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52.影を落とすもの
「マイストさん、幸せすぎて怖くなることある?」
「レスター様はとても幸せなんですね。今がこのまま続いてほしいと思うことはありますよ」
「そっか」
「不安に思うことはありませんよ。人生は色々なことがありますが、どんな時もメレディス様と共に乗り越えていけばいいのです」
「うん。そうだね。1人じゃないんだもんね。2人なら大丈夫な気がしてきた。マイストさん、ありがとう」
「いいえ、レスター様ならきっと大丈夫ですよ」
「うん」
「では、私は今日はこの辺りで失礼致します」
「今日もありがとう」
僕は玄関までマイストさんを見送ると、使用人のみんなの休憩室に向かった。
「今朝エイミー様のお花が一輪咲いたんですよ」
「あら、そうなの? 数日もすれば満開になるわね」
「メレディス様もきっとお喜びになるわ」
……エイミー様の花?
ドアに手をかけようとした時に聞こえてきた名前。
僕はその名前を知っている。
メレディス様のラブレターの相手だ。
ずっと思い出すことはなかった。メレディス様はいつも優しいし、大好きだと愛してると言ってくれる。
エイミーなんて人、存在しないんだと思ってた。
「おや、レスター様、どうかされましたか?」
急にゼストに後ろから声をかけられて、僕はビクッとした。
「ううん。何でもない。さっきマイストさんを見送ったところ」
「そうでしたか。お勉強お疲れ様でした」
「ゼスト、エイミー様はメレディス様と仲良しだった?」
「エイミー様ですか? そうですね。メレディス様が大変懐いておりましたね。どこに行くにもエイミー様の後をついて回ったりして。懐かしいですね」
「……そうなんだ。あの、僕お勉強して少し疲れたから、ちょっと部屋で休むね」
「そうですか。大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫。回復の魔法陣あるし」
「分かりました。何かありましたらお呼びください」
「うん。ありがとう」
僕はすぐに部屋に戻って、ベッドに入って頭から布団を被った。
メレディス様が懐いてた……
ゼストも知ってるし、他の使用人たちも知ってるみたいだった。
みんなが公認の仲だったのかも。
なぜ今は2人が一緒にいないのかは分からない。
ただの失恋か、それとも不慮の事故などで亡くなってしまったのか、何かの事情で引き裂かれたのか。
エイミー様の花というのも気になった。咲くとメレディス様が喜ぶって。
それってまだメレディス様の心の中にはエイミー様がいるってこと?
じゃあ僕の存在は何なんだろう?
メレディス様の中で、僕は……
仕事仲間?
僕はオルロー王家のステファノと親族になった。その僕と縁を結ぶことが何かのメリットになる?
でもドラータ王国に比べてオルロー王国は小さいし、技術の発展も遅れているように見える。
それでも王家の血筋であることに変わりはない。
分からない。メレディス様を信じたい。
でも、エイミー様の花を大切に庭で育てているのはなぜ?
夜になってメレディス様が仕事から帰ってくると、僕は何事もなかったかのように振る舞った。メレディス様には怖くて聞けなかった。
「レスター、愛してるよ。大好きだよ」
「本当?」
「本当だよ。当たり前だろう? 大好きだよ」
「うん。僕もメレディス様が大好きです」
「あぁ……ぁ……メレディス様、もっときて……奥まできて……あぁ……ぁ……んん……すき……」
「レスターどうした? そんなにギュッと抱きついて、今日は甘えただな。レスターは本当に可愛いな」
メレディス様は僕のことを変わらず大切にしてくれる。嘘だなんて思いたくない。
嘘だなんて思えない。
エイミー様を愛していたのは昔の話だよね? 今は僕だけだよね?
信じていいんだよね?
葛藤の日々を過ごしていると、ステファノから手紙が届いた。
領主邸がやっと完成たと。
領主邸の建設は後回しにして、街の整備や孤児院や学校を先に進めていたから、かなり遅れていた。
その間ずっと、僕が孤児院にしてしまった旧領主邸に住んでいたみたいだけど、不便をかけてしまったな。
そんなことを思いながら手紙を返すと、すぐに返事が来た。
前侯爵として、領主邸をぜひ一度見にきてほしいと書かれていた。
そして、なぜ分かったのか、僕に元気がないようで心配だから幼い頃から慣れ親しんだこちらで羽を伸ばしてはどうかと書かれていた。
なんで元気がないって分かったんだろう? 不思議。領地か……。確かに幼い頃に住んでたし、慣れ親しんだ土地ではある。
それも悪くないかな。
ステファノへは、仕事が忙しくて少し疲れているだけだと返事をした。
僕はいつも通りに仕事をして、いつも通りに過ごしていた。メレディス様は僕に微笑んでくれるし、抱きしめてくれる。
僕はちゃんと笑えているかな?
たまに分からなくなるけど、メレディス様が僕に好きだよって微笑んでくれるから、僕は大丈夫。
……??
あれ? ここどこだっけ?
見たことある景色。なんか懐かしい。
「兄上! 待って~」
「レスター、早くおいで、今日もレスターが好きな冒険の本を読んであげよう」
兄上……
あれ? 全部夢かな?
僕の目の前には、お墓が並んでる。
ベリッシモ家の歴代のお墓だ。新しい墓石……その彫られた名前を指でなぞる。
父上の名前、そして隣は兄上の名前。
2人が亡くなったことは夢じゃなかった。
丘を下っていくと、新しい大きなお屋敷が建っていた。
そこには見たことのある庭師のお兄さんが見えた。門の前を通りかかると、ステファノが馬車で出かけるところみたいだった。
そっか。夢、ではないんだ。これが新しい領主邸?
ステファノ元気そう。
街を歩いてみる。
みんな笑顔だ。よかった。僕がいなくても大丈夫みたい。ステファノに任せて正解だったんだ。よかった。
あれ? 僕、何でここにいるんだっけ?
ここは領地だからオルロー王国だよね? ドラータ王国は? メレディス様は? 仕事は?
今は何月何日だろう?
もうすぐ結婚式……だよね?
僕、もしかして逃げたの?
ローブの内側には防御結界の魔法陣が貼られていた。鞄は無い。ポケットには銀貨が数枚入ってたけど、それだけだった。転送の魔法陣も無い。
もう、戻れないのかな?
分からない。
ここも、懐かしいけどもう僕の家だとは思えなかった。
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