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突然の異世界
私の執着
しおりを挟む夕食の後、2人ともシュタインさんに呼ばれ
執務室へと向かった。
「お疲れのところ、お呼びだてして申し訳ありません。
明日のことで少し打ち合わせをと思いまして、、」
そう労ってくれるのは有難いが、どう見ても1番疲れているのは、シュタインさんだ。
目の下にはクマができ、若干痩せたようにも見える。
それに比べて私は不本意ながら、ほとんど寝ていたので罪悪感が半端じゃない。
「明日は漸く国王陛下がお戻りになります。
昼食の後、準備が整い次第お呼びいたしますので、自室にて待機をお願いいたします。
その後謁見の間にて、陛下とご対面いただき最終的な差配が決定いたします」
「あの、もしその時にここを出ていくことが決まったらそのまま出ないとならないのでしょうか?」
そうなれば今からいろいろと準備しなければならない。物理的にも心情的にも。
「いいえ!そのようなことはありません。
もし、、ここを出る判断が下された場合でも準備が整い次第で構いませんので」
よかった、少し猶予はあるみたいだ。
少しだけ安心していると、
「明日は僕も一緒にいるから。
出ていくなんてそんなことには絶対ならないよ」
優しく微笑みながらも真剣な眼差しで、私を安心させようとしてくれている。
「ありがとう。ミズキくん」
心が温かくなって安心する。
私を励ますために言ってくれたことだろうけど、それだけで強くなれる。
大丈夫。
どんな結果だって受け止められる。
ミズキくんが側にいてくれるだけで。
次の日、私は朝からオクティマと向き合っていた。
もう聞こえないのだから諦めてしまえばいいと何度も思った。
けど、どうしても諦めきれない。
それはこの場所に居たいからなのか、ミズキくんと離れたくないからなのか、それともこの国を救いたいからなのか自分でもよく分からない。
オクティマにそっと両手と額をあてて、静かに願った。
もう一度、声を聴かせてほしい。
なぜ、私を呼んだの?
何か私に伝えたかったんじゃないの?
自分に何ができるのか分からないけど、あなたの力になりたい。
ギリギリの時間までそうして願った。
コンコン
扉を静かに叩く音がする。
「アオイ様。
お迎えにあがりました」
シュタインさんが迎えに来てくれたようだ。
私はそっと眼を開けてオクティマから離れる。
結局、私の願いは届かなかった。
最後までオクティマからは何の反応もなかった。
この気持ちは一体何なのだろう。
自分でも不思議なほどに、私はオクティマに執着している。
何かに執着するなんて今までほとんどなかったのに。叶わないなら諦めて次に向かう、それが今までしてきた選択だし、そこに後悔はない。
願って期待して、叶わなければ傷つくのは自分で・・
それなら、初めから期待なんてせずに諦めて無難に過ごせばいい。
そうやって、家族を諦めて、仲間を諦めて、自分を諦めて・・
だからそんな私が、あの声が聞こえないことが辛くて寂しいと思うなんて、こんなに必死に縋り付くなんて普通ではあり得ない。
この私の執着には、何か意味があるのだろうか。
それがどうしてなのか分からないから知りたくて、どうしても諦めたくないのかもしれない。
それでも、もうタイムリミットが来てしまった。
「仕方ない。
やっぱり私の聞き間違いだったのね」
そう自分に言い聞かせて、オクティマの部屋をあとにする。
オクティマの部屋を出てシュタインさんとともに謁見の間へ向かいながら、
「アオイ様。
オクティマから何か反応はありましたか?」
隣で歩くシュタインさんは、漸く激務から解放される喜びからか昨日より顔色がいい。
「いいえ。
結局何も聞こえませんでした。
残念ながら私はオルクではないようです。
お力になれず申し訳ありません」
自分にはそんな力はないと分かっていても、少しでも誰かの役に立てる存在になりたかった。
しかし、現実は思い通りになどならない。
私はただの人間で、それ以上でもそれ以下でもないのだ。
私が落ち込んでいるように見えたのかシュタインさんは気遣わしげな表情をしながら、
「お気になさらないでください。
オルクはまた探せばよいだけですから。
それよりアオイ様のこれからが何者にも縛られず生きられるのであれば嬉しいことです」
漸く見つけた希望の光だったはずなのに、心の内ではすごく残念に思っているはずなのに、そう優しく笑ってくれる。
「ありがとう、、ございます」
シュタインさんと並んで歩くうちに、豪奢な扉が見えてきた。
そしてそこには、優しく微笑むミズキくんが待っていてくれた。
いつものラフな格好ではなく、騎士の制服をきっちり着こなし凛々しい姿だ。
普段であれば、内心大騒ぎなのだが今だけは緊張と不安でぎこちない笑顔になる。
ミズキくんと一緒に扉の前に並ぶ。
静かに深呼吸して、心を落ち着かせる。
「大丈夫、一緒にいこう」
隣に立つミズキくんがそっと声をかけてくれる。
ミズキくんの声で心が包まれる。また強くなれる。
ミズキくん、ありがとう。
ゆっくりと扉が開き、眩しい光が入ってくる。
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