそうだ。それでも反抗すると麻痺毒を打たれる。
食事も寝床も酷く、家畜以下の扱いをされたと聞いている。
頭の中を黒い霧が支配し始める。これは俺が闇魔法の使い手だからだろう。
心を落ち着けたくて俺はアルがいるベッドに戻った。てっきり眠っているかと思っていたが、彼は起きていた。
「手」
「どうぞ」
この小さく柔らかい手は、人を殺したことなどないんだろう。ぬくぬくと綺麗な王宮で大切に育てられ、戦いも知らない。悪意も知らないのかもしれない。
そう思ったら、ヴェストのことを話していた。
「これからしっかり報復の計画を立て、完膚なきまでにヴェストを潰す」
また俺の頭の中を黒い霧が支配し始めた。こんな話をしたら、ますます俺のことを恐れるか? 俺から逃げたくなるか?
「アル、恐ろしいか?」
「いいえ」
強いな。恐ろしいだろうに。震えそうになるのを我慢しているように見える。健気なものだ。
俺は周りの怯える者たちに同じような質問をしたことがある。
「俺が恐ろしいか?」という質問は「はい」か「いいえ」で答えられるような簡単な質問だ。小さな子どもでも分かるほど単純で明解。
それなのに、大半は言い淀み、はっきりと答えることはない。
アルはいい。怯えはするが、俺の質問にしっかり答えを出す。時間を無駄にはしないところは評価に値する。
俺は気になっていることがある。昨夜もさっきも、俺は深い眠りについた。今まで色々な方法を試しても効果が出ていると実感できたものはない。いつもと違うのはアルがいることだ。アルが魔法か何かを使ったのだと思った。
「さっき何かしたか?」
「さっき?」
唐突すぎたか? 俺は答えを急いでいた。眠りの魔法をかけられたのなら、その効果はかなり高い。そして俺の脅威にもなる。
「昼寝の時だ」
「ごめんなさい。気持ちよく寝ていました」
惚けた様子で首を傾げる彼からは、嘘の匂いがしなかった。本当に何もしていないのか?
だとするとやはり天候だろうか?
「あ……人が訪ねてきたので、皇帝の頬に触れました。勝手に触れてごめんなさい」
「それくらいは構わない。俺を起こそうとしたのだろ?」
「はい」
俺は彼の手を取り、自分の頬に当ててみた。温かくて気持ちいい手だ。なぜか安らぎを感じる。まだ出会って間もないというのに、懐かしささえ感じる。アルの手は不思議な手だ。
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