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おまけ レスターの冒険
もうベリッシモ領はステファノが上手くやってくれてる。僕がいなくても大丈夫。
無意識とはいえ逃げてしまったのだから、メレディス様の元へは帰れない。
また1人になっちゃったな。
僕はローブのフードを目深に被って領地を後にした。
僕にできることは何だろう?
秘書官? それはまだ見習いだし、他国の貴族を召し抱えてくれるような貴族なんてメレディス様くらいだと思う。
他は? 騎士とか? 戦えなくはない。でも国に仕える騎士だったら、やっぱり他国の貴族なんて無理だよね。じゃあどこかの貴族の騎士とか?
諜報員だと思われるよね。
何もないじゃん。オルロー王国の政治の中枢には蟠りがある人が多いからいけないし、他国も無理。
あ、魔法陣は? 魔法陣の研究ってどこの国が盛んなんだろう? とりあえず魔道王国とか行ってみる?
そんなことを考えながら、たまに街に寄ってパンを買って、節約しながら食べて、そして木の上で寝るという生活をしていた。
懐かしいな。メレディス様に会う前も、こんな生活をしていたっけ。
ローブに貼られている防御結界の魔法陣は、少し書き換えた。やっぱりオルロー王国は僕の敵が多いと思うし。それで街の図書館で魔法陣の本を見ていたら思い出した。
転送の魔法陣。あの古い魔法陣の本。あの作者が生きているなら会いたい。生きていなくても引き継ぐ人がいたら会ってみたい。
そんな思いで街に寄っては魔法陣の作者のことを調べた。
帝国か……
いま、帝国は内戦があるから入出国が厳しい。他国の貴族なんかは入ることもできない。
行ってみてダメだったら諦めよう。
僕は帝国を目指すことにした。
街道から少し入ったところを歩いていると、荷馬車が魔物に襲われているのを見つけた。
大変! 僕はすぐに駆け付けると、一番得意な氷の魔法でウルフの群れを退治した。
「大丈夫?」
「あ、あぁ。助かりました。もうダメかと……」
幸い馬も軽い傷だけだったから、僕がヒールをかけてあげた。
「ありがとうございます。どちらまでですか? 方向が同じなら乗っていきませんか? お礼といってもそんなことくらいしかできませんが……」
「うん。ありがとう。僕は帝国方面に向かってたんだけど同じ方向?」
「はい。帝国との国境の手前の街に行くところだったんです」
「じゃあお言葉に甘えて乗せてもらおうかな。お礼に危険があったら僕が戦ってあげるね」
「助かります」
商人のおじさんは、目的の街まで布を届ける途中だったらしい。
「おじさんは帝国って行ったことある?」
「まだ内戦がない頃に何度か。今は大体の商人は避けていますね。それでも金の匂いを嗅ぎつけて命より金だと向かう者もいますが」
「そっか」
「危ないかな? ねえねえ、僕のこと知ってたりする?」
「はて? 有名な魔法使いの方ですか? すみません、存じ上げません」
「ううん、いいの」
そっか。商人さんに僕のことが広まってないとなると意外といけるかもしれない。
商人は大抵貴族の名前と顔は一致していて、金の匂いを嗅ぎつけてくる。この人が知らないなら大丈夫そうな気がした。
おじさんと別れて1人国境の列に並ぶ。
「次の者! 入国の目的は?」
「知人に会いにいきます」
「身分を示すものはあるか?」
「ありません」
「ただの平民か。通っていいぞ」
何だかあっさり通れて拍子抜けした。
さて、場所は西に位置する小さな街だったっけ。
また僕は徒歩で移動を開始した。
意外に近い。2日ほど歩くと目的の街にたどり着いた。
「身分証が無い? 街に入るには銅貨2枚な」
「はい」
残りのお金もかなり少なくなってきた。無事魔法陣の先生のところに辿り着けるといいんだけど……
そんなことは杞憂だった。
古びているが大きな屋敷には、様々な魔法陣が作用させてあり、それだけでここなのだと分かった。
結界だけじゃない? 何だろう?
