【完結】王子様の身代わりになった僕は最恐と恐れられる皇帝を肉球で癒す

cyan

文字の大きさ
66 / 72
10.真実と一方通行(グレオン視点)

66.

しおりを挟む
 
 アルの悪阻が落ち着き、食事が取れるようになれば子ができたことくらいは認めるかと思ったが、そんなことはなかった。
 初めは否定していたが、子の話題を少しでも含めると嫌な顔をするようになった。

 それはそれでいいんだ。俺に素を見せるようになった。少しは気を許してくれているのだと信じたい。

 たまに心が折れそうになる。こいつは愛をくれるのに俺からの愛は受け取らない。

「だいぶ腹が目立ってきたな」
「太ったと言いたいんですか?」
「そんなことは言っていない。そろそろ外に出てみるか?」
「花園に行きたいです」

 アルが花園と呼ぶ場所は、幼い俺が雨の日に父に殴られた場所だ。壊れた塀に囲まれて、絡まる蔦と雑草が生い茂り薄暗い。風通しも悪くジメジメして、何もなくても憂鬱な気分になるような場所だった。

 だが今では色とりどりの花が咲き誇り、日照時間は少ないはずなのに明るい。アルは俺の嫌な思い出を綺麗な花で塗り替えてくれた。
 禁書庫のような新鮮で澱みのない綺麗な空気があり、とても心地いい。

 アルの手を取りゆっくりと歩いていく。俺はアルと結婚してから、アルと俺の歩幅が違うことに気づいた。
 俺が急ぐとアルは小走りになる。だから普段はアルに合わせてゆっくり歩く。急いでいるときはアルを抱えて運べばいいということにも気づいた。
 ここまでしているのに、なぜアルは俺の愛を信じないのか、何が足りないのか分からない。

「あ……」
 アルが立ち止まって怪訝な顔で自分の腹を見た。

「どうした?」
「なんでもないです」

 腹が目立ち始めてもアルは自分の腹に子がいることを信じない。立ち止まったのは腹の中で子が動いたんだろう。腹の中の子は元気そうだ。心音も聞こえるし、アルが気づくほどよく動いている。いい加減認めろ。

 花園へ足を踏み入れると、アルの表情はふっと和らいだ。
 花が綺麗に咲いているのかと思ったら先客がいた。エデラーだ。なぜこいつの顔を見てアルの表情が和らぐのか……

「エデラーさん、お久しぶりです」
「アル様、お元気そうでなによりです」
「少し太ってしまいました」
「お元気な証拠でしょう」

 なぜエデラーのことは信じるのに俺のことは信じないのか。悔しい気持ちが湧き上がるが、俺は嫉妬に狂うような愚かな男ではない。だが、悔しさはある。

「エデラー、終わったのか?」
「ええ、滞りなく。報告は書面で」
「分かった」

 エデラーからの報告書を受け取ると、なかなかにエデラーはすごいことをしていた。俺はそこまでの指示はしていないぞ。アルのことを我が子、いや年齢的には孫か……のように大切にしているエデラーにとっては、許せなかったんだろう。
 だが、こんな内容はアルに伝えられるわけもない。
 時間はかかったが、これでアルの栄光は取り戻せたはずだ。

 子が生まれたらエルヴァニアの家族に会いにいくことを伝えると、アルは喜んだ。しかし、アルはアルだった……

「グレオン様、最期にご慈悲をいただき感謝します」
「最期などと言うな。これからもずっとお前は俺の隣で幸せを噛み締めていろ」
「まるで僕のことを本当に愛しているみたいですね」

 またそんなことを言う……
 俺の何がいけないのか、俺にはもう分からない。

「愛してる。何度言ったら信じるんだ。お前は本当に頑固だな。いい加減俺の手の中に落ちろ」
「ふふ、グレオン様は冗談が好きですね」
「はぁ……」

 本当に愛しているんだが、俺はまだ信じてはもらえないらしい。

 
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

猫の王子は最強の竜帝陛下に食べられたくない

muku
BL
 猫の国の第五王子ミカは、片目の色が違うことで兄達から迫害されていた。戦勝国である鼠の国に差し出され、囚われているところへ、ある日竜帝セライナがやって来る。  竜族は獣人の中でも最強の種族で、セライナに引き取られたミカは竜族の住む島で生活することに。  猫が大好きな竜族達にちやほやされるミカだったが、どうしても受け入れられないことがあった。  どうやら自分は竜帝セライナの「エサ」として連れてこられたらしく、どうしても食べられたくないミカは、それを回避しようと奮闘するのだが――。  勘違いから始まる、獣人BLファンタジー。

異世界オークションで売られた俺、落札したのは昔助けた狼でした

うんとこどっこいしょ
BL
異世界の闇オークションで商品として目覚めた青年・アキラ。 獣人族たちに値踏みされ、競りにかけられる恐怖の中、彼を千枚の金貨で落札したのは、銀灰色の髪を持つ狼の獣人・ロウだった。 怯えるアキラに、ロウは思いがけない言葉を告げる。 「やっと会えた。お前は俺の命の恩人だ」 戸惑うアキラの脳裏に蘇るのは、かつて雨の日に助けた一匹の子狼との記憶。 獣人世界を舞台に、命の恩人であるアキラと、一途に想い続けた狼獣人が紡ぐ、執着と溺愛の異世界BLロマンス。 第一章 完結 第二章 完結

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます

muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。 仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。 成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。 何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。 汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。

もふもふ聖獣様に拾われた不遇オメガは、空に浮かぶ島で運命の番として極上の溺愛を注がれる

水凪しおん
BL
「オメガがいるから、村に災いが降りかかったのだ」 理不尽な理由で村人たちから忌み嫌われ、深い雪の森へと生贄として捨てられた十九歳の青年、ルカ。 凍える寒さの中、絶望に目を閉じた彼の前に現れたのは、見上げるほど巨大で美しい「白銀の狼」だった。 伝説の聖獣である狼に拾われたルカが目を覚ましたのは、下界の汚れから切り離された雲海に浮かぶ美しい島。 狼は人間の姿——流れるような銀髪と黄金の瞳を持つ壮麗なアルファの偉丈夫、レオンへと変化し、ルカにこう告げる。 「君は、俺の運命の番だ」 これまで虐げられ、自分を穢れた存在だと思い込んでいたルカは、レオンの甘く深いアルファの香りと、恐ろしいほどの優しさに戸惑うばかり。 温かい食事、美しい庭園、そして決して自分を傷つけない大きな手。 極上の溺愛に包まれるうち、ルカの心に固く巻きついていた冷たい恐怖の糸は、少しずつほどけていく。 そして、ルカを捨てた村人たちが強欲にも島へ足を踏み入れたとき、ルカは自らの意志とオメガとしての本当の力に目覚める——。 これは、孤独だった不遇のオメガが、伝説の聖獣の番として永遠の幸せと自分の居場所を見つけるまでの、心温まる溺愛ファンタジー。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

処理中です...