斬り裂くのは運命と識れ【完結編】

怜悧(サトシ)

文字の大きさ
26 / 26

26

しおりを挟む


「意外にオマエって強引だよな……」
 汗や体液で汚れた身体を素直に拭かれながら、ぽつりと統久はつぶやいた。
 身体は倦怠感でぐったりとしていたが、こころの中はあんなにも不安だったのに、まったく恐れすらない気持ちに掏りかえられていた。
「アンタはオレくらい強引じゃないと、聞く耳もってくれないでしょ」
 自分の意見を曲げずに突き通す性格は、強くてとても惹かれる存在だ。
 だけど、それ故に苦しい道に突き進もうとするのは違うだろう。
 誰も望まない結果でしかない。
「強引にでも掴んでないと、アンタはマゾだからどんどん自分の首を絞めにいっちまうからさ」
「マゾ?俺がか」
 変なことを言い出すなと唇を尖らせる相手に、セルジュはちゅっと口付けをする。
「そうだよ。自分を苦しめるの大好きだろ。だからさ、もう遠慮は要らない。我慢もするな。オレらは夫夫:(ふうふ)なんだから頼ってくれ」
「……セルジュはたまに眩しいくらいクサイ台詞を言うよな」
 ぎゅうと抱き着かれて、どういう意味だと首を傾げる。
「じゃあセルジュに頼ろう。まずは子供の名前、どうしようかな。男の子らしいし、なあ、セルジュが決めてくれ」
 骨ばった腕で抱き寄せる相手の言葉に、少し驚いた表情を浮かべて腹部の膨らみを眺める。
 もう六ヶ月だし、そろそろ性別も判明しているのだとはなんとなく思ってはいたのだが、急に言い出されてびっくりしてしまう。
「ちょっと、いつ性別分かったんだよ。漢字は、ちゃんと習ってねえから良く分からないぞ」
 そっと抱き返して思案するように顎先を掴んで引っ張るセルジュを覗き込んで、統久は幸せそうに笑みを浮かべる。
「マッテオ……漢字は統久さんが、決めてくれよ」
 思いついた名前は、セルジュが育った地域ではよくある名前で、聖書にでてくる聖人の名前だった。
 名前を決めてほしいといわれて思いつくのは、誰より幸せに育ってほしいという願いだけだ。
「ってどういう意味なんだ。漢字つけるの難しいな」
「神の贈り物っていう意味だ」
 どんな経緯で産まれるにしても、すべての子供はは神からの贈り物である。
 生まれながらに自分の出自に因縁がついてしまった子供に、せめて自分からの祝福を与えたいとセルジュは願う。
「ああ、とても素敵な名前だな。漢字は……守天生かな……」
 腹部を擦りながらマッテオと呼びかける統久の様子に、セルジュは満面の笑みを浮かべた。
「まずは、長男だしな。次の名前も考えておくよ」
 統久には諦めるなとは言ってはいたが、もしこのまま統久が子供を産めなかったとしてもセルジュはそれでいいとは思っていた。
 けれど、諦めない気持ちだけはもって欲しいとプレッシャーにはならない程度の気軽さで告げると、統久はそうだなと言って微笑んだ。
「ああ……毎年産休するハメになりそうだな。職場復帰するには鍛えなおさないとな」
 統久は快活に笑ってみせて、自分の拳を強く握り締めた。
「それじゃ、オレも毎年頑張らないとな。枯れないように、滋養強壮にいいものガンガン食いまくらないと」
「よし、ハネムーンは滋養強壮食いまくりの旅で決定でいいな。スッポン鍋だろ、スッポンの血のドリンクだろ……あとマムシのから揚げ」
 滋養強壮になりそうなゲテモノ系の食べ物を指折り数える統久に、セルジュはげんなりとした表情を浮かべる。
「そりゃ、珍味ツアーだろ」
 互いの顔を見合わせぶっと吹き出すと、愉しそうに顔をくしゃりとさせて笑う統久の表情に、ずっとそれを守っていこうとセルジュは決意を新たにした。

 どんな運命が待ち受けていたとしても、すべてを受け入れた上でそれを振り払ってきた強い男から生まれるのだ。
 生まれ出る子供はは、けっして普通の凡庸な人生にはならないだろう。
 セルジュは、それでもその運命から背を向けない男になるように、ずっと傍で見守っていきたいと願った。




【完結】


しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

TERU
2019.12.31 TERU

お疲れ様です👍
統久さんの続編いつも楽しんで読ませて頂いています🙆
カムバック筋肉💪
来年も作品楽しみにしています。

2019.12.31 怜悧(サトシ)

TERUさん
楽しみにしていただいて、本当に嬉しいです。
この話が完結編とはなりますが、番外編もこれから書いていきたいと思ってます!
来年もよろしくお願いします┏○ペコ

解除

あなたにおすすめの小説

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。