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33 ーヴェスプレームの丘でー
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待ち合わせ場所は、ヴェスプレームの、城のある丘、突端のイシュトバーン1世とギゼラ王妃の像の前、ということにした。
ヴェスプレームは、依子の泊まるバラトンアルマーディからは、内陸へ10数キロ入った所で、有名な古都である。
路線バスで向かうのだが、いまいちよくわからなかったので、バスターミナルに行って、出たとこ勝負である。
周囲の人に聞き込みをしてなんとか辿り着けた。幸い有名観光地なので、本数は多かった。
バスに乗れるか怪しかったので、余裕を持って来たから、だいぶ時間がある。
城の通り、と言われる丘の上のメイン通り沿いのカフェでハチミツカモミールティーを飲んだ。
時間が近づいたので待ち合わせ場所に向かう。
王と王妃の像は、街を望む丘の突端に立っている。
丘は、ヴェスプレーム城やカフェ、土産物屋、資料館など様々な施設の入った石造りの建築物が複合的に立っていて、中世の城下町の雰囲気が再現されている。
ゆっくりメイン通りを歩いて抜け、丘の突端に着いた。
しばらく街を眺める。
眼下には、オレンジ色の屋根瓦が美しい、絵本に出てくるような街並みが見渡せた。
「依子さん」
少し離れた斜め後ろから声がした。
「こんにちは。おつかれさまです。」
依子は譲治の顔を見ると、とてもうれしそうに微笑む。
「車停められました?」
「ええ、この砦のすぐ下に。観光地みたいなんで駐車場いっぱいありました。」
2人で並んで、景色を見ながら、ぽつぽつとおしゃべりをする。
「邪魔じゃなかったですか? なんか勢いで来ちゃいましたけど。」
譲治は心配顔だ。
「全然全然~!うれしいですよ。
私こそ、せっかくの夏休みの邪魔になりません?」
依子は風景を見ながら聞く。
「とんでもない。依子さんに言われなきゃ出かけもしなかったでしょうし。」
「ここね、以前カロリンと来た場所なの。
さっきいたバラトンアルマーディの丘の上も、彼女と行った所。
その時は、真冬の雪と氷で固まった世界だったから、良い季節にもう一回来たくて。」
「ここもガッチガチに凍りついてて、確かこの像もビニルシートがかかってたと思うのよね。
どこもかしこもツルツルするから、そこの突端に行くと落っこちるんじゃないか、と思ったわ。手すりも凍ってるんだもの。」
依子は像を指差しながら言う。
「良い所ですね。」
譲治も感心したように、街を眺めて言う。
「でしょ? 素敵よね。
この街はね、ここに立ってる王妃の愛した街なんですって。
2人仲良く立ってて、街の方じゃなくて、訪れる人と城下町を迎えてる、てのが粋よね。
中世のことだから、誰も知らないけど、仲睦まじいご夫婦だったらいいなあ、って想像します。」
譲治は、依子の横顔を見つめる。
実は、依子より早く来て、突端から少し下がった位置まで見に行っている時に、依子を見つけたのだ。
しばらく、街を眺める依子をこっそり見ていた。
「寂しくないんですか? いつも旅行する時は1人なんですよね。」
「そうね。寂しいですよ。
美しいもの、美味しいもの、出会いがあるたびに、きれいだね、これおいしいね、って感動を共有できる人が、そばにいたらな、っていつも思います。
トラブルに遭った時の面白さなんかも。
でも、感動って強要できないですよね。
無理させちゃうくらいなら、1人でいいかな。
気持ちを共有できる人がいれば良かったけど、結局無理だったなあ。」
言ってて依子は胸が締め付けられるようだった。
夕暮れが近づく美しい街並みが、メランコリックな気分を招いたらしい。
きれいだ、と言いながらひどく悲しそうな顔の依子を見て譲治は。
僕ではだめですか。
僕があなたの隣にいたい、と、言いそうになって、自分にびっくりして思わず手で口を塞いだ。
どうしました? と依子が怪訝な顔で譲治の顔を覗き込む。
「いえ、なんでも。」
「これからどうします? もうすぐ夕方だし、釣りは明日するんでしょ?
