斬り裂くのは運命と識れ【完結編】

怜悧(サトシ)

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『エンデ。そっちに、隊長の弟さんがいねえか』
 エンデの通信機にシェンからの連絡が入って、ほっと息をつく。
 この部隊の大抵の隊員は脳みそまで筋肉に侵食されている輩が多い。   
 そのため頭を使う仕事は基本的にシェンの役割なので、居ないとこういう交渉などで困ってしまうのである。
「あ、そうそう人質になっててよ、なんか交換条件に逃走させろってさ。そういうの考えるの苦手なんで困ってた」
『逃走はかまわねえ。もし手錠とかで拘束されてたら、……弟の方に爆弾が装着されてる可能性がある。だから、建物から出さないようにしろ。爆弾処理班はいるよな』
 通信状態がよくないのは、こちらに何かで移動しているからか。多分乗ってった戦闘機だろうか。
「手錠っていうか綺麗な腕輪みたいなのが架かってるな。爆弾処理班は北の方に布陣した部隊にいる。ちょっと遠いかな」
 弟の様子を告げると、シェンの声に余裕がなくなる。キラキラと光るアクセサリーのような見た目だが、それが爆弾なのだろう。
『時間がない、すぐに連絡をつけておけ。隊長が先に爆弾のリモコンをハッキングしてたコードを送る。隊長の脳波が正常じゃなくて自分で動かせないらしい』
「そんなに、やべえのか」
 脳波が乱れているということは、精神的にか肉体的にかかなりダメージがあるということだろう。
 流石にエンデも付き合いが長いので、その状態に陥っていることを深刻に捉えた。
『ああ、結構やべえ。でも、隊長のことだからすぐ治るだろ。てめえら、弟さんになんかあったら、隊長の具合が最悪になると思えよ』
「そりゃ怖い。シェンは隊長さん大好きだしなあ。何かあったらシェンが半年は使い物にならねえし」
『ぬかせ』
「さっさと爆弾解除班を要請しねえと」
 エンデは素早く通信を回して別部隊に爆弾解除の要請とコードを転送する。
『三分でオレらもそっちに合流する』
 距離的にはそんなにないが、着陸先などを探す時間もあるのだろう。
 それでも走って合流するより断然速いか。
「早く小型機をこっちに回さないと、この人質を殺しますよ。エリートさんを死なせたら困るんじゃないですか」
 白衣のリーダーはこちらの様子に人質が機能することを悟り、状況を優勢とみたのか少し態度を大きくしている。
「エリートとかはどうでもいいんだけど、うちの元隊長さんの大事な人なんで殺されちゃったら困るな。もうすぐ建物の近くに接着できるはずだからね」
 時間稼ぎしておかないとな。とりあえず爆弾処理班はまだこねえのかな。
 エンデは敵との交渉で軽口を叩きながら、通信の切り替えを指先でカチカチとする。
「僕のことは、いいから。こいつらを逃がすな」
 窓から身を乗り出して叫ぶ歩弓に、焦りが増してエンデは舌打ちをして、周りを見回す。
「いいとか悪いとかアンタの命の是非を勝手に決めないでくださいよ。アンタのおにいちゃん、本当にヤバイ人なんで、アンタに死なれたらこっちの命がヤバイっての」
『爆弾解除班、ストーン小隊長到着しました。解除信号発信位置探します』
 エンデが歩弓に向けて怒鳴り返すと同時に、爆弾処理班の男からの通信が入る。
 このままうまく解除できれば、敵を壊滅させても問題はなくなる。
『コード解除、あと一分でできそうです』
 小型機が建物の二階にある宇宙船発着用のポートに接着すると、操縦していた隊員がコックピットからパラシュートで脱出する。
「小型機の操縦パスコード送信するから、人質を置いて乗り込めよ」
「私たちが無事に発進できたら、この人質を解放しよう」
 歩弓が小型機に無理矢理引き摺るようにして乗せられるのに、エンデは一瞬緊張に頬を引き攣らせる。
 爆弾はまだ解除できていない。
 今は建物の上に接着しているが、小型機が少しでも位置がずれたら爆弾は爆発するだろう。
『解除まであと三十秒』
「とりあえず、助けろ」
 爆弾処理まであと数秒というところで、操縦用のパスコードを認識したのか小型機のエンジンが動き始める。
「こっちに、来るんじゃない!」
 歩弓が声をあげて、建物の接着面から小型機が離れる瞬間、はらりとその身体が宙に舞う。
「落とされたぞ」
 合流するために、直ぐ近くで見守っていた統久の取り乱した声があたりに響き渡る。
「ッ……アユミッ――」
『解除完了』
「待ってろッ……だいじょうぶだ」
 セルジュは統久の身体を地面に置くと、建物の直下に落ちてくる歩弓の体を受け止めようと腕を大きく開く。
「……セルジュッ……ば、ばかッ」
 どさりと重い男の身体をしっかり受け止めるセルジュの様子を眺め、統久は安堵に気が緩んだのか、目元からだらだらと涙を滴らせる。
「さてと、オレも仕事しますかね」
 シェンは唇をぐっと引き上げ、肩に担いでいたランチャーを飛び立つ小型機へと打ち放つ。
 空に向けて放たれた放物線は狙い通りに小型機に命中し、人工の空に綺麗なオレンジの花火を散らした。
「ひゅーう、一発命中。一網打尽」
 いつの間にか横に来ていたエンデが、ぱちぱちと手を叩きながら、ばらばらと破片と煙が空から落ちてくるのを眺める。 
「つーか木っ端微塵で跡形もないなあ。シェン、容赦なさすぎ」
「どーにも、胸糞悪かったんでね」
 鼻の頭をぽりぽりと搔いたシェンは、人質を抱えて戻ってきたセルジュをすっきりとした顔で出迎えた。

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