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怜悧(サトシ)

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サリアは浮かない顔をして、禁忌地帯に入ると言う子孫を見遣る。言い出したらきかない性格なのは、長い付き合いで分かってはいた。
「ばあさん、俺の呪法の解法にはどんくらい強い魔物が必要なんだ?」
鴨肉のステーキを齧りながら、傍若無人な男は問いかける。
ガイザックは老いを止められているから、中年男と思えば腹もたたないのだが、見てくれが若い男に言われるのはサリアも正直腹が立っていた。
「それなりに上級魔物の心臓とかがないとな。魔王に近い眷属とかが必要になるが。それにしても、昨日とは打って変わって元気なようで、かなり腹が立つな」
「へへ、エキスを手にいれたんで、お肌もツヤツヤよ」
ニヤリと笑う男の隣で、ややげんなりとした若者の顔つきにサリアはふと苦笑を浮かべる。
恋する男の顔をしているが、報われぬな。
恋の相手がこれではな。
奥の歯でくっくと笑いながら、滋養のある茶をいれて目の前に出してやる。
「それより、呪いをかけた者から力を奪う法が楽だと思うがな。魔王の眷属に挑めば、それなりに危険がある上に奴等を敵に回す方が厄介だ」
「呪いをかけたヤツがわかんねーから、解きたいんだけどな」
分かってりゃ、そっち襲う方が楽に決まってるとガイザックはうそぶく。
「呪術師を探索することなら、たやすいぞ?」
「ちょ、なんだよ。ばあさん、昨日はそんなこと言ってなかっただろ!?」
うるさい男だなと、サリアは眉を寄せる。
子孫がこれでは先が思いやられる。
折角、国を救った一族として国の重要な位置へと導いたのに、短絡的なこの馬鹿が台無しにした。
それは、国の行く末を憂いていたところだったので、あながち間違いとはいえないが、やり方が雑すぎる。
もっとうまくやれたはずである。
サリアはしげしげと子孫を見やってまあ、無理かと呟く。
「聞かれなければ、余計なことは言わぬ。考えてみるんだな。魔王の眷属を殺せば、今度は魔王の怒りを買おう。おまえは永遠に逃げつづけるのか?いまは、まだ不老不死の力が必要ではないのか?」
昨日までは疲弊しきっていて、今すぐにでも呪いに食い殺されそうな顔をしていたので、呪いを解くことを優先させて話をした。だが、今日の彼からはその相は消えていた。
だからこそ、国をひっくり返してから、呪いを解くのもありかと思い直したのだ。
「…………ルイツがイヤじゃねーなら、俺も甘えてェけど」
視線をさまよわせながら、顎に手をあてて考え込む。
悪魔の所領に入らずに済むならそれにこしたことはない。
だからと言って、国をひっくり返すまで、この呪いを引き継ぐならば代償は支払わなくてはならない。
「別にイヤじゃない。魔王に狙われて襲われるより全然いい」
この男も存外素直じゃないなと、サリアは嘆息する。
「飯も食べ終わったようだし、その者の居場所を探索してやろう」
サリアは袖口から水晶玉を机の上に置いて、唇に呪を刻む。
もわりと煙のようなものが立ち上り、ぶわわわと光が放射するように周りに広がる。
「ダルメイのブシュタロンという術者が、この呪をかけた。国家術師で、首都レブネの王宮に住んでいる」
「すげーな、サリア様」
ガイザックは心底賞賛するが、サリアはすぐに水晶玉をしまう。
「逆探索かけられるかもしれぬから、あまりしたくはなかったのだがな。わしも、ここから去る。おぬしたちも、早めに森を抜けるのだぞ」
サリアはそう言い置くと、空間に穴を開き一瞬で消え失せる。

「先に言えって。逃げ足早すぎ、だろ、ばあさん」
呆れたようにガイザックはつぶやくと、大剣を背負い荷物を掴むと、
「俺らも逃げるぜ、馬にさっさと乗れ」
馬小屋に向かって走り出す背中を見やり、血は争えねえだろとつぶやきルイツはその背中を追いかけた。
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