そう言えば宿とりました?」
「いや、車中泊にしようかな、と。急に決めたし。」
譲治は気を取り直して、せっかくの夏休みを楽しもう、と思った。
「ほんと?」
依子が笑った。
「いいですね~。私もそういうの好き。
でも、今の時期はもう寒いですよ、ここらへん。おすすめしないなあ。」
譲治は依子の屈託ない笑い声を聞くといつも気持ちが軽くなる。
「私が泊まってるユース、全然空いてるから、もしかしたら直前でも泊まれるんじゃないかな。
日曜夜だから安いし。聞いてみましょうか?こっからだとバスなんだけど。」
「いやいや、僕は車ですから。普通に乗っけていきますよ。」
「あ、そっか。」
そうして、依子は路線バスで苦労してきた道のりをあっという間に、宿へと戻ったのだった。
ユースホステルのオーナーはあっさり直前予約を受け入れてくれて、気を利かせて譲治を依子の同室にしてくれた。
「同室でいいんですか?」
譲治はびっくりして聞く。
「こういうユース泊まったことあります?」
依子は面白そうに言う。
「いや、ないです。」
「そんなに気にするような環境じゃないから大丈夫。」
廊下を歩きながら部屋に向かう。
扉を開けると、狭い部屋に、二段ベッドが2台、4人部屋だった。
洗面台と鍵付きロッカーがついている。
「まあ、日本で言うと合宿所とか、国民宿舎とか、山小屋とか、そういう類ですよね。」
好きなとこどうぞ、と依子は言う。
「でも、ここは当たりな方だと思います。
わりと新しくて、きれい。共用のラウンジもおしゃれだし。トイレとシャワーは、廊下の先に共同のがありますよ。」
「へえ~、二段ベッドとはなんか懐かしいですね。」
譲治も面白くなってきた。
依子は一段目にしたようだ。荷物が置いてある。
「せっかくだから夕飯ご一緒しましょう。」
依子と反対側のベッドの2段目に決めた譲治がはしごを降りて来て言った。
「もちろん!」
依子が笑顔で言う。
「何か食べたいものありますか?
僕は完全に無計画で来てるのでなんでも良いんですけどね。」
譲治は誘ったもののプランがなくて困った。
「私の今回の旅は、というか今回も、ケチケチ貧乏旅行なので、レストランに行くつもりはなかったんです。
まっとうな服も持って来てないし。
というわけで、スーパーで買い物して部屋呑みはいかがでしょう?」
依子が提案する。
「いいですね。大変僕好みです。」
譲治も大賛成であった。
車があるとやっぱり便利である。
最寄りの大きめのスーパーで、譲治が飲みたいと言った地元産のワイン、黒パンとチーズ、ぶどうとハム、ピクルス、水、チョコレートなどを買う。
「旅先で地元の人が通うスーパーをまずチェックする、てのが旅の醍醐味だと私は思っとるんですよ。相場感がわかるし。」
依子は、買うわけではないが、スーパー中くまなく見ている。
「女性は好きですよね、こういうの。」
譲治も笑いを堪えながら付き合う。
「おやおやあ?呆れてますね。 まあ人によるでしょうけど。
私が旅が好きなのは、世界は広くていろんな人のいろんな価値観が見れるからですよ~。
自分の悩みとか、考え方がどんなに局所的か、ってわかるでしょ。」
見てみて~、これ!、なんだろう?、とか譲治に言いながらぐるっとスーパー見学を楽しんで、譲治はと言えばそんな依子が何かの小動物のようで、見ていて面白かった。
ーーー
夏休みが終わって、ハイシーズンは過ぎたのか、結局、部屋に他の客人は来ず、2人の貸切りになったようだ。
最初は共用部分のラウンジで飲もうか、と言っていたのだが、部屋で広げることにした。
ワインをちびちびやりながら、おしゃべりをする。
と言っても、しゃべるのは主に依子で、譲治は面白そうに聞いている。
「なんか、だいたい私が1人で喋ってますけど、退屈じゃありません?
