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しおりを挟む「意外にオマエって強引だよな……」
汗や体液で汚れた身体を素直に拭かれながら、ぽつりと統久はつぶやいた。
身体は倦怠感でぐったりとしていたが、こころの中はあんなにも不安だったのに、まったく恐れすらない気持ちに掏りかえられていた。
「アンタはオレくらい強引じゃないと、聞く耳もってくれないでしょ」
自分の意見を曲げずに突き通す性格は、強くてとても惹かれる存在だ。
だけど、それ故に苦しい道に突き進もうとするのは違うだろう。
誰も望まない結果でしかない。
「強引にでも掴んでないと、アンタはマゾだからどんどん自分の首を絞めにいっちまうからさ」
「マゾ?俺がか」
変なことを言い出すなと唇を尖らせる相手に、セルジュはちゅっと口付けをする。
「そうだよ。自分を苦しめるの大好きだろ。だからさ、もう遠慮は要らない。我慢もするな。オレらは夫夫:(ふうふ)なんだから頼ってくれ」
「……セルジュはたまに眩しいくらいクサイ台詞を言うよな」
ぎゅうと抱き着かれて、どういう意味だと首を傾げる。
「じゃあセルジュに頼ろう。まずは子供の名前、どうしようかな。男の子らしいし、なあ、セルジュが決めてくれ」
骨ばった腕で抱き寄せる相手の言葉に、少し驚いた表情を浮かべて腹部の膨らみを眺める。
もう六ヶ月だし、そろそろ性別も判明しているのだとはなんとなく思ってはいたのだが、急に言い出されてびっくりしてしまう。
「ちょっと、いつ性別分かったんだよ。漢字は、ちゃんと習ってねえから良く分からないぞ」
そっと抱き返して思案するように顎先を掴んで引っ張るセルジュを覗き込んで、統久は幸せそうに笑みを浮かべる。
「マッテオ……漢字は統久さんが、決めてくれよ」
思いついた名前は、セルジュが育った地域ではよくある名前で、聖書にでてくる聖人の名前だった。
名前を決めてほしいといわれて思いつくのは、誰より幸せに育ってほしいという願いだけだ。
「ってどういう意味なんだ。漢字つけるの難しいな」
「神の贈り物っていう意味だ」
どんな経緯で産まれるにしても、すべての子供はは神からの贈り物である。
生まれながらに自分の出自に因縁がついてしまった子供に、せめて自分からの祝福を与えたいとセルジュは願う。
「ああ、とても素敵な名前だな。漢字は……守天生かな……」
腹部を擦りながらマッテオと呼びかける統久の様子に、セルジュは満面の笑みを浮かべた。
「まずは、長男だしな。次の名前も考えておくよ」
統久には諦めるなとは言ってはいたが、もしこのまま統久が子供を産めなかったとしてもセルジュはそれでいいとは思っていた。
けれど、諦めない気持ちだけはもって欲しいとプレッシャーにはならない程度の気軽さで告げると、統久はそうだなと言って微笑んだ。
「ああ……毎年産休するハメになりそうだな。職場復帰するには鍛えなおさないとな」
統久は快活に笑ってみせて、自分の拳を強く握り締めた。
「それじゃ、オレも毎年頑張らないとな。枯れないように、滋養強壮にいいものガンガン食いまくらないと」
「よし、ハネムーンは滋養強壮食いまくりの旅で決定でいいな。スッポン鍋だろ、スッポンの血のドリンクだろ……あとマムシのから揚げ」
滋養強壮になりそうなゲテモノ系の食べ物を指折り数える統久に、セルジュはげんなりとした表情を浮かべる。
「そりゃ、珍味ツアーだろ」
互いの顔を見合わせぶっと吹き出すと、愉しそうに顔をくしゃりとさせて笑う統久の表情に、ずっとそれを守っていこうとセルジュは決意を新たにした。
どんな運命が待ち受けていたとしても、すべてを受け入れた上でそれを振り払ってきた強い男から生まれるのだ。
生まれ出る子供はは、けっして普通の凡庸な人生にはならないだろう。
セルジュは、それでもその運命から背を向けない男になるように、ずっと傍で見守っていきたいと願った。
【完結】
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お疲れ様です👍
統久さんの続編いつも楽しんで読ませて頂いています🙆
カムバック筋肉💪
来年も作品楽しみにしています。
TERUさん
楽しみにしていただいて、本当に嬉しいです。
この話が完結編とはなりますが、番外編もこれから書いていきたいと思ってます!
来年もよろしくお願いします┏○ペコ