【完結】家も家族もなくし婚約者にも捨てられた僕だけど、隣国の宰相を助けたら囲われて大切にされています。

cyan

文字の大きさ
26 / 62

26.成人

 
「そろそろ領地へ移動しよう」
「「分かった」」

 陛下は僕の父上と兄上が無罪だったことをしっかり広めてくれて、ベリッシモ伯爵家の取潰しが撤回されたことも周知された。
 でも、それはまだ領地まで届いていないかもしれない。
 僕は緊張していた。領民に見つかったら罵られて石を投げられるかもしれないと思って、不安な気持ちを抱えたまま向かった。


 まずは、お墓を再建しよう。それで、兄上がやりたかった孤児院と子供の教育の場所の提供も。建物は領主邸を直して使うことにする。
 ベリッシモ孤児院と学校。これを残すことで、僕の家が確かにここにあったことを残すことができると思った。

 領民に還元するために、建築や庭の整備やなんかで雇うのは領民を優先しよう。

 あとは、洪水被害が多い場所の堤防の建設と、道路の整備も。
 いっぱいやることがあるな。僕がメレディス様の元へ嫁いでもこの土地を見届けてくれる人がいるといいんだけど……
 それは今は王家の領地となってるから陛下に頼むしかないか。
 いつかどこかの貴族が治めることになるのなら、父上や兄上のような優しい人がいいな。



 僕が領都に入ると、僕に気づいた人がいた。
 そしてどんどん人が集まってきて、僕は囲まれることになった。
 ベックとジェフが警戒体制に入ったけど、もしこの人数に襲われたら守れなくても仕方ないと思う。

 だけど、みんな襲ってきたりはしなかった。
 それどころか泣き出す人までいた。
 なんで?


「レスター様、よくぞご無事で。領主様たちが無罪だったと聞きました。
 罪を犯すどころか、罪を公にしようとしていたと」
「はい。父も兄も、何も悪いことなどしていません。罪を犯していた者たちに罪人に仕立て上げられ死に追いやられた。
 父も兄も領民のことを大切に思っていました。僕は兄が今後この地で領地発展のために行おうとしていたことを引き継いで行います。どうか皆さん手を貸して下さい」


 領民たちはお墓の再建のための片付けや、領主邸の片付けも手伝ってくれた。
 みんなと一緒になって塀を壊して申し訳なかったとわざわざ謝りに来る人もいた。
 領民全員に還元できないのは心苦しいが、土木ギルドなどとも話をして僕はどんどん進めていった。

 王都の屋敷には戻らず、領地でずっと過ごした。
 成人を迎える頃には全ての手配を終えて、ほっと一息ついた。


 陛下に返してもらったお金は全て使ったわけじゃない。とても使い切れる額じゃなかったし、孤児院や学校の維持費として何年も困らないように残しておくけど、使えなかった分は陛下に預けて、この領地のために使ってもらえたらいいな。爵位を返還する時に渡そう。
 まだ建設途中の建物や、堤防や道も途中だけど、兄上がやりたかったことはほとんど叶えることができた。




「ベック、ジェフ、王都に戻ろう」
「いいのか?最後まで見届けたかったんじゃないのか?」
「ううん、大丈夫。これだけできれば十分。みんなの中にちゃんとベリッシモ伯爵家は残ってるから」


 王城で行われる成人の儀には、国内の各地から貴族が集まる。
 僕は正装に身を包み会場へ向かった。
 この衣装はメレディス様が用意してくれた。タイピンにはメレディス様の瞳の色と同じサファイアがあしらわれていて、メレディス様が側にいてくれるみたいだ。
 だから僕は一人でも大丈夫。

 成人の儀が終わると、僕はベリッシモ伯爵家の当主となった。
 そしてそのまま夜会が行われる。


 これでメレディス様の元に嫁げるのだと思うと幸せな気分に包まれた。
 ダンスが始まると、伯爵家の当主となった僕の周りには若い令嬢や令息が寄ってきた。メレディス様とも踊ったことがないのに、他の者と踊るなど……と思ったが、全く誰とも踊らないわけにはいかず、仕方なく声をかけてきた何人かと踊った。