飽きたら言ってくださいね。
それか、そろそろ寝るんで、とか態度に表してもらって。」
依子が言う。
「いや、依子さんの話面白いですよ。僕の知らない世界のことばかりだから。」
譲治はフォローする。
2人にはけっこうな年齢差があるので、ジェネレーションギャップもあるのだが、それもまた面白いのだった。
「そう言えば、この辺りって有名なフェスが夏にあるらしいんですよね。
詳しくわからないんだけど。私フェスって行ったことないんですよね。」
依子が言った。
「フェスねえ。ロック系かな。調べてみましょうか。
若い時はちょくちょく行きましたね。もう、今はなんか混んでる所がしんどくて縁遠くなっちゃったけど。」
譲治が言う。
「どんな音楽が好きなんです?」
依子が聞いてくる。
「ロックかな。メタルとか。学生時代はバンド組んでエレキギターやってたんです。」
譲治は若干気恥ずかしさを覚えながら言う。
「えええー!!すごい意外! 見たかった~!」
依子がなぜかはしゃいでいる。
聞けば、なんと偶然にも、好きなバンドが2人とも一緒だった。
こんな偶然ある?!と言って、ひとしきり盛り上がる。
「私のうちってなんせお固いから、習い事もピアノで、結局好みの方向性がクラシックなんですよ。
でも唯一ハマったロックバンドが○○○なのよ。」
「僕はそれのコピーバンドやってたんです。」
「ひえええ~、聞きたい聞きたい!今はギターやってないの?」
「実はやってますけどね。内緒です。下手すぎて。
依子さんが、ピアノ聴かせてくれるなら、僕も弾きますよ。」
譲治はニヤリとして言った。
「いや、無理だな。ピアノないし。
楽器って、毎日何時間もやらないと簡単に腕が鈍るでしょ。もうずいぶん触ってないもの。」
でも久しぶりに弾きたいねえ、としみじみ依子は言った。
その後もとりとめなく、いろんな雑談をした。
大した内容でなくとも、少しずつお互いの理解が深まっていく。
翌日は釣りを少しして帰りたい、と譲治が言うので、おしゃべりもほどほどに切り上げて寝ることにする。
シャワーに行く準備などをしながら依子は聞く。
「釣りする人って、1人で黙々と何時間も過ごすのが好きなわけでしょ?
私なんかが一緒にいていいんですか?」
「全然オッケーです。依子さんもやりたかったら一緒にやりましょう。
釣り道具貸してくれるスポット探しておいたんです。」
譲治が言う。
「やった!初の釣り体験。楽しみ~!」
依子もうれしそうだ。
2人でバタバタと寝支度や、洗面台を使っていると、譲治が言う。
「なんか部屋の仕様のせいもあるけど、こうしていると、学生時代に戻ったような気分になりますね。」
「ほんとね。」
洗面台の鏡の中の譲治に、依子はにっこりした。
すっかり寝支度も終わり、電気を消してそれぞれの場所で布団に入る。
「それじゃおやすみなさい。
あ、いびきがうるさかったら殴って止めてください。」
譲治が言った。
「あはは、まさかそんな。大丈夫。私のほうかもしれないし。」
おやすみなさい、と言って依子も布団をかぶった。
いつもは、真っ暗だと怖くて寝られない依子だったが、今日は同じ部屋の中に譲治の気配があって安心できた。
早朝からたくさん歩き回ったので、すぐに眠りに落ちていった。
ーーー
翌朝。
昨晩残ったぶどうを朝ごはんがわりに摘んで、のんびり支度する。
チェックアウトして、車で譲治が目星をつけていた釣り場へ向かう。
「ちゃんと寝られました?」
寝癖がいつにも増してひどい譲治に依子はたずねる。
