【完結】王子様の身代わりになった僕は最恐と恐れられる皇帝を肉球で癒す

cyan

文字の大きさ
68 / 72
11.里帰りと建国の書

68.

しおりを挟む
 
「アルフ、大丈夫か?」
「大丈夫ですよ」
「カスパーは?」
「大丈夫ですよ」

 皇帝にはもう何度同じ質問をされたか分からない。
 カスパーは僕の腕の中ですやすやと眠っている。そんなの見れば分かるのに、なぜそんなに何度も聞くのか。

 この馬車は本当にすごい。風を作用させた魔道具を使っていて、少し浮いているから揺れないんだ。
 全く揺れないわけではないけど、ガタガタと地面の振動を拾うことはなく、ふわふわと緩やかに揺れている。
 だからカスパーもぐっすり眠っている。

 皇帝が僕と息子を連れてエルヴァニアに行くために作った馬車だ。
 皇帝は本当に僕をエルヴァニアに連れて行ってくれるらしい。家族に合わせてくれるのと、何か僕に見せたいものがあると言っていた。

 馬車は国境を越えて王都へ向かった。
 隣国から皇帝が訪れたんだから、まずは王様に挨拶しなければならないんだろう。身代わりのはずの僕が皇帝の妃になったなんて、王様に怒られたりしないだろうか?
 少し不安になってきた……

 王都は僕が従者に応募するために訪れたときのように賑やかだった。天候不良で農作物の収穫が減っていると聞いていたから心配していたけど、持ち直したのかもしれない。
 でもエルヴァニアに入ってから、雨の日が続いている気がする。僕は馬車の窓から分厚い雲に覆われた空を眺めた。今にも雨が降りそうだ。

「アルフの驚く顔が早く見たい」
「カスパーが僕から生まれたことより驚くことなんてありませんよ」

 僕はカスパーがお腹にいるとき、もう死ぬんだからどうでもいいと思って、皇帝にたくさん我儘を言った。それなのに皇帝は怒るどころか、僕の我儘を聞いてくれた。
 僕のことを揶揄って遊んでるわけじゃなくて、本当に愛してくれてるみたいだ。まだ僕は半信半疑だけど、家族に会わせてくれるのが本当なら、ちゃんと信じようと思う。

 この旅にはエデラーさんもついてきている。エデラーさんは僕の家族のことを調べて教えてくれたし、エルヴァニアのこともよく知っているんだろう。

「帝国の馬車だ!」
 馬車の外が騒がしくなって、攻撃されるんじゃないかと心配になったけど、そんなことはなかった。皇帝が顔を出すと歓声が上がったんだ。

「どういうことですか?」
「エルヴァニアで農作物の収穫が落ちていることは知っているだろ? 我が国から肉の加工品や穀物を送っていたんだ。きっとその感謝だろう」

 そんなことしてくれていたなんて知らなかった。でもなんで?
 僕は皇帝を騙していたし、アルバン様はどこにいるのかも分からない。皇帝や帝国にとってメリットなんてないはずなのに。

「どうしてそんなこと……?」
「お前とお前の家族の国だからだ」

 そんなのおかしいよ。だって僕も僕の家族も平民だし、皇帝が手を差し伸べる理由になんてならない。本当の理由は?

「お前、また俺のことを信じていないな? 俺が王家の後ろ盾についた。そう言えば納得か?」
「はい」
 なんだ、僕の家族はついでなんじゃないか。王家の後ろ盾か……でもそれって必要なのかな?
 僕は政治のことはよく分からないけど、皇帝が食糧を援助したことと何か関係があるのかもしれない。

 外が騒がしいのに、カスパーはぐっすり眠ったままだ。
 こんなに騒がしいのに眠っていられるなんて、さすが皇帝の子だ。

「アルフも手を振ってみろ。皆が喜ぶぞ」
「いえ、僕はそんな身分じゃありませんから……」
「何を言っている。お前は皇帝である俺の妃だぞ?」
「そうですね」

 そうだった。僕はいつまでも自分は平民なんだって思っていたけど、今では皇帝の妃という分不相応とも思える立場にいる。大勢の人が見守る中、大聖堂で結婚式をしたし、国民へ向けてカスパーのお披露目もした。
 カスパーは皇帝の子なんだからいいんだけど、まだ僕は皇帝の妃という立場に慣れない。なんでこんなことになったんだっけ?

