俺たちの××

怜悧(サトシ)

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夏休み編

デートのお誘い →side T

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体中の筋肉がギッシギッシ音をたてて動くたびに軋んで痛ェ。

喧嘩三昧の毎日でもこんなことはなかった。 

不自然な格好で拘束されてのセックスは、いくら鍛えていても流石に体に堪える。 
普段使わない筋肉を無理に使っている結果だろう。
内股の間にまだ、なんかささってるみたいにだるい。
まあ、キモチはいいんだけどな、激しく疲れんだよなあ。

動く気力もなく、クイーンサイズのベッドの上で俺はタバコを咥えてふかしていた。 
この部屋の持ち主が見たら怒るだろうが、今はどっかに朝飯の買い出しに行っている。 
とはいえ、広めの部屋に一人で居るのは少し退屈な気分になる。ダチのセージも、受験勉強するとか言ってあんまり遊びにきやしない。
でも、アイツなりに俺たちに気を使っているのだろうなとは思う。
最中を見られちまったしな…… 。
鳩が豆鉄砲を食らったように二の句が告げずにパクパク口を動かしていた様子を思い返すと、ちょっと吹き出しそうになる。
まあ、もし、逆の立場だったら俺もそうなるだろう。 

「タダイマ、朝飯買ってきたぞ。朝飯の食材切らしたから、今日はコンビニな」 

玄関の開く音と、ビニールのガサガサとした音が聞こえて、部屋へ持ち主が帰ってくる。 
「おー。オカエリ、飯ベッドで食っていい?」 
ベッドサイドのチェストから灰皿を掴むと、タバコを押し付けて火を消して問う。
家主は俺の目の前に立って無言でベッドから出ろという目をして首を振る。 
「飯くらい、ちゃんとテーブルで食え。…………横着してたらイイ大人になれねえぞ」 
「…………動けねえよ、体、痛ェんだ。誰かさんが宙吊りセックスしたいとか、無茶苦茶すっから」 
文句を口にしつつも、家主の言葉に仕方ないと痛む筋肉を叱咤して漸く起き上がり、ごそごそとスエットの下を手にとってのろのろと履く。 
内股の筋肉が変に開いちまったのか、歩くたびにズキズキとする。 
「いや…………まあ、悪ぃ、痛むのか……大丈夫か?」 
バツが悪そうな顔で近寄って腕をとろうとする奴の顔が、犬っぽくて可愛いなとか思う。 
俺は康史のこういったときの、俺を心配するような必死な顔が好きだ。 
「長年の妄想が爆発しちまって、歯止めがきかないというか…………」 
「…………俺で長年妄想できるっていう、オマエがすげえよ、ヤス」 
呆れていいながら、ソファーにどかっと腰を下ろして、テーブルの上に置かれたコンビニの弁当を手にとる。 

この部屋の主である日高康史は、整った顔をしていて服装も髪型もオンナにモテそうな格好をしている。イケメンでオンナったらしと周りでは有名だった。 

そんなヤツが喧嘩くらいしか取り柄のない俺で長年妄想してたというのだ。まったくもって理解しがたい。 
理解し難いが、それは優越感でもある。
俺は康史の一回りは体が大きく、顔はいかつくて怖いと言われる。
女子にはモテる要素はない。
康史みたいな綺麗なもんじゃあねえ。
弁当の蓋をあけて、割り箸を袋から取り出して割るとイタダキマスと声をかけて口に運ぶ。 

「なあ、トール、今日遊園地いかねえか?コンビニでチケット買ってきたんだ」 

康史は、期待でいっぱいの目を俺に向けて、おもむろに遊園地へと誘う。
テーブルの上に、2枚の遊園地のチケットを財布から出してヤスは俺の顔を覗き込む。 

「……いいけどよォ。……体いてえからあんま動けねェぞ……」 
「夏休みだし。どうせ待ち時間ばっかだろうから、そんなに動かないと思う」 
わくわくして期待しているような康史の様子を見ると、なんだか可哀想で断ることはできない。 
デート…………なんだろうな。
こんだけイケメンでマメで甲斐性もあるのなんだから、本当に何故俺なんだとは思うけど、悪い気はしていない。 
まあ、別に遊園地に喜ぶようなテンションじゃねえのは悪いとは思うが。