「レスター久しいな」
「……ニコラス」
「貴族に返り咲いたらしいな。俺と踊れ」
「……分かった」

 なんでニコラスが僕なんかに声をかけてくるのか分からなかった。
 誰も頼れる人がいないと分かっていながら僕を簡単に捨てたくせに。
 でも僕は仕事モードのポーカーフェイスでいたから、心の中では少し動揺したけど顔にも態度にも出さずに済んだ。
 ニコラスはこんなにも横柄な太々しい奴だっただろうか。

 感情の無い冷たい目で見ながら僕はニコラスのダンスの相手をした。


「なぁ、今のお前なら妾くらいにはしてやってもいいぞ」
「結構です」
「困ってんだろ?俺に縋れよ」
「全く困っていません。私は伯爵家当主ですし、ただの伯爵家の令息であるあなたより立場は上なはずなんですがね」
「随分偉そうな奴になったんだな。こい!」

 僕の腕を爪が食い込むくらい強く掴むと、僕を会場の外へ引っ張っていった。


「どこへ行くんです?」
「そんなに色香を撒き散らしている割には無垢なままで可愛らしいな。俺好みに仕立てるために閨事の教育はしないように言ってあったんだ。まだ俺のこと好きなんだろ?俺が大人の愛し方ってやつを教えてやるよ」
「必要ありません」

 僕は腕を振り払おうとしたが、彼の方が体格も良く力も強くて振り解けなかった。
 迷うな。怪我をさせてもいいなら適当な魔法を当てるんだけど、やっと事件が解決したこの時期に僕が加害者になるわけにはいかないし。


「離してください」
「うるさい。お前のせいでうちの家計が火の車だ」
「それは大変ですね。横領していたお金を当てればいいのでは?」
「ふざけるな!」

 ニコラスの拳が振り上げられた。
 たぶん大丈夫。こんな逆恨みもあろうかとちゃんと防御結界の魔法陣を仕込んでいるから。

 それでも怒りの感情を直にぶつけられると少し怖いという思いはある。
 だいたい家計が火の車だからなんだというのか。僕なんか何の罪もない家族を殺されて、行く場所もなく木の上で寝たり、パンだって1日に1つしか食べられない日を過ごしたこともある。
 怒るのは僕の方だ。



『貴族家当主に向かっての暴力行為だ! すぐに捕まえろ!』

 そんな声が聞こえると、ニコラスの拳が振り下ろされる前にニコラスは駆けつけた騎士に拘束され連れて行かれた。


「え?」

 なんていうか喜劇みたい。
 そう思ったら笑いが込み上げてきた。

 ふふふふ、
 あんな奴と結婚しなくてよかったな。メレディス様より格好いい人なんてこの世にいないけど、それにしてもあれは酷すぎる。


「レスター」
「え?」

 振り向くと、そこにはこの世で一番大好きなメレディス様が微笑んでいた。

「ぇええ!?」
「ははは、驚いたか?待ちきれなくて迎えにきたよ」

 
感想 10

あなたにおすすめの小説

令嬢に転生したと思ったけどちょっと違った

しそみょうが
BL
前世男子大学生だったが今世では公爵令嬢に転生したアシュリー8歳は、王城の廊下で4歳年下の第2王子イーライに一目惚れされて婚約者になる。なんやかんやで両想いだった2人だが、イーライの留学中にアシュリーに成長期が訪れ立派な青年に成長してしまう。アシュリーが転生したのは女性ではなくカントボーイだったのだ。泣く泣く婚約者を辞するアシュリーは名前を変えて王城の近衛騎士となる。婚約者にフラれて隣国でグレたと噂の殿下が5年ぶりに帰国してーー? という、婚約者大好き年下王子☓元令嬢のカントボーイ騎士のお話です。前半3話目までは子ども時代で、成長した後半にR18がちょこっとあります♡  短編コメディです

ゲームの世界はどこいった?

