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10.真実と一方通行(グレオン視点)
66.
しおりを挟むアルの悪阻が落ち着き、食事が取れるようになれば子ができたことくらいは認めるかと思ったが、そんなことはなかった。
初めは否定していたが、子の話題を少しでも含めると嫌な顔をするようになった。
それはそれでいいんだ。俺に素を見せるようになった。少しは気を許してくれているのだと信じたい。
たまに心が折れそうになる。こいつは愛をくれるのに俺からの愛は受け取らない。
「だいぶ腹が目立ってきたな」
「太ったと言いたいんですか?」
「そんなことは言っていない。そろそろ外に出てみるか?」
「花園に行きたいです」
アルが花園と呼ぶ場所は、幼い俺が雨の日に父に殴られた場所だ。壊れた塀に囲まれて、絡まる蔦と雑草が生い茂り薄暗い。風通しも悪くジメジメして、何もなくても憂鬱な気分になるような場所だった。
だが今では色とりどりの花が咲き誇り、日照時間は少ないはずなのに明るい。アルは俺の嫌な思い出を綺麗な花で塗り替えてくれた。
禁書庫のような新鮮で澱みのない綺麗な空気があり、とても心地いい。
アルの手を取りゆっくりと歩いていく。俺はアルと結婚してから、アルと俺の歩幅が違うことに気づいた。
俺が急ぐとアルは小走りになる。だから普段はアルに合わせてゆっくり歩く。急いでいるときはアルを抱えて運べばいいということにも気づいた。
ここまでしているのに、なぜアルは俺の愛を信じないのか、何が足りないのか分からない。
「あ……」
アルが立ち止まって怪訝な顔で自分の腹を見た。
「どうした?」
「なんでもないです」
腹が目立ち始めてもアルは自分の腹に子がいることを信じない。立ち止まったのは腹の中で子が動いたんだろう。腹の中の子は元気そうだ。心音も聞こえるし、アルが気づくほどよく動いている。いい加減認めろ。
花園へ足を踏み入れると、アルの表情はふっと和らいだ。
花が綺麗に咲いているのかと思ったら先客がいた。エデラーだ。なぜこいつの顔を見てアルの表情が和らぐのか……
「エデラーさん、お久しぶりです」
「アル様、お元気そうでなによりです」
「少し太ってしまいました」
「お元気な証拠でしょう」
なぜエデラーのことは信じるのに俺のことは信じないのか。悔しい気持ちが湧き上がるが、俺は嫉妬に狂うような愚かな男ではない。だが、悔しさはある。
「エデラー、終わったのか?」
「ええ、滞りなく。報告は書面で」
「分かった」
エデラーからの報告書を受け取ると、なかなかにエデラーはすごいことをしていた。俺はそこまでの指示はしていないぞ。アルのことを我が子、いや年齢的には孫か……のように大切にしているエデラーにとっては、許せなかったんだろう。
だが、こんな内容はアルに伝えられるわけもない。
時間はかかったが、これでアルの栄光は取り戻せたはずだ。
子が生まれたらエルヴァニアの家族に会いにいくことを伝えると、アルは喜んだ。しかし、アルはアルだった……
「グレオン様、最期にご慈悲をいただき感謝します」
「最期などと言うな。これからもずっとお前は俺の隣で幸せを噛み締めていろ」
「まるで僕のことを本当に愛しているみたいですね」
またそんなことを言う……
俺の何がいけないのか、俺にはもう分からない。
「愛してる。何度言ったら信じるんだ。お前は本当に頑固だな。いい加減俺の手の中に落ちろ」
「ふふ、グレオン様は冗談が好きですね」
「はぁ……」
本当に愛しているんだが、俺はまだ信じてはもらえないらしい。
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