花に嵐

怜悧(サトシ)

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怒ったように眼鏡を奪い返す長谷川に、色々あったのかなと思うが、やはり勿体ない気持ちになる。
絡まれる理由は、やはり人を惹き付ける顔立ちだからだろう。
隠してしまうのは惜しい。
「この高校に入学してきたってことは、先輩は中学時代はヤンキーじゃなかったんでしょう」
長谷川が自分に興味をもってくれたことが嬉しくて、俺は身を乗り出してうんうんと頷いた。
「ああ。俺は高校デビューだからさ。中学の時は生徒会長とかしてたな。ずば抜けて頭がいい訳じゃあなかったから、努力しまくってたけどな」
生徒会長になったのは、友達におだてラれたのもあるが、人に望まれているという状況が嬉しかったからだ。
望まれていれば、頑張らないといけないと努力する。
「僕は努力も才能と思いますよ」

だけどこの学校では、ただの石ころに過ぎないと、俺は考えてしまった。

「でも、この学校じゃかなわねえからな……いくら努力しても……結局地を這いずる」
パンのごみを袋にしまうと、どうせ無理な話だよなと、空を見上げて呟いた。

「それで諦めたわけですか」

諦めた。
そうだな、努力しても誰もみていない。
努力しても、何も得られない。
そのループに早々に自分はすべてを放り出した。
「……カッコわりいだろ」
自嘲して吐き出すように長谷川から視線を逸らした。
何故かこの後輩には格好悪い自分をこれ以上見られたくないと思って、何故か消えたい気持ちになる。
「そうですね。格好悪いですね」
長谷川の言葉はにべも無い。
変に気を使われるより、さっぱりした気分になる。
「........否定もしねえのな。まあ、らしいけど」
「……先輩、もし勉強ができるようになったら、その格好やめますか」
まだ、風紀委員の職務を諦めていないのか、長谷川は俺を真っ直ぐに見つめてそう聞いてくる。
「は?」
勉強ができるようになることと、この格好をしていること。
俺の中では確かに繋がっていることだが、長谷川の中でその繋がりをどう理解したのか不思議で、俺はその顔を見返した。
「僕が、先輩に勉強教えます。先輩は努力できない人じゃないから、トップ10までには入れますよ」
「何言ってるの?」
例え2年の底辺だからといって、1年の長谷川が勉強を教えると言うのが意味が分からず、俺は鼻先で笑った。
「プライド高いの分かりますけど、僕、高校3年間の勉強ぐらいは、ひととおり全部できますから」
気の強そうな瞳を向けて俺に提案することには、嘘はなさそうである。
1年の首席か。
「……1年なのにかよ」
「アニキの宿題をこなしているうちに全部できるようになりました」
長谷川の兄貴が通っている高校も、いわゆる進学校だが、レベルがこの学校とは違う。
「北高とこの学校のレベル、ダンチだろ」
「僕が応用くらいできないと?」
「へーへー、そういや首席様だったよなあ。すげえなあ」
そこまで自信があるから、俺に情けをかけて勉強を教えてくれるのだろうか。
そこまでして、職務を全うしたいのだろうか。
「この格好いやか?」
そう尋ねると、長谷川は意外なことにも首を横に振った。
「風紀じゃなければ、どうでもいいです。先輩が無理してるように見えるから、気になります」
無理ね。
まあ、人と話すことに飢えて、長谷川に無理矢理友達になれというくらいである。
やっぱりこうして一緒にいることも、長谷川にとっては、面倒なことかもしれない。
他にこいつなら友達はいっぱいいるだろうから。
「無理ねえ……。いや、勉強できるようになっても、俺はこの格好やめねえよ」
ぐしゃっと袋のごみを握りつぶすと、制服のポケットに捩じ込んだ。
「でも、できるようになったほうがいいですよ。先輩は地を這うべきじゃない」
必死な表情で言われて、そこまで俺を気にしてくれていることが嬉しくて仕方がなくなる。
勉強を教わることで、もっと長谷川と近づけるような気もしてきた。

「……オマエやなヤツ。……じゃあ教えてくれよ。そんなに言うならさ。じゃあ……トップ10とったら……髪色変えてやるよ」
そう言うと、長谷川は硬かった表情を和らげて、嬉しそうに微笑みを浮かべて俺に大きく頷いた。

「半年で、入れますよ」

その顔がとても可愛らしく思えて、俺は思わずよろしくなと告げた。
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