【完結】天才パティシエは年下彼氏の忠実な犬になりたい

cyan

文字の大きさ
22 / 81
三章

22.奏太の選んだもの

しおりを挟む
  
 斜め前を歩いていた奏太がアクセサリーの店の前で足を止めた。
「恭一はパティシエだから指輪とかはしないよね?」
「そうだな」
「じゃあネックレスとかどう? シルバーの格好いいやつ。その格好シンプルだからきっと似合う」
「そうだろうか?」
 恭一の周りにはヨーンのようにパリコレのランウェイを歩いていそうなイケメンがゴロゴロいたため、自分の容姿には自信がなかった。清潔で人を不快にしない姿であればいいと思っていたため、アクセサリーが似合うなどと言われても戸惑うしかない。

「恭一って自分に無頓着だよね。イケメンって自覚してないの? それともスイーツ以外に興味がないとか?」
「そんなことはないが、俺はイケメンではない」
「キリッとした眉も切れ長の目も、そのイケメンしかしちゃいけない髪型が似合ってるところも、筋肉質な体もどれもイケメンじゃん」
 容姿を褒められることに慣れていない恭一は、恥ずかしくなって俯いた。『イケメンしかしちゃいけない髪型』などというものがあるのも初めて知り、自分がこの髪型をしていることは許されるのかと少し迷った。だが、奏太が似合うと言ってくれたのだから、世間に許されなくても構わないとも思った。

「俺が選んであげようか?」
「奏太が選んでくれたものなら着けてみたい」
 奏太からの提案はとてもありがたいものだった。恭一はアクセサリーなど選んだことがないし、自分に似合うものなど分からない。無難なものを選ぶにしても、どれが無難なのかさえ分からない。
 周りを歩いている人たちを見てみると、カラフルで構造が分からないような服を着ていたり、奇抜なアクセサリーを着けていたり、みんな服装に気を遣っているように見えた。お洒落とは程遠い格好の自分がひどく場違いに思えて落ち込む。
 奏太を見ると、左耳には小さな黒い十字架がぶら下がったピアスをしており、腕には焦茶色の革を編んで作られたブレスレットがいくつも重ねてつけられている。

「どうした? この革のブレスレットが気になる?」
「そう、だな」
 自分もネックレスやブレスレットでもつけたら少しはマシになるんだろうか? そう思ったが、何をつけてもいいわけではない。恭一は奏太のブレスレットをじっと眺めた。
「一個あげるよ」
 奏太は腕に重ねて巻いていた革のブレスレットを一つ取って恭一の腕につけてくれた。
「ありがとう、いいのか?」
「いいよ。お揃いだね」
 お揃いという言葉にまた胸が熱くなる。恭一はドキドキしながら奏太がつけてくれた革のブレスレットを眺めた。

 店に入ると、たくさんのアクセサリーが並んでいた。恭一はどれがいいか分からず、奏太の後ろをゆっくりとついていく。恭一は店の商品を見ても自分には選べないと早々に諦め、奏太の左耳で揺れる小さな十字架と腕に巻かれたお揃いのブレスレットだけを交互に眺めていた。

「これどう? 似合いそう!」
 奏太が店で選んでくれたネックレスは、羽根の形のものだった。
「それにしよう。選んでくれたお礼に奏太の好きなものも一つ買おう。どれがいい?」
「俺はいいよ。いつも貰ってばっかだし」
「そうか。いつも世話になっているから遠慮しなくていいのに」
 恭一はそう言ってみたが、奏太は要らないと言った。

「ご自宅用ですか? プレゼントですか?」
「自宅用だが、今つけるからタグを外してほしい」
「畏まりました」
 耳だけでなく口や鼻にもピアスをした店員の男はタグを外して渡してくれた。

 恭一がチェーンの金具を上手く外せず悪戦苦闘していると、奏太が「やってあげるよ」と言ってつけてくれた。
「似合うね」
「選んでくれてありがとう」
 似合うのかどうかは鏡を見ても分からなかったが、奏太が似合うと言ったんだから間違いないだろう。奏太はいつも恭一に新しい道を教えてくれる。立ち止まった時も迷った時も、何もない時でも、恭一に知らない世界を教えてくれる。
 その感謝はありがとうの一言では言い表せない。上手く言葉にできない気持ち、どうやったら上手く伝えられるのか、恭一には分からなかった。

