炎上ラプソディ 

怜悧(サトシ)

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運送会社に似合わない豪華な執務室に呼ばれて、シェンは周囲を見回しながら監視カメラやドアと窓の位置などを確認して、おずおずとしたていを装いながらソファーに座る。
「君はすごいね。入社そうそうに頭角を表す人間は数少ない。アルファ性かとも思ったが、普通のベータなんだね」
この男は性差をする人間なのだなと、シェンは肩をそびやかせながらどうもと口にする。
「運転が好きなので」
当たり障りのない言葉を返すと、彼はデータカードの入っているケースを差し出す。
「成功報酬は、1回1万ダラー。給料の他に払おう」
運び屋で1回1万は破格の安さだが、多分給料の5倍ならホイホイ引き受ける者が多いのだろう。
「あのー、危険なんですかね」
少し不審がる雰囲気をだして、上目遣いで聞いてみる。これだけで臆病者の印象はつくはずだ。
「危険はないよ。ちょっと特殊で、入港検査後、30分以内に届けるのが必要なんだよ。その後は車を置いて歩いて戻ってもらう。わかるかい」
全くわからないが、検査を受けて2時間は結果判定に時間がかかるものがある。
それは新種の麻薬である。
既出の麻薬であれば、その場で判定されるが新種は適合性を調べるのに時間がかかる。
通常は足止めをされるが、急いでいる場合はIDをとられて自由を与えられる。
偽のIDだからいいが、まずい話だ。
「あの、オレ、捕まるとかまずいんですけど」
「ああ、大丈夫だよ。君とは別人のIDをそのケースに入れてあるからね。それを渡して、運べばいい」
「中身はなんですかね」
「君には知る必要がないよ。大丈夫、君の腕ならちゃんと運べるよ」
諭すように言われて、シェンは男の薄い毛の生えた頭を見下ろす。
「お断りとかできますか」
安定を望むようにおずおずと問いかけると、支部長はにこりと笑う。
「こんなチャンスを棒にふるような、向上心のない社員は必要がないと判断するが.....。そのうえ君は未来を失うことになるよ。イライズ君、そうしたら君も困るだろう」
ちらとこれみよがしにシャツを捲ると、支部長が示した先に、タトゥーが見える。マフィアの証のものである。
断れば、殺すということだろう。
「わかりました。経路などを確認して任務遂行いたします」
わざと震え上がりながら、渡されたケースを握りしめてシェンは首をたてに振った。


前金として2000ドルを手渡されたが、いちいち細かい金額だなと思う。
シェンは準備期間として3日の休暇を与えられたが、正直こんなにトントン拍子に話が進むとは思ってはいなかった。
部屋に戻るとこちらに来る前に報告がある場合はと渡された回線へと通信を繋いだ。

『ハーイ!!こちらセクシーダイナマイトデリバリーです。ご指名どうぞ』

明るい野太い声に通信マイクを取り落としそうになりつつ、シェンは一瞬押し黙ると、通信番号と一緒に渡されたカードにかかれた名前を口にする。
「ハイルをお願いします」
「男オメガのハイルね。場所と時間をお願いします」
事務的に答える声に、丁寧に名前の下に書いてあるモーテルの名前と住所を告げて、時間を2時間後に指定して通信を切った。

何を考えてんだ。
デリヘルの男娼に情報の受け渡しを頼んでいるのか。

確かに。
シェンは与えられた宿舎の部屋の中をぐるっと見回す。
盗聴器や監視カメラは仕掛け放題か。
重要な任務をまかせるとして、追跡されることも考えられる。
こりゃ、前金に浮かれてデリヘル頼む馬鹿な男って設定だな。
実際、陰でこそこそ中隊長と会うわけにはいかない。
用意周到ではある。


オメガってことは、中隊長のダチか何かか。
狭いモーテルに入るとメイキングされたベッドの上に座り、シェンは息をつく。
来る前の状況と似ていて、何となくあの日のことを思い出す。
自分よりも肉体的にも能力的にも勝っている男がみせる痴態があれからも頭の隅から離れない。
ピンポンとチャイム音が響き、カメラに派手な赤色の髪が映る。

「セクシーダイナマイトデリバリーのハイルです」
低い声がドアの外から聞こえて、シェンは腰をあげてドアへと歩み寄って、それを開いた。
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