 カスパーを乳母に預け、馬車から顔を出して手を振ってみる。
「アルフレート様だ!」
「お妃様だ!」
「おかえりなさい!」

 大きな歓声に包まれた。これって、僕に向けられた歓声?
 僕は夢を見ているみたいだ。王子様の従者のはずの僕が皇帝と結婚するなんて、みんなにどう思われるのか怖かった。なんでみんなそんなに僕に笑顔を向けてくれるの?

「このまま王城へ行くぞ」
「はい」
 平民の僕が皇帝の妃になったことは、平民のみんなの希望になったのかもしれない。だけど王家の方々に会うのは少し不安だ。

 アルバン様のことを聞かれたらどうしよう……
 僕はアルバン様とは謁見以来会っていない。どこにいて何をしているのかも分からない。エルヴァニアに戻っているのか、それとも帝国で働いているのか、なんとなく今まで聞けずにきてしまった。

 僕はとても緊張しているのに、皇帝は僕の手をフニフニといつものように触りながら、ご機嫌な様子で外を眺めている。
 皇帝はエルヴァニアに貢献しているから歓迎されるに決まってる。僕は罵られたりするんだろうか?

「アルフ、どうした? そんなに緊張することはない。新国王も他の皆もお前に会えることを楽しみにしている」
「新国王? 代替りしたんですね」
「まあそうだな。若い国王は頑張っているぞ」
「そうですか」

 皇帝がそんなふうに誰かを褒めるのは初めて聞いた気がする。なぜだか心がざわついた。
 僕は心が狭いのかもしれない。もっと謙虚であろう……

 
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

猫の王子は最強の竜帝陛下に食べられたくない

muku
BL
 猫の国の第五王子ミカは、片目の色が違うことで兄達から迫害されていた。戦勝国である鼠の国に差し出され、囚われているところへ、ある日竜帝セライナがやって来る。  竜族は獣人の中でも最強の種族で、セライナに引き取られたミカは竜族の住む島で生活することに。  猫が大好きな竜族達にちやほやされるミカだったが、どうしても受け入れられないことがあった。  どうやら自分は竜帝セライナの「エサ」として連れてこられたらしく、どうしても食べられたくないミカは、それを回避しようと奮闘するのだが――。  勘違いから始まる、獣人BLファンタジー。

異世界オークションで売られた俺、落札したのは昔助けた狼でした

うんとこどっこいしょ
BL
異世界の闇オークションで商品として目覚めた青年・アキラ。 獣人族たちに値踏みされ、競りにかけられる恐怖の中、彼を千枚の金貨で落札したのは、銀灰色の髪を持つ狼の獣人・ロウだった。 怯えるアキラに、ロウは思いがけない言葉を告げる。 「やっと会えた。お前は俺の命の恩人だ」 戸惑うアキラの脳裏に蘇るのは、かつて雨の日に助けた一匹の子狼との記憶。 獣人世界を舞台に、命の恩人であるアキラと、一途に想い続けた狼獣人が紡ぐ、執着と溺愛の異世界BLロマンス。 第一章 完結 第二章 完結

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます

muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。 仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。 成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。 何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。 汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。

もふもふ聖獣様に拾われた不遇オメガは、空に浮かぶ島で運命の番として極上の溺愛を注がれる

水凪しおん
BL
「オメガがいるから、村に災いが降りかかったのだ」 理不尽な理由で村人たちから忌み嫌われ、深い雪の森へと生贄として捨てられた十九歳の青年、ルカ。 凍える寒さの中、絶望に目を閉じた彼の前に現れたのは、見上げるほど巨大で美しい「白銀の狼」だった。 伝説の聖獣である狼に拾われたルカが目を覚ましたのは、下界の汚れから切り離された雲海に浮かぶ美しい島。 狼は人間の姿——流れるような銀髪と黄金の瞳を持つ壮麗なアルファの偉丈夫、レオンへと変化し、ルカにこう告げる。 「君は、俺の運命の番だ」 これまで虐げられ、自分を穢れた存在だと思い込んでいたルカは、レオンの甘く深いアルファの香りと、恐ろしいほどの優しさに戸惑うばかり。 温かい食事、美しい庭園、そして決して自分を傷つけない大きな手。 極上の溺愛に包まれるうち、ルカの心に固く巻きついていた冷たい恐怖の糸は、少しずつほどけていく。 そして、ルカを捨てた村人たちが強欲にも島へ足を踏み入れたとき、ルカは自らの意志とオメガとしての本当の力に目覚める——。 これは、孤独だった不遇のオメガが、伝説の聖獣の番として永遠の幸せと自分の居場所を見つけるまでの、心温まる溺愛ファンタジー。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

処理中です...