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三章
22.奏太の選んだもの
しおりを挟む斜め前を歩いていた奏太がアクセサリーの店の前で足を止めた。
「恭一はパティシエだから指輪とかはしないよね?」
「そうだな」
「じゃあネックレスとかどう? シルバーの格好いいやつ。その格好シンプルだからきっと似合う」
「そうだろうか?」
恭一の周りにはヨーンのようにパリコレのランウェイを歩いていそうなイケメンがゴロゴロいたため、自分の容姿には自信がなかった。清潔で人を不快にしない姿であればいいと思っていたため、アクセサリーが似合うなどと言われても戸惑うしかない。
「恭一って自分に無頓着だよね。イケメンって自覚してないの? それともスイーツ以外に興味がないとか?」
「そんなことはないが、俺はイケメンではない」
「キリッとした眉も切れ長の目も、そのイケメンしかしちゃいけない髪型が似合ってるところも、筋肉質な体もどれもイケメンじゃん」
容姿を褒められることに慣れていない恭一は、恥ずかしくなって俯いた。『イケメンしかしちゃいけない髪型』などというものがあるのも初めて知り、自分がこの髪型をしていることは許されるのかと少し迷った。だが、奏太が似合うと言ってくれたのだから、世間に許されなくても構わないとも思った。
「俺が選んであげようか?」
「奏太が選んでくれたものなら着けてみたい」
奏太からの提案はとてもありがたいものだった。恭一はアクセサリーなど選んだことがないし、自分に似合うものなど分からない。無難なものを選ぶにしても、どれが無難なのかさえ分からない。
周りを歩いている人たちを見てみると、カラフルで構造が分からないような服を着ていたり、奇抜なアクセサリーを着けていたり、みんな服装に気を遣っているように見えた。お洒落とは程遠い格好の自分がひどく場違いに思えて落ち込む。
奏太を見ると、左耳には小さな黒い十字架がぶら下がったピアスをしており、腕には焦茶色の革を編んで作られたブレスレットがいくつも重ねてつけられている。
「どうした? この革のブレスレットが気になる?」
「そう、だな」
自分もネックレスやブレスレットでもつけたら少しはマシになるんだろうか? そう思ったが、何をつけてもいいわけではない。恭一は奏太のブレスレットをじっと眺めた。
「一個あげるよ」
奏太は腕に重ねて巻いていた革のブレスレットを一つ取って恭一の腕につけてくれた。
「ありがとう、いいのか?」
「いいよ。お揃いだね」
お揃いという言葉にまた胸が熱くなる。恭一はドキドキしながら奏太がつけてくれた革のブレスレットを眺めた。
店に入ると、たくさんのアクセサリーが並んでいた。恭一はどれがいいか分からず、奏太の後ろをゆっくりとついていく。恭一は店の商品を見ても自分には選べないと早々に諦め、奏太の左耳で揺れる小さな十字架と腕に巻かれたお揃いのブレスレットだけを交互に眺めていた。
「これどう? 似合いそう!」
奏太が店で選んでくれたネックレスは、羽根の形のものだった。
「それにしよう。選んでくれたお礼に奏太の好きなものも一つ買おう。どれがいい?」
「俺はいいよ。いつも貰ってばっかだし」
「そうか。いつも世話になっているから遠慮しなくていいのに」
恭一はそう言ってみたが、奏太は要らないと言った。
「ご自宅用ですか? プレゼントですか?」
「自宅用だが、今つけるからタグを外してほしい」
「畏まりました」
耳だけでなく口や鼻にもピアスをした店員の男はタグを外して渡してくれた。
恭一がチェーンの金具を上手く外せず悪戦苦闘していると、奏太が「やってあげるよ」と言ってつけてくれた。
「似合うね」
「選んでくれてありがとう」
似合うのかどうかは鏡を見ても分からなかったが、奏太が似合うと言ったんだから間違いないだろう。奏太はいつも恭一に新しい道を教えてくれる。立ち止まった時も迷った時も、何もない時でも、恭一に知らない世界を教えてくれる。
その感謝はありがとうの一言では言い表せない。上手く言葉にできない気持ち、どうやったら上手く伝えられるのか、恭一には分からなかった。
「お腹すいた?」
「そうだな」
「俺がいつもいく店でいい?」
「奏太がよくいく店とは楽しみだ」
スマートに手を握られて、恭一はまた奏太の左耳の小さな十字架と背中を眺めるように歩いた。暑さのせいで奏太の背中には薄っすらと汗染みができている。早く涼しいところに行きたいと足速になる奏太に、恭一は黙ってついていった。
ここだと奏太に案内されたのはハンバーガーが有名な世界中に支店を持つファーストフード店だった。恭一も中学生や高校生の頃は友人と訪れたことがある。
高校生の奏太に行きつけの小洒落た店などあるわけはなく、久しぶりのファーストフードという選択に恭一は楽しくなった。そういえば日本でしか食べられないメニューがあったと思い出した恭一は、フランスでは食べられないテリヤキバーガーセットを注文した。
「俺がよくいく店って、ファーストフードとか牛丼屋とかラーメン屋なんだけど、大人な恭一は嫌だった?」
「いや全然。普段自分一人では行かない店だからとても楽しい」
「そっか、それならいいんだ」
奏太に告げた言葉は恭一の本心だった。やっぱり奏太は思考回路が違う。恭一が選ばないものを選んで、楽しい気持ちにしてくれる。期待を裏切らないどころか、期待以上の出来事が重なり、お腹だけでなく恭一の心も温かく満たされていった。
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