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10.真実と一方通行(グレオン視点)
65.
しおりを挟む──またしても握手した者を虜にした。これからは手のひらまでしっかりと鋼鉄で覆ったガントレットを装着させたい。
フランなんとかという王子を愛した皇帝のように、俺もアルに手のひらまでしっかり鋼鉄で覆うガントレットを装着させたくなってきた……
アルの手は奇跡みたいな手だ。
プニッと柔らかい手のひらもそうだが、光魔法で闇の魔力の残骸を消し去る。
俺の婚約者となったアルには誰も手を出したりしないが、闇の魔力を浄化する時だけは、しっかり監視しておかないと危険だ。
握手が長い奴は即座に引き剥がす必要がある。
少し強引ではあったが、アルは俺との結婚を受け入れた。ただし本当に心から受け入れているのかは怪しい部分がある。
愛していると言うが、心がこもっているとは言い難い。
「僕はグレオン様のお部屋にずっと住んでいていいんでしょうか?」
婚約を発表して間もない頃にそんなことを言われた日には、婚約したのは俺の夢の中の出来事かと思った。
まさか結婚したら別居したいなどと言わないよな?
「お前は堂々と俺の隣にいろ」
「僕は平民だし、道具としてあなたのそばに仕えます」
「違う。俺と結婚しろ」
「え? 決闘ですか?」
決闘? アルは頭がおかしくなってしまったのかと心配したほどだ。大丈夫だよな?
もしくは俺を試しているのか?
大聖堂での結婚の日取りを決め、衣装も出来上がった。帝国では代々、皇帝とその妃は揃いのバングルを腕に装着する。そのバングルも仕上がってきた。
だがアルは日々変わりなく過ごしている。焦るでもなく、浮かれるでもない。俺はかなり浮かれているというのに、いつもと同じ様子のアルに、少し冷静になった。
愛しているかと問うと「愛している」と返ってくる。嬉しいかと問うと「嬉しいです」「光栄です」と返ってくる。
何も不満はないはずなのに、焦りを感じることがある。
俺は遊ばれているのか?
だがアルは俺に従うし、決して反抗的な態度を取ることはない。真面目に光魔法の練習をして、帝国のことを学び、各所から届く書類の計算をこなす。
結婚したら変わるだろうと結婚式を急いだのは失敗だったかもしれない。
アルの栄光を取り戻すには時間が足りず、結婚式までに間に合わなかった。エデラーの影がアルの家族を守っているから、急ぐことよりも確実さを優先したせいもあるだろう。
結婚式当日、アルは驚いた表情を見せた。大聖堂の巨大な竜の像や金色の宝飾に驚いたのかと思ったが、誓いの言葉を述べた俺を驚きの表情で見た。
まるで本当に結婚するなんて思っていなかったというような態度だ。
そうか、アルに言わせるだけで自分は言わなかったのがいけないんだ! そう気づいた俺は、アルに愛を伝えるようになった。
「愛してる。お前も俺を愛してるだろ?」
「はい、愛してます」
だが結果は変わらなかった。
アルが俺のことを愛していないのかと悩んだこともあるが、それは違うと感じたのは、アルが身籠ったときだ。
治癒師も薬師も、「順調です」などと言うが、とてもそうは思えない。アルが苦しむ姿を見ているのが辛かった。
悪阻がひどく口にできるものが少なくなったアルのために各地からフルーツを取り寄せた。
レモンジュースは口にするから、仕事の合間に俺がスプーンで少しずつ飲ませていた。そんなときにアルは俺の手を払いのけた。
「なんでこんな事するの? もう殺してよ」
「何言ってる。殺すわけないだろ。お前も腹の中の子も、俺の宝だ」
「子? は? 僕は男です。子なんかできません」
俺はアルの言葉に驚いた。殺してくれと言った言葉にも、子ができたことを信じていないことにも。
「男でも子ができる種族を知っているか?」
「知らないです」
「前にも言ったはずだ。ケットシーの血を継ぐ者だ」
「じゃあ僕は違いますね」
そこで気づいた。アルは俺の愛を、俺の言葉を、信じていないということに。
言葉で伝えても信じてもらえなければ、俺はどうしたらいいのか。頭を抱えることになった。
従順なふりをして、アルは本当に頑固だ。
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