弁当を食べきると、ギシギシする体を伸ばして夏休みに入ってから、殆ど外に出ていないため着ていなかった衣服を目で探す。

本当に軟禁生活だ。
別に拘束されてはいないわけだし、勝手に外にでりゃいいんだけど暑いし、どうせ外に出たら出たで絡まれて面倒だし。
「トールの服、今洗濯してるンだ。えーと、オレが選んだンだけど、コレ着てみてくれねえかな、トールに似合うと思ってさ」 
康史は、俺にストリート系のメンズブランドの大きな紙袋を差し出した。 
「ちょ、オマエ、いつこんなの買ってきたんだ?」 
渡された紙袋から、シャツやパンツを取り出し自分では選ばない柄生地の服に息を飲んだ。 
「あー、監禁してた時。オレの服着せておくわけにもいかないかなって、選んでたら時間忘れて夢中になっちまって……」
歯切れが悪い様子で言うのは、俺を拘束したまま放置して出かけたあの日のことか。
大きさからいって、康史は俺のためにこれをわざわざ選んで買ってきたのだ。 
康史の服じゃ俺はパツパツで着られないのが多いし、当然といえば当然なのだが。 
俺は、黒地の腕と襟元にオレンジのチェックの素地が切り返しに入ったTシャツに腕を通し、薄手の半袖のピンクのパーカーを羽織る。パンツはチョコレート色のチノパンで、 
チャンピオンベルトのような大きなバックルがついたベルトをつけるとそこにアクセントがおかれる。 

「やっぱ、こういうのも似合うな。トールは何着てもカッコイイんだけどさ」
カッコイイとか言われると、なんだか照れくさい。
普段は、殆どタンクトップと動きやすい極太スエットパンツか、制服のどちらかである。 
オシャレとかどうやったらいいかよくわからない。 
「マジ可愛い。うわあ、このまま犯したい、やばいなあ、たまんねえ」 
興奮しだして俺の肩を掴む康史の身体を軽く押してのかすと、
「をい、……遊園地、いくんだべ。ちゃんと帰ってくるまで我慢しとけよ」 
ぽんとその肩を叩くと、ベッドヘッドに置いておいた携帯と財布をポケットに突っ込む。 
「え。帰ったらいいのか?やべえ、妄想が止まらないぞ、トール」 
康史は自分も着替えながら、何度も俺の姿を伺ってぶつぶつにやけた顔で見ている。 
いつものことながら、康史の格好はモデルのように決まっている。 
本当にもったいない。残念系イケメンとはこいつのことだろうな。 
「男が服を贈る理由って、トールは知らないよな」
タバコの箱をポケットに入れようと掴んだ時に、康史はニヤニヤしながら俺の顔を見返した。 
「ンなことしたことねえから分からねえよ。自分好みにしてえから、とかか」 
「脱がせるため……らしいぜ」 
近づくと少し背伸びをして耳元で囁いてくる康史に、俺はタバコを落としそうになりつつ掴み直してポケットに突っ込んで、康史のデコを指で弾いた。 
「オメエは毎日脱がしてンだろうが。お陰で俺の体は……」 
言いかけてやめた。 
ここんとこずっとハメられてたものがねえのが、違和感。 
欲しくてたまらねえ、ズキズキ感もある。そんなことは、シラフじゃ言えねえ。 
「毎日トールの体に負担かけてンのはわかるよ。ゴメンネ」 
何を勘違いしたのか謝られて、腰を撫でられると変な気分になる。 
「あ、ああ…」 
触れられるだけで疼いて仕方ない。夏休み中ヤリまくって、康史なしではいられない体にすると宣言されたが、この感覚がそうなのだろうか。 
朝から晩まで、一日中ヤってたらそうなっちまうのも無理ねえことかもしれねえけど。 
「バイクでいくべ?」 
「いや……トール体調悪そうだし、渋滞で身動きとれなくなってもだからよ、電車で行こう」 
意外な言葉と体調を気遣う相手の言葉に、なんだか胸のあたりがキュンと痛くなる。 
なんだろう体もズキズキだが、心の方もズキズキしてくる。 
「ヤス……」 
「どうした?トール?」 
思わず声をかけた俺の背後から康史は心配して顔を覗き込んでくる。 
あー、こういう康史の心配そうな顔はやっぱり弱い。 
俺は、康史の頭を片手で掴んで唇をついばむように何度か重ねて奪う。 
驚いたように目を見開く康史の顔を眺めながら、ああ、俺からっていうのは初めてかもしれないなと思った。 
「……ヤスが好きだなあって思った。さって、いくか」 
「ちょ、トール。オレ、いまスゲエ臨戦態勢なんだけど」 
前かがみになって後ろからついてくる康史に俺は笑って頭を撫でてやる。 
俺も疼いて臨戦態勢。
でも、それは言ってやらねえ。 
言ったら、遊園地なんぞへはいけなくなっちまう。 
「我慢しろっての。遊園地いくんだべ、帰ったら何戦でも受けてたつからよ」 
「……トール……、それってかなりの焦らしプレイだな。帰ったら仕返ししてやっからな」 

拳を握りしめている康史を尻目に俺は部屋を出て、新鮮な空気を何日かぶりに肺に取り込んだ。 
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