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騎士学校篇
12.
しおりを挟む朝までしっかり眠ると、体のだるさはすっかり消えていた。魔力も全回復しているし、体が軽く感じる。
友達に囲まれて一緒に食事をとると、作戦会議が始まった。僕は救護班だから関係ないんだけど、友達に囲まれたまま参加することになった。参加するといっても僕は戦わないから聞いているだけだ。
盾に魔法で強化をかけて、風魔法の攻撃を防ぎながら攻撃するそうだ。
盾を持ったグループがベヒーモスの注意を引き、側面から槍を持った人たちが攻撃を加える。盾で受け止める人たちは重労働だから、途中で入れ替えるとか、色々言っていた。
後衛の魔法を使える人たちは、攻撃ではなく前衛の人たちの防御とサポートをする。風魔法が飛んできたら障壁で防いだり、敵の注意を引きつけるために弱い魔法を飛ばしたりするそうだ。
殿下はまだ回復していないから戦闘には不参加で後方から指示を飛ばすらしい。
僕は救護班だから、怪我人が運ばれてきた時に治癒魔法を使うか、ポーションを渡す係だ。
作戦がうまくいったのか、怪我人は何人も出たけど無事ベヒーモスは倒れた。僕はその報告を聞いてホッとした。
ベヒーモスの素材は防具や武器に加工するために持ち帰るそうだ。騎士複数人で馬車に乗せて運ぶ。この世界には魔法があるから身体強化などを使って人力で運べるけど、そうでなければクレーンとかがないと運べないほどの巨体だ。
他にも布に包まれた何かを乗せているのが気になって、僕は友達に尋ねてみた。
「あれは何?」
「あれは殉職者だ」
「そうなんだ……」
今日の戦いで死者は出なかったけど、昨日までの戦いで亡くなった人がいた。殿下のことは助けられたけど、助けられない命もあった。僕が到着した時にはもう亡くなっていたのかもしれないけど、もっと僕に魔力があれば、もっと治癒魔法を上手く使えたら、助かったかもしれないと思うと胸が苦しくなった。
「リアン、俺の馬に相乗りして帰ろうぜ」
そんなところに殿下がやってきた。
いつも僕を取り囲んでいる友達も、殿下を前にすると少し遠慮してしまうようだ。
みんなを困らせてもいけないと、僕は了承した。
「フロリアンはリアンって呼ばれてるんだろ? 俺も呼んでいいか?」
「はい、お好きなようにどうぞ」
「まだ学生のリアンは、亡くなった者を見るのは初めてか?」
「はい」
「俺は何度も見ている。だが慣れることはない。いつも悔しいし悲しい」
「うん。僕も、悔しいし悲しい。もっと僕に魔力があれば、もっと治癒魔法が上手ければ、助けられたのかもしれない」
「リアンはいい子だな。俺ももっと強ければ彼らを守れたと悔しい気持ちはある」
「そっか」
僕にとっては知らない騎士だけど、殿下にとっては大切な部下で、きっと僕よりもずっと悔しいんだろう。
それに、殿下は瀕死になるまで戦った。殿下に助けられた命もあったと思う。
僕は戦うのが怖いし、痛いのを我慢して戦うなんて無理だ。だから殿下はすごいと思った。
「リアン、俺のものになる気になったか?」
「いえ、なってません」
「はははっ、なかなか手強いな」
殿下はきっと僕を揶揄って遊んでいるんだ。綺麗な人を侍らせたいなら、パーティーでドレスを着た女の人の中から選び放題だと思う。
わざわざ男の僕を相手に選ばなくても、もっと相応しい人がいる。
早く諦めてくれないかな?
そんなことを思いながら帰った。
騎士団に着いて殿下の馬から降りると、友達と一緒に寮に帰った。
「フロリアン、待っていたぞ」
父上の強行軍よりはマシだけど、殿下と相乗りは緊張したし、三日も馬に乗っていたから疲れていた。それなのに寮の部屋の前で父上が待っていたんだ。
せっかく部屋のベッドでウサギさんのぬいぐるみをモフモフしながら癒されようと思ってたのに……。
部屋に戻ることなく、僕は父上の隊長室へ連れていかれた。
「殿下を助けたそうだな」
「はい」
「フロリアン、よくやった」
「ありがとうございます」
なんだ、父上は褒めるためにわざわざ呼びにきたのか。
僕は聞きたいことがあったんだった。せっかくだから聞いてみよう。
「殿下が僕を庇護下に置くと言いました。庇護下ってなんですか?」
「殿下のお気に入りになったということだ。お前に手を出すということは殿下を敵に回す。他の者がおいそれと手を出せなくなったということだ」
お気に入り……。
僕はもう既に殿下のものになってしまったらしい。
殺されたり攫われたりする危険はなくなったのかもしれないけど、僕はいつか殿下にこの身を差し出さなければならないのかもしれない。
「陛下にも呼ばれるかもしれん。俺が付き添うが、心積りはしておけ」
「陛下に呼ばれるんですか? 僕が?」
「そうだぞ。助かる見込みなしの殿下を助けたんだからな」
「そうなんだ……」
なんだか大事になってしまった。殿下を助けたことは間違いだとは思わないけど、僕は自分にできることをして、身の丈にあった平穏な生活を送りたい。
可愛いものに囲まれて、領地のお気に入りの丘の上でのんびり本を読む。そんな生活がしたかったのに。
「それとフロリアンは卒業後、救護班に入ることが決まった」
「分かりました」
それはいいんだ。そうなるだろうと思ってたし、戦闘要員として働くことにならなくてホッとしている。
戦いに身を置いていれば即死ってこともあるだろうし、全員の命を救うことはできないかもしれない。だけど一人でも多くの人を救えるよう、明日からちゃんと訓練しよう。
その日は父上に寮の部屋まで送ってもらった。
「なんだこの部屋は……」
僕の部屋を初めて見た父上は驚いていたけど、フロリアンなら仕方ないと言って納得してくれた。
「このウサギさん、触り心地がいいんですよ。父上に一つあげます。可愛いし癒されますよ」
僕はなんだか疲れた様子だった父上に体長三十センチほどのウサギのぬいぐるみをあげた。
これは本当に、肌触りがいい布を使っていて、ビーズクッションからヒントを得た軽くて粒々の何か知らないやつを綿の代わりに入れている。明日はお休みだから、布とこの中に入れるビーズのようなやつを買って、新しい子を作ろうと思う。
僕は柔らかいぬいぐるみに囲まれて眠りについた。
翌朝、友達と一緒に食堂へ向かうと、父上が可愛いウサギを抱えて歩いていたという噂が広まっていた。
夜だったし、こんなに噂になると思ってなかったから、何だか悪いことをしてしまったかもしれない。
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