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しおりを挟むあまりにも簡単に友達になるという返事が返ってきて、俺は予想になかった成り行きに目を大きく見開いた。
俺から友達になれと言ったが、その目算はまったくなかったのだ。
艶やかな黒髪が春風に揺れて、俺の反応を不思議がるような眼差しで見返した。
高校に入学した当初は、確かに友達と呼べるくらいに話をする奴はいた。
勉強の話ばかりで、中学の時の友達とは全く違うものだった。
それも、この格好をするようになって、直ぐに距離を置かれて、今では一言も言葉を交わしたりはしない。
こんな格好の俺と友達に、何の条件もなくなってくれるなんてあるのだろうか。
「脅しじゃなく……って…………」
言葉の意味を確かめるように、長谷川の小さな顔を見遣り、眼鏡の奥にある切れ長の綺麗な眼を覗きこんだ。
「そのままの意味です。脅されるのは、僕は好きじゃないですから。自分の意思であなたのお友達になるって言ってるんですよ。大体、友達ってものに脅してなってもらっても嬉しくないでしょう?」
確かに脅して友達になってもらうなんておかしな話だ。
対等ではない。
「そりゃ、そうだけどよ.......。そんな得にもならねえこと、なんで」
自分からツレになろうと言い出した癖に、俺は損得が長谷川には何もないことに狼狽えていた。
「だってさっき、オマエ、俺に周りをうろつかれたくねえって……」
どう気持ちを伝えていいか分からず、俺は金髪を掻いて、言葉を探す。
しかし、なんと気持ちを伝えるべきか、まったく分からなかった。
「じゃあ。お友達のよしみで教えてあげますよ。僕は、7時45分から検査をしてます。校門が開くのが7時20分です」
唐突に長谷川は風紀チェックのスケジュールを俺に突きつけてきた。
一体何のつもりかわからずにポカンとすると、長谷川は、はあと深々と息を吐き出し呆れたように俺を見返した。
「分かりやすく説明必要ですか」
「……え……」
静かに問いかけられて、俺は呆気にとられたまま、頷いた。
「僕は職務を放棄するつもりはありませんよ。だけど、スケジュールをお友達のよしみで教えてあげたのです。開門してから25分以内に登校してください」
「俺、朝よええ………」
早く登校すれば、風紀チェックにひっかからないのは知っている。
わざわざ引っかかっているのは、コイツが構ってくるのが面白かったからだ。
誰からも相手にされない俺を構うのは、今のところこいつしかいない。
チェックをしなければ、友達になったとしても遭遇することはなくなる。
そう考えると寂しくて、思わず肩を落とした。
「そんなことまでは知りませんよ。本当はその金髪、綺麗に手入れしてて僕は好きですよ。兄のは自分でやってるんだか、ばっさばっさで汚くみえるんで」
俺の金髪を指さして、本当は好きだと言われてカッと頭が熱くなる。
大した意味などないとは思うが、素直に好きだと褒められるのは正直嬉しい。
「……だけど、風紀委員だから見つけたら取り締まる、と」
「そうです。だから、僕に見つからないように登校してください。そうしたら、お昼は、一緒に屋上で食べてもいいですよ。」
朝会わない代わりに、屋上で昼ごはんを誘われて、少し嬉しい気持ちになる。
チェックで会わない代わりに、ご褒美なのか、提案される内容は、何となくこころが浮つく。
「昼飯?……一緒に食べるのか」
長谷川は兄からさっき受けとったばかりの手にしていた自分の弁当をかざしてみせた。
「だって、お昼はお友達とは食べるでしょう。どうですか」
こんなところで、立ち話をしているより余程有意義な時間が過ごせそうである。
長谷川は友達をどういうふうに考えているのか分からないが、自分と一緒にいてくれるというのが、嬉しくて仕方がなくなる。
「屋上、だな。わかった……」
今から昼休みが楽しみになる。
久しぶりに友達という言葉を聞いて、ひどく浮かれている。
そこまで、人との関わりに飢えていたのか、自分でもまったく気が付かなかった。
俺は長谷川に手を振って、気分よく校舎の方へと向かった。
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