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11.里帰りと建国の書
68.
しおりを挟む「アルフ、大丈夫か?」
「大丈夫ですよ」
「カスパーは?」
「大丈夫ですよ」
皇帝にはもう何度同じ質問をされたか分からない。
カスパーは僕の腕の中ですやすやと眠っている。そんなの見れば分かるのに、なぜそんなに何度も聞くのか。
この馬車は本当にすごい。風を作用させた魔道具を使っていて、少し浮いているから揺れないんだ。
全く揺れないわけではないけど、ガタガタと地面の振動を拾うことはなく、ふわふわと緩やかに揺れている。
だからカスパーもぐっすり眠っている。
皇帝が僕と息子を連れてエルヴァニアに行くために作った馬車だ。
皇帝は本当に僕をエルヴァニアに連れて行ってくれるらしい。家族に合わせてくれるのと、何か僕に見せたいものがあると言っていた。
馬車は国境を越えて王都へ向かった。
隣国から皇帝が訪れたんだから、まずは王様に挨拶しなければならないんだろう。身代わりのはずの僕が皇帝の妃になったなんて、王様に怒られたりしないだろうか?
少し不安になってきた……
王都は僕が従者に応募するために訪れたときのように賑やかだった。天候不良で農作物の収穫が減っていると聞いていたから心配していたけど、持ち直したのかもしれない。
でもエルヴァニアに入ってから、雨の日が続いている気がする。僕は馬車の窓から分厚い雲に覆われた空を眺めた。今にも雨が降りそうだ。
「アルフの驚く顔が早く見たい」
「カスパーが僕から生まれたことより驚くことなんてありませんよ」
僕はカスパーがお腹にいるとき、もう死ぬんだからどうでもいいと思って、皇帝にたくさん我儘を言った。それなのに皇帝は怒るどころか、僕の我儘を聞いてくれた。
僕のことを揶揄って遊んでるわけじゃなくて、本当に愛してくれてるみたいだ。まだ僕は半信半疑だけど、家族に会わせてくれるのが本当なら、ちゃんと信じようと思う。
この旅にはエデラーさんもついてきている。エデラーさんは僕の家族のことを調べて教えてくれたし、エルヴァニアのこともよく知っているんだろう。
「帝国の馬車だ!」
馬車の外が騒がしくなって、攻撃されるんじゃないかと心配になったけど、そんなことはなかった。皇帝が顔を出すと歓声が上がったんだ。
「どういうことですか?」
「エルヴァニアで農作物の収穫が落ちていることは知っているだろ? 我が国から肉の加工品や穀物を送っていたんだ。きっとその感謝だろう」
そんなことしてくれていたなんて知らなかった。でもなんで?
僕は皇帝を騙していたし、アルバン様はどこにいるのかも分からない。皇帝や帝国にとってメリットなんてないはずなのに。
「どうしてそんなこと……?」
「お前とお前の家族の国だからだ」
そんなのおかしいよ。だって僕も僕の家族も平民だし、皇帝が手を差し伸べる理由になんてならない。本当の理由は?
「お前、また俺のことを信じていないな? 俺が王家の後ろ盾についた。そう言えば納得か?」
「はい」
なんだ、僕の家族はついでなんじゃないか。王家の後ろ盾か……でもそれって必要なのかな?
僕は政治のことはよく分からないけど、皇帝が食糧を援助したことと何か関係があるのかもしれない。
外が騒がしいのに、カスパーはぐっすり眠ったままだ。
こんなに騒がしいのに眠っていられるなんて、さすが皇帝の子だ。
「アルフも手を振ってみろ。皆が喜ぶぞ」
「いえ、僕はそんな身分じゃありませんから……」
「何を言っている。お前は皇帝である俺の妃だぞ?」
「そうですね」
そうだった。僕はいつまでも自分は平民なんだって思っていたけど、今では皇帝の妃という分不相応とも思える立場にいる。大勢の人が見守る中、大聖堂で結婚式をしたし、国民へ向けてカスパーのお披露目もした。
カスパーは皇帝の子なんだからいいんだけど、まだ僕は皇帝の妃という立場に慣れない。なんでこんなことになったんだっけ?
カスパーを乳母に預け、馬車から顔を出して手を振ってみる。
「アルフレート様だ!」
「お妃様だ!」
「おかえりなさい!」
大きな歓声に包まれた。これって、僕に向けられた歓声?
僕は夢を見ているみたいだ。王子様の従者のはずの僕が皇帝と結婚するなんて、みんなにどう思われるのか怖かった。なんでみんなそんなに僕に笑顔を向けてくれるの?
「このまま王城へ行くぞ」
「はい」
平民の僕が皇帝の妃になったことは、平民のみんなの希望になったのかもしれない。だけど王家の方々に会うのは少し不安だ。
アルバン様のことを聞かれたらどうしよう……
僕はアルバン様とは謁見以来会っていない。どこにいて何をしているのかも分からない。エルヴァニアに戻っているのか、それとも帝国で働いているのか、なんとなく今まで聞けずにきてしまった。
僕はとても緊張しているのに、皇帝は僕の手をフニフニといつものように触りながら、ご機嫌な様子で外を眺めている。
皇帝はエルヴァニアに貢献しているから歓迎されるに決まってる。僕は罵られたりするんだろうか?
「アルフ、どうした? そんなに緊張することはない。新国王も他の皆もお前に会えることを楽しみにしている」
「新国王? 代替りしたんですね」
「まあそうだな。若い国王は頑張っているぞ」
「そうですか」
皇帝がそんなふうに誰かを褒めるのは初めて聞いた気がする。なぜだか心がざわついた。
僕は心が狭いのかもしれない。もっと謙虚であろう……
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