斬り裂くのは運命と識れ【完全版】

怜悧(サトシ)

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潜入調査は、海運捜査局では重要な任務であり、かなりの能力を要求される任務である。提出される図面や書類が必ずしも正しくはなく、密輸は日常的におこなわれている。
 失敗して返り討ちにされたという事例もいくつかあり、危険と隣り合わせであるが、得る収穫は大きい。
 この間、副局長に焚きつけられたゴルデスが、薬物を五百キロ摘発して、表彰されていたのは記憶に新しい。銀の勲章も貰う予定だと嬉しそうに話してたっけ。
 殆ど副局長に言われたとおりにやっただけなんだけどなあと、ゴルデスが罰が悪そうな顔で言ってたが、当の本人は全く自分の功績にはしないようだった。
 桑嶋は一通りの作戦は頭にいれたが、かなりの念をいれた完璧なプランに、安心しきっていた。潜入捜査とはいえ、プランがしっかりしていれば大抵問題はない。これなら万が一など起こる訳がなかった。
 暗闇の中で指先に装着した指輪からの薄暗い光を頼りに、宇宙船の船内へと潜入する。統久は大きいがしなやかな動きで中に入り込み、搭乗口のコードキーを難なく外して奥へと向かう。
 潜入とは名ばかりの、不法侵入ではあるが、パスの開錠だけでもそうとうの能力を要する。三つあるうちの二つ目のパスも統久は特に躊躇うこともなく開錠し、スタッフルームへの扉を開く。
 今日一日、統久はいつもよりも口数が少なく、端末の前で夢中で仕事をこなしていたが、気分が悪いのかトイレに何度も行っていたのが桑嶋には気になっていたのだが、それもこの様子では問題ないようである。
 こういう場合、役立たずは自分の方かと思い始めたところで、桑嶋の視界から大きな背中が消える。
 統久はいきなり口を手で覆うと天井を仰いで、桑嶋の横からたたっと早足で離れて部屋の隅へと移動する。
 作戦にはない統久の動きに視線を向けると、耳に装着したイヤフォンから、少し荒い呼吸の合間に掠れた声が聞こえる。
「わりィ……セルジュ。いきなりだが、俺、ヒートきちまったみたい。いきなり足手まといになってすまんが、あとは任せた。あと2週間は猶予あったはずなんだけど」
 いつもと変わらない軽い声音で言われて、桑嶋は振り返って壁際に凭れ掛かる統久の様子を二度見する。
「ハッ、冗談。それなら早く、薬を呑んでください」
「だから、俺……、抑制剤効かねえ……んだって」
 漂ってくる甘ったるいニオイが、いつもより濃くて意識をもってかれそうになり、桑嶋はヤベェと呟くと、
「マジかよ……じゃあそこで待っててください」
 統久から、もしもの時の作戦と言われていたポケットにいれた鼻栓を嵌めて、部屋の奥にある機械にアクセスをする。
 桑嶋は次の扉へのパスコードを探すが、簡単にはでてこず、これまでどうやって解いていたのか分からず、何度か入れるがエラーが返ってくる。
 っくそ……ここまでは、わかるんだが……。なんだ、このパズルのような暗号は。
 暗号を入れるだけではなく、暗号の場所も座標のようなもので示されていて二重のパスコードになっている。
「……4R……は、34……T8、25……48。抽象……画家、エデュケの誕生日と生誕場所、アナグラムだ」
 微かに苦しそうに聞こえる声でパスワードらしきものを指示してくる統久をちら見して、桑嶋は慎重にパスワードを入れると、扉は左右に割れて開く。ちらっと統久を見やると壁際にうずくまったまま、親指をあげて拳を押し出して見せた。
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