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6.打ち明けるとき(グレオン視点)
45.
しおりを挟む魔獣の間引きは毎年この時期に行われる。去年も一昨年も、雨で視界が悪い中で行われたせいで、怪我人も多く被害は大きかった。十日も雨の森を駆け回って、百にも満たない数しか討伐できなかった。
だがここ最近は晴れの日が続いている。光魔法の適性を持つアルを迎えたことが関係しているんだろう。
森に入るため、アルに革の防具を取り寄せた。届けられた革の胸当てなんて、まるで子ども用みたいに小さい。
魔獣を相手にするのだから絶対安全とは言えない。だが澄んだ空気と開けた視界は俺たちに有利に働く。アルのそばには俺がいるのだから危険などない。俺はこのとき信じて疑わなかった。
天候に恵まれているせいか、討伐は順調に進んだ。
だが、アルが真っ青な顔をして俺に何かが来ると訴えたときから事態は急変した。
拠点とした場所に残った者で迎撃体制を整え、念のためとアルを大楯で囲ませた。少しすると本当にヤバイ奴が空から来た。獅子の体に鷲の顔と鋭い鉤爪、グリフォンだ。
こんなところで戦えるのか? 追い払うか、それとも倒すか、一瞬迷ったが攻撃を向けられると倒す一択になった。
「大楯! アルを守れ!」
大楯にアルを囲ませ、俺はグリフォンの元へ向かった。
弓や攻撃魔法が使える奴らに指示を出しグリフォンを降下させると、俺は闇魔法を使った。
こんなでかい奴を一人で押さえ込むのは正直きつい。だが、俺が押さえなければアルを危険に晒すことになる。
くっ……
かなりの魔力を持っていかれ、闇に支配されそうになった。ダメだ、アルを守らなければ……
無茶をした認識はあるが、グリフォンが息絶え魔法を解除すると、闇の魔力の残骸に押し潰されて地面に倒れた。
頭が割れそうに痛い。このまま闇に飲み込まれた方が楽かもしれないと思うほどだ。
「陛下、死なないで!」
必死になって闇の魔力を払うアルの姿に、楽な道を選ぶほど愚かなことはないと思い知った。
苦しくても、アルのために抗ってやる。
なんとか脱すると、アルは闇魔法のことを聞きたがった。
エルヴァニアが光魔法を秘匿するように、闇魔法も我が国の者だけが使える魔法だ。竜人族だからといって全ての者が使えるわけではないが、使える者はそれなりにいる。
たまに人間でも使える者がいるのは不思議だが、そういうものなんだろうと思って詳しく調べたことはない。
当たり前のように近くにあったせいで、アルが闇魔法を知らないということに気づかなかった。我が国が抱える闇の魔力の問題も知らないんだろう。アルには知ってほしいような、知ってほしくないような……
俺がいずれ闇に飲み込まれると知ったら、アルはどうするんだろう?
今も俺の周りに漂う闇の魔力を払おうと、アルは空中に向かってパンチを繰り出している。
あれだけ強い闇魔法を使った後だ、まだしばらくは闇の魔力が俺の周りを漂うだろう。そんなときは誰も俺に近づかないんだが、アルはわざわざ近寄ってきて闇の魔力を払う。
本当にアルは予想できない行動をとる。
「アル、おやすみ」
「陛下、おやすみなさい」
今日はあれだけの魔法を使ったんだから眠れないだろう。熱めの湯に浸かったのに、体温もまだ低いままだ。
だが、温かいアルを抱きしめて横になっているだけで、体を休めることはできる。
俺は目を閉じて、アルを腕の中に閉じ込めた。
*
「父上、古い本を見つけたんです」
「そうか」
父上は雨の日は顔を歪めて苦しそうにしていることが多い。俺の手はまだ小さく、父上を救うことはできない。だけど少しでも気分が晴れるような話をしたいと思った。それで先日見つけた『竜に乗った少年』の続きのような本の話をした。
「グレオン、外に出ろ」
「え? 外は雨ですよ」
父上がなぜ雨の日に外へ出ろなどと言ったのか分からなかった。
意味が分からないと戸惑っていると、すごい力で腕を掴まれ、有無を言わせぬ雰囲気で引きずるように城の裏に連れて行かれた。
石畳は古く、石が剥がれている箇所もある。誰かが立ち入ることはほとんどない寂れた場所。
城の表に広がるきっちりと手入れされた庭園とは違い、石を積んで作られた壁には蔦が絡まっているし、石畳の隙間から伸びる雑草も手入れされず伸び放題だ。
「父上、腕が痛いです」
父上は背を向けて肩を振るわせていて、怒っているのか泣いているのか、ただ寒いだけかは分からなかった。
そして俺は父上に殴られた。
腕を振り解かれたと思ったら、硬い拳が飛んできた。鈍い音とゆっくり流れる景色、冷たい雨を感じたと思ったら地面に叩きつけられ、遅れて痛みが襲いかかってくる。
「エルヴァニアなど信じるな!」「王女を迎えたのに父上は闇に飲まれて私の前で命を絶った。光魔法など嘘だ。絶対に信じるな!」「闇に支配されても決して信じるな!」「私に光魔法の話をするな!」
雨の中、俺は父上に殴られ続けた。俺への怒りというよりは、闇を癒すと言われる光魔法と、エルヴァニアへの恨みのように感じた。
冷たい雨と、硬い石の感触。俺は起き上がることもできず、ただ痛みと悔しさに耐えていた。
そうか……
幼かった俺はあの日、理由もなく父に殴られたのだと思っていたが、そうではなかった。
俺に当たるのは筋違いではあるが、父の苦しみや嘆きは行き場を失って溜め込まれていった。それが俺の発言をきっかけに爆発したんだろう。
頭が割れるように痛い。体は重く指先一つ動かせないし、凍えるように寒い。まるであの時、雨に打たれながら悔しさを抱え、地面に倒れていることしかできなかった時の俺のようだ。
そんな暗く冷たい闇の中に光が差した。懐かしく温かい感触を感じて、瞼だけは動かすことができた。
恐る恐る目を開けたらアルが心配そうに俺を見ていた。──夢か。
激情をぶつけたいのではなく、アルの温もりに深く触れたくて、抱きたいと言った。
アル、俺を救ってくれ。
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