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晩春の心地のいい風が、フェンスに寄りかかる俺の鼻先を掠めていく。
購買で買ったパンを抱えて、言われたとおりに屋上にやってきた俺は、ヤツに一体何を期待しているのだろう。
お友達……ね、
わからないけど、長谷川に一緒に飯を食おうといわれて、俺は確かに嬉しいと感じた。
もっと冷たく見える眼鏡の奥にある何かを知ってみたいと思った。
脅迫まがいなことをしても、まったく怯むことなく、自分の意思で友達になるのだという言葉を告げた後輩。
席の近いやつらにちょっと話を聞いてみたところ、1年の首席で出来る男として有名だそうだ。
あまりにもソツがなさすぎて、かえって近寄りがたい存在らしい。
俺とは真逆の理由である。
まあ、出る杭は打たれるってことには変わりない。
やっぱこねえか。
まあ、そうだよな。こんな面倒な奴と友達になりたいわけはない。
かつがれただけだったよな。あー、本当に俺はバカだよな。
昼休みが30分過ぎても、屋上には長谷川は現れなかった。
いわゆる待ちぼうけってやつだ。
素直に信じた俺も相当ヤキが回っている。
今日はヤル気も出ないし、このまま授業もフケちまうかな。
手の中のパンの袋を引きちぎると、ドアがバタンと荒々しく開かれる。
「…………よかった。まだ居てくれて」
階段を駆け上がってきたのか、目の前に現れた長谷川は、ハァハァと肩で息をしている。
俺はソレを見て、どんよりとしていたこころを覆っていた何かが吹っ飛んだように感じた。
「…………約束、したからな」
腰を下ろすと、引きちぎったパンのビニールを開いて口に運ぶ。
今日はやきそばパン。
定番だが、購買で売っているものがじゃこれが一番安くてうまい。
「遅れてごめんなさい。委員会で呼ばれてしまって。すぐに用事は済ませてきましたが、遅くなってしまって。連絡先、知らなかったので」
素直に謝る長谷川に、何故からしくねえなと思いつつ首を横に振る。
「いいから、食おうぜ。飯、食えねえと、午後きついぞ」
「はい。」
ひろげた長谷川の弁当の中身に、俺は目をまるくした。
弁当箱の中身は……ひどかった。
ひどいというか、1段目は白飯、2段目はキャベツの千切りのみ。
長谷川は白飯にふりかけをばら撒き、キャベツにソースをかける。
俺の視線に気づいたのか、自分の弁当を指差してみせる、
「ああ。ひどいでしょ、僕の弁当。うちのお袋、料理ほとんどできないんですよ。スナックのママをやってて、夜の仕事ですから、朝はもうべろんべろんに酔ってて。それでも、こうやって弁当箱に詰めてくれるんで……嬉しいなって思っちゃうんですよね。これ、他の同級生に見せたくなくて、いつも一人で食べてました」
無表情を崩して、ちょっとはにかむように笑う姿に、何故か可愛いなと思ってしまった。
風紀委員だからか、いつもは仏頂面ばかりしているのに、こんな風に笑う姿のギャップは強烈だった。
優等生で何も不自由もなくすごしているんだろうなと思っていたのに、まったくそんな環境でもないというのが意外すぎた。
「肉的なものがまったくねえのか。それで足りるのか」
「まあ、朝は食べてるので昼くらいはこれで問題ないですよ」
もしゃもしゃとキャベツを食いだす長谷川がヤギのようにも思える。
こんなに栄養価が低いものばかり食べているから体ちいせえのかな。
いや、でもアニキのほうはかなりでかかったよな。
「これ、食っとけ。でかくなれねえぞ」
購買で買ったカツパンを押し付けると、長谷川は目をまるくする。
「……いいですよ。でかくなると、頭に血が回らなくなりますから」
可愛くないことを言って俺に返却しようとする。
思わず拳を握り締めるが、必死に抑える。
体がでけえ俺は血が頭に回ってねえっていいてえのか、こいつは。
「うるせえ、食え」
「…………ありがとうございます。」
頭を下げて食べ始めるのを見て、なんだか妙に満足している自分に気がつく。
眼鏡の奥の綺麗な顔。
ちょっとキツメであるが、端正なつくりで男前の部類に入るだろう。
その顔が見てみたいなと思い、思わずひょいっと眼鏡を奪う。
驚いたようにこっちを見返す顔は、思ったとおりに綺麗な顔だった。
朝見たこいつのアニキも男前だったが、こっちは綺麗といった方がしっくりくる。
ふと、手にした眼鏡を見やると、度はまったく入っていない。
「ダテ?」
「返してください。ダテですよ。」
不機嫌に睨みつける表情も、眼鏡越しでみるよりずっと鋭く見える。
「イケメンなのに、もったいねえな」
「面倒なのに絡まれるよりは、ずっとマシです」
眼鏡を俺から奪い返すと、また不機嫌な表情でもぐもぐと食べ始める。
なんだか、凄く構い倒したくなってくる。
不機嫌な顔以外のものも、もっと見てみたいと思う。
中学のときの友達に対するものとは別の感情。