「お腹すいた?」
「そうだな」
「俺がいつもいく店でいい?」
「奏太がよくいく店とは楽しみだ」
 スマートに手を握られて、恭一はまた奏太の左耳の小さな十字架と背中を眺めるように歩いた。暑さのせいで奏太の背中には薄っすらと汗染みができている。早く涼しいところに行きたいと足速になる奏太に、恭一は黙ってついていった。

 ここだと奏太に案内されたのはハンバーガーが有名な世界中に支店を持つファーストフード店だった。恭一も中学生や高校生の頃は友人と訪れたことがある。
 高校生の奏太に行きつけの小洒落た店などあるわけはなく、久しぶりのファーストフードという選択に恭一は楽しくなった。そういえば日本でしか食べられないメニューがあったと思い出した恭一は、フランスでは食べられないテリヤキバーガーセットを注文した。

「俺がよくいく店って、ファーストフードとか牛丼屋とかラーメン屋なんだけど、大人な恭一は嫌だった?」
「いや全然。普段自分一人では行かない店だからとても楽しい」
「そっか、それならいいんだ」
 奏太に告げた言葉は恭一の本心だった。やっぱり奏太は思考回路が違う。恭一が選ばないものを選んで、楽しい気持ちにしてくれる。期待を裏切らないどころか、期待以上の出来事が重なり、お腹だけでなく恭一の心も温かく満たされていった。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

目が覚めたら宿敵の伴侶になっていた

木村木下
BL
日本の大学に通う俺はある日突然異世界で目覚め、思い出した。 自分が本来、この世界で生きていた妖精、フォランだということを。 しかし目覚めたフォランはなぜか自分の肉体ではなく、シルヴァ・サリオンという青年の体に入っていた。その上、シルヴァはフォランの宿敵である大英雄ユエ・オーレルの『望まれない伴侶』だった。 ユエ×フォラン (ムーンライトノベルズ/全年齢版をカクヨムでも投稿しています)

薔薇摘む人

Kokonuca.
BL
おじさんに引き取られた男の子のお話。全部で短編三部作になります

冷徹勇猛な竜将アルファは純粋無垢な王子オメガに甘えたいのだ! ~だけど殿下は僕に、癒ししか求めてくれないのかな……~

大波小波
BL
 フェリックス・エディン・ラヴィゲールは、ネイトステフ王国の第三王子だ。  端正だが、どこか猛禽類の鋭さを思わせる面立ち。  鋭い長剣を振るう、引き締まった体。  第二性がアルファだからというだけではない、自らを鍛え抜いた武人だった。  彼は『竜将』と呼ばれる称号と共に、内戦に苦しむ隣国へと派遣されていた。  軍閥のクーデターにより内戦の起きた、テミスアーリン王国。  そこでは、国王の第二夫人が亡命の準備を急いでいた。  王は戦闘で命を落とし、彼の正妻である王妃は早々と我が子を連れて逃げている。  仮王として指揮をとる第二夫人の長男は、近隣諸国へ支援を求めて欲しいと、彼女に亡命を勧めた。  仮王の弟である、アルネ・エドゥアルド・クラルは、兄の力になれない歯がゆさを感じていた。  瑞々しい、均整の取れた体。  絹のような栗色の髪に、白い肌。  美しい面立ちだが、茶目っ気も覗くつぶらな瞳。  第二性はオメガだが、彼は利発で優しい少年だった。  そんなアルネは兄から聞いた、隣国の支援部隊を指揮する『竜将』の名を呟く。 「フェリックス・エディン・ラヴィゲール殿下……」  不思議と、勇気が湧いてくる。 「長い、お名前。まるで、呪文みたい」  その名が、恋の呪文となる日が近いことを、アルネはまだ知らなかった。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜

たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話 騎士団長とのじれったい不器用BL

俺が聖女なわけがない!

krm
BL
平凡な青年ルセルは、聖女選定の儀でまさかの“聖女”に選ばれてしまう。混乱する中、ルセルに手を差し伸べたのは、誰もが見惚れるほどの美しさを持つ王子、アルティス。男なのに聖女、しかも王子と一緒に過ごすことになるなんて――!? 次々に降りかかる試練にルセルはどう立ち向かうのか、王子との絆はどのように発展していくのか……? 聖女ルセルの運命やいかに――!? 愛と宿命の異世界ファンタジーBL!

処理中です...