【完結】王子様の身代わりになった僕は最恐と恐れられる皇帝を肉球で癒す

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10.真実と一方通行(グレオン視点)

67.

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 アルは臨月を迎えても、腹に子がいることを認めようとしなかった。どこまで頑固なんだ……

「お腹が痛い……僕はもう死ぬのかも……」
「大丈夫だ。子が産まれるんだ」
「そんなわけ……」

 最後まで信じなかったアルだったが、実際に子が生まれてみると、子を胸に抱いて声を上げて泣いた。
 赤ん坊が二人いるみたいで耳がキンキンする。
 だがどちらも俺の宝だ。俺は耳を塞がず耐えた。

「やっと信じたか? 俺の愛も信じろ」
「……信じる。でも……僕は平民でただの猫なのに……」
「説明してやってもいいが、お前は俺の言葉を全然信じないからな。見た方が信じられるだろ。行くぞ」
「どこに?」
「エルヴァニアだ。約束しただろ? 家族に会いに行くぞ」

 俺はエルヴァニアへ行く準備を始めた。アルと我が子に何かあってはいけないと、念入りに街道などを調査していく。金をかけて馬車まで作った。

 とうとう父になった俺は、決着をつけなければならないことがある。今までずっと目を背けてきた。だが、この機会に俺も向き合う決意をした。

「アルフ、ついてきてくれるか?」
「はい」
 アルの手を取り、少し緊張しながら禁書庫へ向かう。禁書庫の空気は光魔法が作用していると思われる。だから俺の妃となったアルを連れて入っても問題ないと思った。

「こんなところがあったんですね」
「ここには歴代の皇帝が記した手記が納められているんだ。皇帝と皇太子は自ら開けて入ることができる」
「僕が入っていいんですか?」
「皇帝である俺が許可する。それに、入ればアルフには分かるはずだ」

 厳重な鍵と生体認証を通過し、禁書庫へと足を踏み入れる。
「あ、これって……」
 アルはすぐに光魔法が作用されていることに気づいた。

「そうだ。ここはアルフが作った花園と似ているだろう?」
「僕とは違う魔力を感じますが、これは光魔法ですね」

「俺の父の話を覚えているか?」
「はい」
「俺は今まで父の手記を一度も開いたことがない。祖父の死に絶望したことは分かっているが、それ以外は分からない。生前は聞けなかった」

 父が正気を保てない日が増え、皇帝の代替わりという話がエデラーと当時の宰相から出た頃でも、俺はまだ父を恐れていた。
 父本人を恐れていたのか、それとも闇に支配されていくことを恐れていたのかは今となっては分からない。

 父がなぜ恐ろしさに拘ったのか、最後の「すまない」という言葉の意味はなんだったのか、知りたい。──知らなければならないと思った。

 この中で一番新しい一冊の手記を手に取った。中身が全て怒りや恨み、嘆きなどで埋め尽くされていたらと思うと手が止まる。

「僕が先に見てみましょうか?」
「いや、大丈夫だ。何が書いてあったとしても俺は受け止められる」
「では一緒に開いて、一緒に読みましょう」

 アルは俺を信じてくれるようになった。まだ全てを無条件に信じてくれるわけではないが、俺の気持ちは少しずつ受け取ってくれるようになってきた。
 そんなアルから『一緒に』と提案されたことがとても嬉しかった。

 アルを膝の上に乗せ、表紙をめくる。
 やはり初めの頃は、目の前で父親が命を絶ったことを嘆き悲しむ内容から始まった。
 俺の父も祖父も、まだ寿命を迎えるような年齢ではなかった。まだ教えてもらいたいことがあったんだろう。

 皇帝となった頃にまだ若かった父は、経験不足だと侮られ、意見を通してもらえないことが多かった。更に「お父上なら……」などと前皇帝と比べられた。
 そこで父は恐怖で支配することにした。強引な手を使い、力で捩じ伏せることで周りは従うようになったが、孤独になった。それを支えたのが母だ。

 そして……父は自分の父親と同じように早く亡くなることを悟っていた。だから若くして皇帝になる俺が侮られないよう、繰り返し伝えた。

 ──皇帝は恐ろしい存在でなくてはならない。

「グレオン様……」
「……父上」
 父にそんな思いがあったことなど全く知らなかった。目頭が熱くなったが、ここで涙を見せては父の思いが無駄になると必死に堪える。


 =====
 八の月 雨の日

 また正気を失ったようだ。
 グレオンに手を上げた。自分が恐ろしい。
 俺は恐ろしい存在でなければならない。直接謝ることはできないが、すまないと思っている。
 許せとは言わない。俺を踏み台に強くなれ。
 =====


 これは……
 俺が殴られた日だろう。この手記をいつか俺が読むことを信じて書いたのかもしれない。俺は初めてアルに当時の話をした。誰にもこの話はしたことがなかった。情けなく恥ずかしい話だが、アルには聞いてほしかった。
「そんなことがあったんですね。『竜に乗った少年』の続きなんて、読んでみたいです」
「見つけたら読ませてやる」
  

 =====
 五の月 雨の日

 エルヴァニアは怪しい。手記を調べていくと過去には確かに光魔法の効果が我が国にもたらされていることが分かる。
 だが信じてはいけない。
 あの国に期待してはいけない。

 二百年ほど前から我が国への光の加護が薄れているように感じる。息子のためにもエルヴァニアを調べてみようと思う。息子には早死にしてほしくない。
 =====


 俺と同じように父もエルヴァニアのことを調べていたのか……
 続きをめくっていくと、父上はエルヴァニア王家に光魔法の適性者がしばらく生まれていないことまで調べ上げていた。

 そして俺と同じく、二百五十年前に我が国に来た王の兄の娘という存在に違和感を感じて調べていた。ただし結果は調査が及ばなかったのか、どこにも記されていない。


 =====
 六の月 曇りのち雨

 俺の命がどこまで持つか、正気を保てないことが多くなった。初めて自ら死を選んだ父の気持ちが分かった。
 だが俺はまだ死ねない。

 エルヴァニア王家は今やただの猫。どこかにまだケットシーの血を継ぐ者がいるはずだ。探し出さなければならない。俺は間に合わずとも息子は救いたい。
 =====


 俺はもっと早く父の手記を読むべきだった。母は父の思いを知っていたから最後までそばにいたんだろう。何も知らないのは俺だけだった。

「グレオン様、エルヴァニアの王家はケットシーの血筋ではないのですか?」
「それはエルヴァニアに行って自分の目で確かめるといい。お前はまだ自分が何者か分かっていないんだろ? それとも分かっているが認めたくないのか?」
「分かりません」

 そうだろうな。アルはそういうところだけは本当に頑固だ。
 俺がどれだけ説明したとしても、信じることはないんだろう。

 父の本心を知ることができた俺はやっと、恐ろしい存在でなければならないという父の呪縛から解放された。

「グレオン様、とても清々しいお顔ですね」
「そうかもな。お前のおかげだ。褒美にキスをしてやろう」
「はい、嬉しいです」
 これはアルの本心か? 俺も疑り深くなったものだ……

 父上、見ているか? 俺は光を見つけたぞ。

 
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