水場奨
BL
小さな時から夢に見る、ゲームという世界。 そこで僕はあっという間に消される悪役だったはずなのに、気がついたらちゃんと大人になっていた。 あれ?ゲームの世界、どこいった? ムーン様でも公開しています

婚約破棄と国外追放をされた僕、護衛騎士を思い出しました

カシナシ
BL
「お前はなんてことをしてくれたんだ!もう我慢ならない!アリス・シュヴァルツ公爵令息!お前との婚約を破棄する!」 「は……?」 婚約者だった王太子に追い立てられるように捨てられたアリス。 急いで逃げようとした時に現れたのは、逞しい美丈夫だった。 見覚えはないのだが、どこか知っているような気がしてーー。 単品ざまぁは番外編で。 護衛騎士筋肉攻め × 魔道具好き美人受け

耳が聞こえない公爵令息と子爵令息の幸せな結婚

竜鳴躍
BL
マナ=クレイソンは公爵家の末っ子だが、耳が聞こえない。幼い頃、自分に文字を教え、絵の道を開いてくれた、母の友達の子爵令息のことを、ずっと大好きだ。 だが、自分は母親が乱暴されたときに出来た子どもで……。 耳が聞こえない、体も弱い。 そんな僕。 爵位が低いから、結婚を断れないだけなの? 結婚式を前に、マナは疑心暗鬼になっていた。

とばっちり男爵令息は幼馴染侯爵の溺愛に気付かない

白世藍
BL
セルディック男爵家の次男であるディオンは、昔から災難な目に遭うことが多かった。 今目の前で断罪されている悪役令嬢の婚約者になったのもつい3日前のことだ。そして、当然のようにディオンは断罪に巻き込まれた。 婚約者を咎めなかった罪で学園を追放され、賠償金を捻出するため男娼専門の娼館に売り払われた。 本人は何もしていないのに。 そして娼館にやってきたのは、2つ年上の幼馴染でもあるシリル・コーディナル侯爵だ。シリルは店にお金を払い、ディオンを引き取ることにした。 溺愛権力持ち年上幼馴染わんこ侯爵×不運な鈍感苦労人男爵令息のお話。 ハッピーエンドです。 ※受けは娼館に売り払われていますが、攻め以外とのRシーンはありません。 ※ムーンライトノベルズ様にも同時掲載しています。

【完結】転生した悪役令息は、お望み通り近付きません

カシナシ
BL
「お前など、愛す価値もない」 ディディア・ファントム侯爵令息が階段から落ちる時見たのは、婚約者が従兄弟を抱きしめている姿。 (これって、ディディアーーBLゲームの悪役令息じゃないか!) 妹の笑顔を見るためにやりこんでいたBLゲーム。引くほどレベルを上げた主人公のスキルが、なぜかディディアに転生してそのまま引き継いでいる。 スキルなしとして家族に『失敗作』と蔑まれていたのは、そのスキルのレベルが高すぎたかららしい。 スキルと自分を取り戻したディディアは、婚約者を追いかけまわすのを辞め、自立に向けて淡々と準備をする。 もちろん元婚約者と従兄弟には近付かないので、絡んでこないでいただけます? 十万文字程度。 3/7 完結しました! ※主人公:マイペース美人受け ※女性向けHOTランキング1位、ありがとうございました。完結までの12日間に渡り、ほとんど2〜5位と食い込めた作品となりました!あああありがとうございます……!。゚(゚´Д`゚)゚。 たくさんの閲覧、イイね、エール、感想は、作者の血肉になります……!(o´ω`o)ありがとうございます!(●′ω`人′ω`●)

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません

くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、 ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。 だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。 今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。

悪役令息上等です。悪の華は可憐に咲き誇る

竜鳴躍
BL
異性間でも子どもが産まれにくくなった世界。 子どもは魔法の力を借りて同性間でも産めるようになったため、性別に関係なく結婚するようになった世界。 ファーマ王国のアレン=ファーメット公爵令息は、白銀に近い髪に真っ赤な瞳、真っ白な肌を持つ。 神秘的で美しい姿に王子に見初められた彼は公爵家の長男でありながら唯一の王子の婚約者に選ばれてしまった。どこに行くにも欠かせない大きな日傘。日に焼けると爛れてしまいかねない皮膚。 公爵家は両親とも黒髪黒目であるが、彼一人が色が違う。 それは彼が全てアルビノだったからなのに、成長した教養のない王子は、アレンを魔女扱いした上、聖女らしき男爵令嬢に現を抜かして婚約破棄の上スラム街に追放してしまう。 だが、王子は知らない。 アレンにも王位継承権があることを。 従者を一人連れてスラムに行ったアレンは、イケメンでスパダリな従者に溺愛されながらスラムを改革していって……!? *誤字報告ありがとうございます! *カエサル=プレート 修正しました。