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3.静かに過ぎる日常
28.
しおりを挟む皇帝に抱き上げられて部屋に戻ると、ソファの隣に座らされた。なんとなくいつもよりも距離が近い気がする。
「さっきアルが言ったことが本当なら、まさかとは思うがアルは光魔法が使えるか? それはないか。光魔法を浴びて育ったんだろうな」
「使うことはできませんが適性はあります」
「適性はあるが使えない?」
皇帝は僕を怪訝な顔で見つめたけど、これは本当のことだ。神殿で適性があることが分かったけど、エルヴァニアには光魔法を使える人がいないとかで教わることができなかった。だから僕は使ったことがない。
光魔法を浴びて育ったというのはなんだろう? 僕は一度も光魔法なんて浴びたことはないし見たこともない。
「神殿で適性があることが分かりましたが、教えてくれる人がいませんでした」
「そうなのか?」
「はい」
皇帝は難しい顔をして考え込んでいる。光魔法を使えたらどうなるんだろう?
「書庫で調べてみよう。何か光魔法に関する本があるかもしれん」
「はい」
エルヴァニアに比べて帝国は大きい。エルヴァニアにはいなかったけど、帝国には光魔法を使える人がいるのかもしれない。いなくても、使い方が書かれた本がありそうだ。
適性があると言われただけで使うことができない僕の光魔法も、もしかしたら使えるようになるんだろうか?
日の光を出したとして、なんの役に立つのかも分からないけど、違うことに使えたりするのかもしれない。そうだったらいいな。
皇帝と向き合って夕食を食べることにも慣れた。皇帝はいつものように大きな口を開けて肉の塊に齧り付く。
僕はいつものように小さく切って食べている。少し面倒ではあるけど、僕は王子様ってことになっているからこれを続ける必要がある。
食事中も皇帝はずっと難しい顔をしていた。光魔法と闇の魔力のことだろうか?
僕には何も分からないけど、できれば食事は楽しく食べてほしい。眉間に皺を寄せている皇帝にそんなことを言う勇気は僕にはないけど……
僕はその後もしばらく物資の送り間違えの件で軍に通った。
皇帝からは、その後は闇の魔力のことも光魔法のことも聞いていない。調べてくれているのか、他のことで忙しいのかは分からない。
「アル様、これ見て。箱を作ってみたんだ!」
そこに並べられたのは、西と東と南のそれぞれの戦場の色をつけた箱だった。
色を分けて、これからは紛れ込んだりしないよう箱も分けることにしたのだとか。
「これで物資の送り間違いはなくなりますね」
「色を分けるってところから発想を得て、資料の整理までできちゃったよ。本当に感謝してます!」
そんなに感謝されるとなんだか擽ったい。
物資の送り間違いからしばらくは忙しかったけど、やっと不足分を送って、余っているものの回収と再配分が終わった。
部長は報告書を仕上げると言って机に向かっている。
僕の軍での仕事もしばらくはないだろう。計算の間違いを修正するくらいだ。
「陛下、軍の物資の送り間違いの件、対応が終わりました。近いうちに部長が報告書を持ってくると思います」
「そうか。アルよくやった」
軍の会計のみんなにはたくさん感謝してもらったけど、皇帝にまで褒めてもらえるなんて嬉しい。役に立って褒めてもらえることがこんなに嬉しいなんて知らなかった。
「お前はそうしていつも笑っていろ」
「はい」
可笑しくもないのに笑うなんてできるか分からないけど、今日も皇帝は機嫌がいいみたいだ。
そっと手を取られて、皇帝は僕の手に頬を寄せた。これ、皇帝はたまにやるけどなんだろう?
僕の手のひらを頬に当てるのが好きなんだろうか?
そういえば妹も僕の手を頬に当ててすりすりしていた気がする。
機嫌がよくなるならいいんだ。
光魔法のことはどうなったんだろう?
エルヴァニアには使える人がいなかったし、帝国にも資料は少ないんだろうか?
今までも使えなかったんだし、いつか使えるようになったらいいな。気長に待ってみよう。
軍のことが一段落すると、僕はまた皇帝の部屋で皇帝と二人で過ごすことが多くなった。たまにエデラーさんが帝国の歴史や地理、周辺国のこと教えにきてくれる。でも最近は雑談が多いかもしれない。それも僕にとっては楽しみの一つだ。
各所から送られてくる書類の再計算や修正をしながら部屋で過ごす。今日も空は分厚い雲が覆っていて青い空は見えない。
帝国は晴れの日が少ない。なぜかは分からないけど、いつも曇っていて、雨もよく降る。
今日は耳の先の毛が丸まってきているから、雨が降るかもしれない。毛が丸まるの嫌だな……
そんなこと誰に文句を言っても仕方ないんだけど、とにかく湿度が高くて毛が丸まるのは不快だ。いつ晴れるんだろう?
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