【完結】王子様の身代わりになった僕は最恐と恐れられる皇帝を肉球で癒す

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9.妃の誕生

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 皇帝の部屋は大きくてなんでもある。本もあるし、綺麗な置物もある。窓からお城の庭が見えるし、好きな時に食べていいとフルーツや軽食も用意されている。何も不自由なことなんてないけど、人がいないのは寂しいんだ。
 たまに経理や軍から僕に仕事が回ってくるけど、それが終わればもうやることはなくなる。

「いよいよ発表だ。長かったな」
 なんの話をしているのか分からないけど、皇帝から何かが発表されるらしい。

 皇帝はずっと僕の髪を撫でている。
 皇帝は僕の手や体が好きだけど、髪も好きだ。僕も皇帝の少し冷たくて大きな手で撫でられるのは好きだ。

 翌日になると皇帝は、初めて会った日に着ていた真っ黒な何かの革でできた艶々の服を着た。宝飾品もいくつか纏うととても豪華で皇帝らしい。なぜか僕まで王子様みたいな豪華な服を着せられた。

「謁見室に行くぞ」
「僕は平民なので一緒には行けません」
「俺に逆らうのか?」
「いいえ、逆らいません」
「なら黙ってついて来い」

 皇帝は僕の手を掴んで引っ張るように歩いていく。今日は何か大事な発表があるんじゃないの?
 まさか正式に僕を処刑することを決めたとか……

 何が起きるのか分からず、とても不安だ。僕は自分の身を自分で守ることができない。剣も持っていないし、魔法だって使えない。パンチはできるけど、屈強な軍人に比べたら攻撃力はとても低い。

「俺のそばにいろ。離れることは許さん」
「はい」
 僕はそのまま皇帝について謁見室の豪華な椅子の横にいることになった。謁見室には多くの人がいて、僕だけ場違いみたいだ。みんなの目が怖い。だって僕は皇帝を欺いていたんだ。こんなところにいていいわけがない。

 皇帝が何か話していて、ザワザワとしていたけど、僕は何も聞かないようにした。ぎゅっと目を閉じて何も見ないし聞かない。
 きっと聞こえてくる言葉は全部僕に対する罵りだと思ったから。

「行くぞ」
 皇帝に手を取られ、部屋に戻る。もう終わったんだ。怖かった……

「疲れたか?」
「いいえ、大丈夫です」
「嬉しいか?」
 なんのことを言っているのか分からなかったけど、そういうときは肯定するに限る。僕は「はい」と答えた。
 そうしたら皇帝は満足そうに頷いた。よかった、間違えてなかった。いつもの困った顔じゃない。

 結構長いことそばにいるのに、今でも皇帝が喜ぶことは分からない。
 怒ることはなんとなく分かるけど、喜ぶことは本当に分からない。肯定して従うだけではいけないってところが難しい。

「お前にこれをやろう」
「ありがとうございます」
 皇帝に手渡されたのは一冊の本だった。表紙には文字は書かれていない。草原と太陽の絵が描かれてるだけだ。

 僕は受け取った本をめくってみた。
 これ……光魔法の使い方だと分かった。
 ところどころ、エルヴァニアの古い言語が使われている。僕は父から教えてもらったけど、古い言語で書かれた本は初めて見た。

「全部読めるか?」
「はい。全部読めます」
「さすがだな」
 王子様の従者の勉強の時にも、この古い言語は教えてもらっていない。読める人は少ないんだろう。特に帝国では読める人がいないのかもしれない。

「エデラーが魔力のことについては教えると言っていた。だが光魔法はエデラーも見たことがないそうだ」
 そうだと思う。光魔法を独占していたエルヴァニアでも教える人がいないと言っていたくらいだ。

「練習してみます」
 僕はその日から本をじっくり読んだ。

 この本には使い方だけでなく、エルヴァニアでケットシーの血を継いだ王家が何をしてきたのかも書かれていた。

 エルヴァニアと帝国がある地は、魔力は多かったけど天候に恵まれず、食物が育ちにくかった。だから代々土地に光の加護を与えてきた。その加護が弱まったときに光魔法を使って加護を与え直す。
 帝国はその加護の恩恵に応えてエルヴァニアを守ってきた。
 こうしてエルヴァニアと帝国は手を取り合って繁栄してきた。

 加護を与えるか。ケットシーは妖精なだけあってそんなこともできるのか。
 ケットシーの血を継ぐ者であれば、光魔法の適性がなくても加護を与えれば光の効果が出るそうだ。国に滞在することで豊穣に恵まれるようになる。

 だから光魔法の適性がある人が生まれなくなって、エルヴァニアは天候不良が続くようになったのか。加護が弱まってしまったんだろう。この先のエルヴァニアはどうなってしまうんだろう……

 帝国は最近、晴れの日が続いている。僕はいつもの窓辺のソファに座って青い空を眺めた。
 皇帝から、今年は農作物の収穫が増えると聞いていた。なぜ帝国は持ち直したのか気になる。

 
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