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26.成人
「そろそろ領地へ移動しよう」
「「分かった」」
陛下は僕の父上と兄上が無罪だったことをしっかり広めてくれて、ベリッシモ伯爵家の取潰しが撤回されたことも周知された。
でも、それはまだ領地まで届いていないかもしれない。
僕は緊張していた。領民に見つかったら罵られて石を投げられるかもしれないと思って、不安な気持ちを抱えたまま向かった。
まずは、お墓を再建しよう。それで、兄上がやりたかった孤児院と子供の教育の場所の提供も。建物は領主邸を直して使うことにする。
ベリッシモ孤児院と学校。これを残すことで、僕の家が確かにここにあったことを残すことができると思った。
領民に還元するために、建築や庭の整備やなんかで雇うのは領民を優先しよう。
あとは、洪水被害が多い場所の堤防の建設と、道路の整備も。
いっぱいやることがあるな。僕がメレディス様の元へ嫁いでもこの土地を見届けてくれる人がいるといいんだけど……
それは今は王家の領地となってるから陛下に頼むしかないか。
いつかどこかの貴族が治めることになるのなら、父上や兄上のような優しい人がいいな。
僕が領都に入ると、僕に気づいた人がいた。
そしてどんどん人が集まってきて、僕は囲まれることになった。
ベックとジェフが警戒体制に入ったけど、もしこの人数に襲われたら守れなくても仕方ないと思う。
だけど、みんな襲ってきたりはしなかった。
それどころか泣き出す人までいた。
なんで?
「レスター様、よくぞご無事で。領主様たちが無罪だったと聞きました。
罪を犯すどころか、罪を公にしようとしていたと」
「はい。父も兄も、何も悪いことなどしていません。罪を犯していた者たちに罪人に仕立て上げられ死に追いやられた。
父も兄も領民のことを大切に思っていました。僕は兄が今後この地で領地発展のために行おうとしていたことを引き継いで行います。どうか皆さん手を貸して下さい」
領民たちはお墓の再建のための片付けや、領主邸の片付けも手伝ってくれた。
みんなと一緒になって塀を壊して申し訳なかったとわざわざ謝りに来る人もいた。
領民全員に還元できないのは心苦しいが、土木ギルドなどとも話をして僕はどんどん進めていった。
王都の屋敷には戻らず、領地でずっと過ごした。
成人を迎える頃には全ての手配を終えて、ほっと一息ついた。
陛下に返してもらったお金は全て使ったわけじゃない。とても使い切れる額じゃなかったし、孤児院や学校の維持費として何年も困らないように残しておくけど、使えなかった分は陛下に預けて、この領地のために使ってもらえたらいいな。爵位を返還する時に渡そう。
まだ建設途中の建物や、堤防や道も途中だけど、兄上がやりたかったことはほとんど叶えることができた。
「ベック、ジェフ、王都に戻ろう」
「いいのか?最後まで見届けたかったんじゃないのか?」
「ううん、大丈夫。これだけできれば十分。みんなの中にちゃんとベリッシモ伯爵家は残ってるから」
王城で行われる成人の儀には、国内の各地から貴族が集まる。
僕は正装に身を包み会場へ向かった。
この衣装はメレディス様が用意してくれた。タイピンにはメレディス様の瞳の色と同じサファイアがあしらわれていて、メレディス様が側にいてくれるみたいだ。
だから僕は一人でも大丈夫。
成人の儀が終わると、僕はベリッシモ伯爵家の当主となった。
そしてそのまま夜会が行われる。
これでメレディス様の元に嫁げるのだと思うと幸せな気分に包まれた。
ダンスが始まると、伯爵家の当主となった僕の周りには若い令嬢や令息が寄ってきた。メレディス様とも踊ったことがないのに、他の者と踊るなど……と思ったが、全く誰とも踊らないわけにはいかず、仕方なく声をかけてきた何人かと踊った。
「レスター久しいな」
「……ニコラス」
「貴族に返り咲いたらしいな。俺と踊れ」
「……分かった」
なんでニコラスが僕なんかに声をかけてくるのか分からなかった。
誰も頼れる人がいないと分かっていながら僕を簡単に捨てたくせに。
でも僕は仕事モードのポーカーフェイスでいたから、心の中では少し動揺したけど顔にも態度にも出さずに済んだ。
ニコラスはこんなにも横柄な太々しい奴だっただろうか。
感情の無い冷たい目で見ながら僕はニコラスのダンスの相手をした。
「なぁ、今のお前なら妾くらいにはしてやってもいいぞ」
「結構です」
「困ってんだろ?俺に縋れよ」
「全く困っていません。私は伯爵家当主ですし、ただの伯爵家の令息であるあなたより立場は上なはずなんですがね」
「随分偉そうな奴になったんだな。こい!」
僕の腕を爪が食い込むくらい強く掴むと、僕を会場の外へ引っ張っていった。
「どこへ行くんです?」
「そんなに色香を撒き散らしている割には無垢なままで可愛らしいな。俺好みに仕立てるために閨事の教育はしないように言ってあったんだ。まだ俺のこと好きなんだろ?俺が大人の愛し方ってやつを教えてやるよ」
「必要ありません」
僕は腕を振り払おうとしたが、彼の方が体格も良く力も強くて振り解けなかった。
迷うな。怪我をさせてもいいなら適当な魔法を当てるんだけど、やっと事件が解決したこの時期に僕が加害者になるわけにはいかないし。
「離してください」
「うるさい。お前のせいでうちの家計が火の車だ」
「それは大変ですね。横領していたお金を当てればいいのでは?」
「ふざけるな!」
ニコラスの拳が振り上げられた。
たぶん大丈夫。こんな逆恨みもあろうかとちゃんと防御結界の魔法陣を仕込んでいるから。
それでも怒りの感情を直にぶつけられると少し怖いという思いはある。
だいたい家計が火の車だからなんだというのか。僕なんか何の罪もない家族を殺されて、行く場所もなく木の上で寝たり、パンだって1日に1つしか食べられない日を過ごしたこともある。
怒るのは僕の方だ。
『貴族家当主に向かっての暴力行為だ! すぐに捕まえろ!』
そんな声が聞こえると、ニコラスの拳が振り下ろされる前にニコラスは駆けつけた騎士に拘束され連れて行かれた。
「え?」
なんていうか喜劇みたい。
そう思ったら笑いが込み上げてきた。
ふふふふ、
あんな奴と結婚しなくてよかったな。メレディス様より格好いい人なんてこの世にいないけど、それにしてもあれは酷すぎる。
「レスター」
「え?」
振り向くと、そこにはこの世で一番大好きなメレディス様が微笑んでいた。
「ぇええ!?」
「ははは、驚いたか?待ちきれなくて迎えにきたよ」
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