それが何であるのか、まったく今の俺にはわからなかった。
購買で買ったパンを抱えて、言われたとおりに屋上にやってきた俺は、ヤツに一体何を期待しているのだろう。
お友達……ね、
わからないけど、長谷川に一緒に飯を食おうといわれて、俺は確かに嬉しいと感じた。
もっと冷たく見える眼鏡の奥にある何かを知ってみたいと思った。
脅迫まがいなことをしても、まったく怯むことなく、自分の意思で友達になるのだという言葉を告げた後輩。
席の近いやつらにちょっと話を聞いてみたところ、1年の首席で出来る男として有名だそうだ。
あまりにもソツがなさすぎて、かえって近寄りがたい存在らしい。
俺とは真逆の理由である。
まあ、出る杭は打たれるってことには変わりない。
やっぱこねえか。
まあ、そうだよな。こんな面倒な奴と友達になりたいわけはない。
かつがれただけだったよな。あー、本当に俺はバカだよな。
昼休みが30分過ぎても、屋上には長谷川は現れなかった。
いわゆる待ちぼうけってやつだ。
素直に信じた俺も相当ヤキが回っている。
今日はヤル気も出ないし、このまま授業もフケちまうかな。
手の中のパンの袋を引きちぎると、ドアがバタンと荒々しく開かれる。
「…………よかった。まだ居てくれて」
階段を駆け上がってきたのか、目の前に現れた長谷川は、ハァハァと肩で息をしている。
俺はソレを見て、どんよりとしていたこころを覆っていた何かが吹っ飛んだように感じた。
「…………約束、したからな」
腰を下ろすと、引きちぎったパンのビニールを開いて口に運ぶ。
今日はやきそばパン。
定番だが、購買で売っているものがじゃこれが一番安くてうまい。
「遅れてごめんなさい。委員会で呼ばれてしまって。すぐに用事は済ませてきましたが、遅くなってしまって。連絡先、知らなかったので」
素直に謝る長谷川に、何故からしくねえなと思いつつ首を横に振る。
「いいから、食おうぜ。飯、食えねえと、午後きついぞ」
「はい。」
ひろげた長谷川の弁当の中身に、俺は目をまるくした。
弁当箱の中身は……ひどかった。
ひどいというか、1段目は白飯、2段目はキャベツの千切りのみ。
長谷川は白飯にふりかけをばら撒き、キャベツにソースをかける。
俺の視線に気づいたのか、自分の弁当を指差してみせる、
「ああ。ひどいでしょ、僕の弁当。うちのお袋、料理ほとんどできないんですよ。スナックのママをやってて、夜の仕事ですから、朝はもうべろんべろんに酔ってて。それでも、こうやって弁当箱に詰めてくれるんで……嬉しいなって思っちゃうんですよね。これ、他の同級生に見せたくなくて、いつも一人で食べてました」
無表情を崩して、ちょっとはにかむように笑う姿に、何故か可愛いなと思ってしまった。
風紀委員だからか、いつもは仏頂面ばかりしているのに、こんな風に笑う姿のギャップは強烈だった。
優等生で何も不自由もなくすごしているんだろうなと思っていたのに、まったくそんな環境でもないというのが意外すぎた。
「肉的なものがまったくねえのか。それで足りるのか」
「まあ、朝は食べてるので昼くらいはこれで問題ないですよ」
もしゃもしゃとキャベツを食いだす長谷川がヤギのようにも思える。
こんなに栄養価が低いものばかり食べているから体ちいせえのかな。
いや、でもアニキのほうはかなりでかかったよな。
「これ、食っとけ。でかくなれねえぞ」
購買で買ったカツパンを押し付けると、長谷川は目をまるくする。
「……いいですよ。でかくなると、頭に血が回らなくなりますから」
可愛くないことを言って俺に返却しようとする。
思わず拳を握り締めるが、必死に抑える。
体がでけえ俺は血が頭に回ってねえっていいてえのか、こいつは。
「うるせえ、食え」
「…………ありがとうございます。」
頭を下げて食べ始めるのを見て、なんだか妙に満足している自分に気がつく。
眼鏡の奥の綺麗な顔。
ちょっとキツメであるが、端正なつくりで男前の部類に入るだろう。
その顔が見てみたいなと思い、思わずひょいっと眼鏡を奪う。
驚いたようにこっちを見返す顔は、思ったとおりに綺麗な顔だった。
朝見たこいつのアニキも男前だったが、こっちは綺麗といった方がしっくりくる。
ふと、手にした眼鏡を見やると、度はまったく入っていない。
「ダテ?」
「返してください。ダテですよ。」
不機嫌に睨みつける表情も、眼鏡越しでみるよりずっと鋭く見える。
「イケメンなのに、もったいねえな」
「面倒なのに絡まれるよりは、ずっとマシです」
眼鏡を俺から奪い返すと、また不機嫌な表情でもぐもぐと食べ始める。
なんだか、凄く構い倒したくなってくる。
不機嫌な顔以外のものも、もっと見てみたいと思う。
中学のときの友達に対するものとは別の感情。
それが何であるのか、まったく今の俺にはわからなかった。
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