『誰だ?』
門の前に来ると声が届いた。
凄い。人が来たことを知らせてくれて、しかもそこに声を届けられるんだ。
「マイラー先生か、先生の後を継ぐ方はおられますか? 魔法陣の勉強をしたいのです」
『珍しいな。ちょっと待て』
少し待っていると、立派な髭の老人が出てきた。
「随分若いな。どこでうちを知った?」
「実家に古い魔法陣の本があって、それを見ました。転送の魔法陣。手紙しか試していませんが」
「おおー! 入れ入れ」
「はい」
「マイラーはワシの祖父じゃ。今は孫であるワシと、ひ孫のワシの息子が研究を続けておる」
「そうなんですね」
やはりかなり古い本だったから、著者はもうお亡くなりになっているようだった。
それからマイラーさんの孫のカイラーさんと、ひ孫のタイラーさんを交えて魔法陣の話をした。
「レスターと言ったか? どこから来た?」
「国外から」
「そうか。じゃあここに泊まっていけ」
「いいんですか?」
「かなり知識があるようじゃから、できれば手伝ってくれるとありがたい」
「えぇ、そうなんです。防御結界の発注が山ほど来ていまして……。ご存知でしょうが内戦中なんでね」
「僕でよければ」
「それほど多くは出せませんが、給金も出します」
助かる。それは本当に助かる。もうわずかなお金しか残っていないし、僕はメレディス様の補佐官としてしか働いたことがない。どうやってお金を稼げばいいのか、全然分からなかったから。
確かに領地のことや国のことでお金が動くのは見たけど、銅貨1枚の稼ぎ方を知らないのも本当のことだから。
こうして僕はマイラー工房で魔法陣の作成に取り組んだ。
夜になると、カイラーさんとタイラーさんと一緒に魔法陣談義に花を咲かせる。
楽しいな。
でも僕は楽しいと思う気持ち半分と、逃げ出した僕がこんなに楽しくていいんだろうかと心が痛んだ。
メレディス様は元気だろうか? 結婚式……
お揃いのバングル……
「レスター、どうした?」
「ごめんなさい」
僕の目からはポロポロと涙がこぼれ落ちていた。
戻れるなら戻りたい。
ここでの暮らしは楽しいけど、やっぱりメレディス様の側にいたい。もし無理だったら、またここに戻って来ればいい。
行くだけ行ってみよう。
僕には婚約者がいて、逃げ出してしまったことをカイラーさんとタイラーさんに話した。
「戻りなさい。ダメならここに戻ってこればいい。泣くほど愛しているんだろう?」
そうだ。僕はメレディス様を愛してる。
メレディス様が例え僕より愛する人がいても、僕が1番愛する人はメレディス様なんだ。
「僕、帰ります」
「あぁ。国外から来るのは大変だと思うが、何かあったらここに戻って来なさい」
「あ、転送の魔法陣、置いて行ってもいいですか? 上手くいってもいかなくても、連絡します」
「あぁ、いいよ。気を付けてな」
「はい。ありがとうございました」
旅には金がかかるだろうと給金以上に持たせてくれようとしたけど、それは断った。
気持ちだけでいい。もしもの時はここに帰れるんだと思うだけで心強かった。
街を出た僕はドラータ王国を目指して移動を開始した。
内戦が起きているから、万が一僕の素性が知られたら大変なことになると思って、乗合馬車に乗ったり宿に泊まったりはできなかった。
たまに街に寄って食事をすることはあった。一つのパンを何日かに分けて食べていた頃と比べると随分と豪華な食事だ。
間に合うかな?
帝国との国境に差し掛かると、国境は封鎖されていた。
え?
近くにいた商人さんに聞いてみると、今はドラータ王国への入出国が禁止されているらしい。
回り道をして山を越えれば入れるかな?
オルロー王国との国境は封鎖されてなかったけど、今はどうか分からない。
僕は仕方なく山を越える道を選んだ。
結婚式、間に合わないかも。とにかく急ごう。
僕は山の中を駆けた。深い山では獣も多くて、なかなか進むのに苦労したけど、やっとドラータに入ることができた。
1番近くの街で食事をするついでに門番の人に日付を聞いたら、結婚式の日は昨日だった。
過ぎてしまった……
間に合わなかった。
やっぱりもう無理かな。それでもメレディス様を一目見たいという思いで王都に何とかたどり着いたけど、屋敷には向かえなかった。
どんな顔をして会えばいいのか。許してくれるわけないだろうし、僕はメレディス様と出会ったあの木を目指した。マイラー工房に戻ることを考えると、宿に泊まれるほどのお金はない。
木の上に登ってメレディス様と過ごした日々を思い返していた。
ドンッ
危ないな。危うく落ちるところだった。
恐る恐る木から降りてみると、そこには木にもたれて眠るメレディス様がいた。
その先は皆さんご存知の通り。
「レスター、街に行こう」
「はい」
僕の手を引いて歩いていくメレディス様。
どこに行くんだろう?
「あれ? この木」
「私とレスターを繋げてくれた神が宿る木だ」
メレディス様が連れてきてくれたのは、僕たちが出会った木の前だった。
前と違うところは、柵で囲まれていることかな。
「この木を大切にしたいと思ってね」
「すみません。僕、木に登ったりして……」
「ははは、そう言えばそうだったな。大丈夫だ。レスターが登りたいなら登ってもいい」
「もう僕はメレディス様と離れたりしないから、この木の上で寝ることはないかな」
「そうか」
木の上で寝るってのも楽しかったけど、でもメレディス様の隣で寝る方がずっと幸せ。
マイラー工房のカイラーさんとタイラーさんとは、たまに転送の魔法陣を使って魔法陣の話をしている。
僕が実はオルロー王国の前侯爵で、ドラータ王国宰相と結婚したのだと伝えたら、とても驚かれた。
だよね。今考えると無茶なことをしたなって思う。一歩間違えば捕えられて殺されていたかもしれないし。
もう今は内戦が続く帝国には入れない。内戦が落ち着いて、他国との貿易なども再開されることがあれば、また会いに行きたいな。
「レスター、愛してるよ」
「僕もメレディス様のこと愛してますよ」
「前にレスターが買ってくれたハーブティーを買いに行こう」
「はい。みんなにクッキーも買って帰りましょう。デート、楽しいですね」
「そうだな。また来ような」
「はい」
隣で僕に微笑んでくれるメレディス様の綺麗な顔をボーッと見つめた。
「やっぱりすぐに帰ろう」
「え? どうしたんですか?」
「レスターと早くキスしたい」
「ふふふ、いいですよ。メレディス様、こっちです」
僕はメレディス様の手を引いて建物の影に入ると、メレディス様の首に腕を回してキスをした。
「んん……レスター、ダメだ」
「え?」
「全然足りない。やっぱり帰ろう」
「分かりました」
この後、屋敷に戻ると僕たちは愛し合った。
なかなかデートが上手くいかない僕たちだけど、とても幸せに暮らしています。
最後までお読みいただきありがとうございました(*'▽'*)
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