俺たちの××

怜悧(サトシ)

文字の大きさ
343 / 353
社会人編 season2

第5話→sideY

しおりを挟む
オレたちの修羅場を予想していた七海さんは、あっけらかんと受け入れる東流の様子に、信じられないといった表情をしてどういうことかとオレを見返す。
まあ、普通の恋人の反応じゃありえないからな。
オレには東流の考えやリアクションは、すっかり慣れてしまっていている。ほぼ正確な予想もつけられるようになっているといっていい。
そして、大体その予想通りすぎて、いま壮絶にへこんでいるところである。
そして、これからどうしようかと必死に策をめぐらせて、話の持っていきかたを考えあぐねている、

東流は、当然のようにオレが息子を引き取るものと考えているようだからだ。

弁護士と交渉する時に、その件は口は出してきそうだな。
そう考えると、ひどく憂鬱になる。
引き取らなければ、責めるだろうか。

インターフォンが鳴るのに、俺は溜息をついて立ち上がると、軽くカメラで鞍馬の顔を確認して、玄関に向かった。

「イタリアでは、どうも」

頭をさげて弁護士の鞍馬は少し臆した様子の少年の手を引いて玄関に入った。
子供の身長は、150センチくらいなので、年齢的には普通くらいだと言える。
写真で見たのと変わらない。

「いえ。これが、一望くん?はじめまして、僕は日高康史、君の父親……だよ」
まあ、遺伝子というのはすごいもので、まるでタイムスリップでもして鏡を見たかように、子供のころのオレにそっくりだった。

これは認めざる得ないよな。

「…………はじめまして……。おとうさん…………」
言いにくそうな顔をして、無表情でオレを見上げる目には、それほど会いたかったとか、そういう感情はみられなかった。
ただただ、不安に打ちひしがれた顔だ。
母親が死んだばかりだ、そんな反応も無理もない。

「狭いマンションですけど、どうぞ中に入ってください」

俺は軽く初めて会う息子の肩を叩いて、中に入れた。

「彼女は、僕の事務所のマネージャーで貫田さん。で、こっちが、僕のパートナーの東流です」 
色々調べたと言っていた鞍馬は、東流のことも折り込み済だったのかまったく驚きはしなかった。
椅子に腰を下ろすようにすすめると、鞍馬は直ぐに座る。

七海さんは、一望を奥のソファーに座らせて冷蔵庫に入っていたジュースとお菓子を出す。
「まずは、日高さん。彼を認知していただけるかから確認をしたい」
俺は対面の椅子に腰を下ろして、七海さんがいれてくれた珈琲に口をつける。
「認知はしますよ」
書類を眺めて、書かれている文面をさらりと見やる。
「意外でした。そんなに簡単に認知なさるとか」
「三浦さんのことも、覚えてますし……。ここまで自分に似てるから疑いようもないですが、条件として念のためDNA鑑定検査はお願いします」 
今の世の中では整形詐欺ということも、ゼロではない。

「それはもちろんですよ。じゃあ、本題にはいりましょうか」

どうやって話をまとめるか。
少し考えないといけない。これまでの生活は壊したくはない。

「なあ、ヤス、なげーのか?そのはなしはよ?アイツつまんなそーだし、外でボールでも投げて遊んでくるぜ」
渡りに舟だ。
どうやら、東流はこの話に興味がないのか早々に飽きたらしい。
それより息子が気になるのか遊びにいくといいだした。
「ああ……長くなるよ」
「ちょっと待ってください、一応養子縁組してる貴方も関係ある話です。遺産相続とか」
「ン?誰の?」

東流はまったく分かってはいない表情で立ち上がると、棚からバスケットボールを持ち出す。
「もし、日高さんが先に亡くなることになったら、彼と遺産を分割することになりますから」
「あァ?なんだよ。難しいこといわねえでくれ」
眉を顰めた顔は非常に厳ついので、鞍馬はビビったのか身体を強ばらせている。
「もし、オレが先に死んだ時の遺産を子供とトールで分ける話だよ」
「それ。んー、ヤスが死んだらほしいものを言えばいいのかよ?」
東流は指先でクルクルとボールを回して、弁護士のポケットからペンをするっと奪うと、紙にさらさらとなにやら書く。

「俺はこれだけありゃあいい。あとは、ぜーんぶこの子にやればいーよ。まー、ヤスに先に死なれたら俺はイヤだけどさ」

鞍馬は、書かれた文字を見て驚いた顔で東流を見あげ、じゃあ遊んでくるぜと言って、さらっと一望の腕をとる。
オレは、いきなり知らない厳つい人に無理やり連れていかれ怯える息子を見送った。

弁護士の手にある紙を覗きこむと、「ヤスのほね」とだけ、書いてあった。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

処理中です...