俺たちの××

怜悧(サトシ)

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番外編

Make a Birthday Wish !

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「来週の金曜日は休みを取るよな」
 まるで当然のことかのように問いかける恋人に、東流は眉をあげてポケットから携帯を取り出した。
 仕事から帰るなりいきなり問われて、シフトも思い出せずスケジュールのアプリを開く。このアプリの使い方も最近覚えたばかりで、使いこなせているとは言い難いが、指先でたどたどしくカレンダーを開いて確認すると出勤の印がついていた。
 金曜日は二月の最終日で、日にちを見て恋人が言わんとすることを悟ると、鼻先を指で軽く掻いて視線を向けた。
 二月二十八日は、彼自身の十九歳の誕生日である。すっかり忘れていたのだが、まだ今から休みの申請をすれば、シフトは変えられるはずである。来月になると働いている運送会社はかなりの繁忙期になる。毎年不休になることもあると上からは言われているが、まだこの時期なら融通は利くはずだった。
「別に、祝いなんていらねえぞ」
 着ていたダウンジャケットを脱いで、近くのソファーにかけると、リビングの椅子にどかりと腰を下ろした。
 社会人になってわざわざ休みを取ってまで、誕生日祝いなどはしなくてもいいだろうと考える。
「休み、とれないのか」
 整った綺麗な顔に寂しそうな表情を浮かべて、目の前に淹れたばかりのコーヒーを差し出す恋人の様子を見やると、東流は頷くのをためらった。
「誕生日とかで、わざわざ変える必要まではねえかなって」
「……まあ、そうだよな。社会人だからそんな簡単には休みとれないよね。……ごめんね」
 気楽な学生みたいなことを言ってごめんと、溜息混じりに後悔したような表情で謝られると胸がつきんと痛む。
 恋人の誕生日を祝ってあげたいという純粋なキモチを無為にしてしまった罪悪感と、そんな顔をさせてしまったことに対しての無力感だ。
 別にシフトを変えるくらいはよくある話なのだが、自分の誕生日だからという理由でわざわざ変えることを上司に申し出るのが、なんとなく気恥ずかしい気がしたからだ。
 康史の寂しそうな表情を見ると、東流の中のそんなキモチはさっぱり消えてしまう。
「わかった。シフト変えてもらう」
「トール。ムリしなくていいって」
「ちょっと照れくさかっただけだからよ……」
 出されたコーヒーカップを掴んでごくりと熱をとりこむと、軽く視線を逸らせた。
「もお、可愛いことばっかいわないで。じゃあ、どっか行きたいとことかある?折角だし、デートでもしようぜ」
 駆け寄ってきて隣に座る恋人に、嬉しそうな顔でせがまれると何でも聞いてしまいそうになるが、東流は頷くのを止めて顎先に指を置いた。
「デートな。去年みたいなことしたら、風邪ひくしな。家の中で一緒にいればいいんじゃねえかな」
 確か去年の誕生日は、レストランからの帰りに公園に寄って、冬の寒い夜中だというのに散々いたしたような覚えがある。
 あれは、色々やっちまった感があったんだよな。まあ、まだ高校生だったのもあるけどな。
「そうだね……。忙しくなるのに体調崩すわけにいかないもんね。でも、トール、風邪ひいたことあったっけ」
 問いかけられて生まれてこのかた風邪を引いた記憶がなく、東流は首を横に振った。
「風邪なんかひいたことねえけど、インフルエンザとかも出回ってるしよ。用心にこしたことはねえだろ。それに、ヤス、オマエがひくかもしれねえからな。気をつけろよ」
 東流は、最近は随分寒いからねと体を寄せてきた康史の腰に腕を回して引き寄せた。 
「もし風邪ひいても汗をかかせて治してあげるけどね」
 胸板へと頭を押し付ける康史の仕草が猫のように可愛いらしくて、東流は手のひらで赤茶けた彼の髪の毛をゆっくり撫でる。
「……汗かけば治るもんなのか」
「病院に行って安静にするのが一番だけど、多分、トールはそっちのほうが治りそう」
 情弱な東流の様子に、おかしそうに笑いながら厚い胸板の感覚を愉しむように康史は何度も頭を押し付ける。
「まあ、俺にはウイルスの方がびびって寄ってこねえけどな」
「そうだよね。トールは無敵だしね。じゃあ、オレは前の日に手作りのケーキとお祝いの料理を作るよ」
 ホームパーティみたいな感じで用意するからと告げられ、東流は驚いたように相手を見返した。
「ケーキって作れるもんなのか」
「お店で売ってるようにできる自信はさすがにないけどね。甘ったるいの苦手だろうから、砂糖抑え目で作るよ」
 長年一緒に過ごしていて弁当を作ってもらったり、一緒に暮らしてからは料理をしてもらっていたが、ケーキやお菓子の類が作れるのは知らなかった。
 でも、バレンタインのチョコも手作りでくれたよなと思い出すと、感動したような表情で康史をぎゅっと抱きしめた。
「ヤスはホントになんでもできるよな。楽しみにしてるぜ」

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