「うーん、まあまあ。久しぶりに枕変わるとちょっと落ちつかなかったです。」
譲治は目をショボショボさせている。
「もし眠くなったら遠慮なく休憩してくださいね。
私も一応免許持ってるんだけど、こっちでは一回も運転してないから自信ないの。」
間もなく目的地に着いた。
今日も幸い、天気は良い。
バラトン湖の水色が素晴らしく美しい。
湖岸の釣り場では、レンタルや、水上アクティビティもできるらしい。真夏には湖水浴も。
景色を楽しみつつ、2人は2時間ほど釣りを楽しんだ。
もちろんキャッチ&リリースである。
依子はすぐにビギナーズラックで一匹釣ったが、すぐに飽き始める。
無の境地で釣りを続ける譲治の横顔や後ろ姿をこっそり手帳にスケッチしたりする。
それから湖岸をプラプラと散歩に出かけた。
夏休みシーズンを少し過ぎたバラトン湖は、ほどよい人出と賑やかさで、落ち着いて散策を楽しめた。
ショップやカフェも多い。
自然の風景はもちろん、人々が思い思いに楽しんでいる光景は、見るだけで楽しく、幸せのお裾分けをもらっているような気分だ。
途中でジェラート屋を見つけた。
意外と小さめで安かったので一つ買う。レモンソルベと、ミルクのダブル。
スプーンで掬いながらチビチビ食べて、譲治の元へ戻る。
依子が近づくと譲治が小さく微笑んだ。
「食べます?」
依子はジェラートを差し出す。
「スプーン一個しかもらわなかったから、かぶりついていいですよ。
こっち側、私食べてないので。レモンとミルク。」
重い釣竿を両手で支えていた譲治は、思わず言われた通りかぶりついてしまった。
「おいしい?」
依子は首をかしげて聞く。
口の中がいっぱいの譲治は、うんうん、と無言でうなずいた。
レモンの甘酸っぱさが、過ぎ去っていった夏の残り香を想起させるようだった。
昨晩の宿の部屋でもそうだし、依子はこういう距離感が近いところがあった。
あまり年齢性別を気にせず気を許せるのが、譲治にとってはありがたかった。
ほっといても自分で楽しみを見つけに行くし。見つけに行ったものを、さらに譲治に分けてくれる。
ジェラートの柔らかな甘さが口の中ですっと溶けていった。
「おいしい」
思わずつぶやく。
そろそろ行くか、と片付けて、釣った魚をリリースする。
「ちょっとは気晴らしできました?」
依子がにこにこと様子を見ている。
「ええ、やっぱりいいですね。また来よう。今度は一日中。」
譲治はその楽しさを思い出した。
「さっき、風景のスケッチでもしてたんですか?」
譲治はボートハウスに道具を返して、車へ戻りながら聞いた。
「見たい?」
依子はなぜかニヤニヤしている。
「ぜひぜひ。」
譲治は依子が差し出した手帳を受け取った。
パラパラめくると、いろんな角度の譲治が描いてある。
譲治は顔がちょっと熱くなった。
横から身を乗り出して覗いている依子が面白そうに言う。
「すごいカワイイお兄さんがいたから、描いたの。」
「僕こんなふうに見えます?猫背だなあ。。。髪ボッサボサだし。」
真剣な横顔がステキでしたよ、依子は言った。
「これ一枚もらってもいいですか?」
譲治は、一番カッコよく描いてもらったと思える立ち姿のスケッチを指差す。
「どうぞどうぞ。こんなメモ帳で申し訳ないけど。」
「忘れられない思い出になります。」
そう言って、大事そうに胸ポケットにしまった。
ーーー
この後は、真っ直ぐブダペストに戻る。
明るいうちに帰れそうだ。
依子は疲れたのか、まもなく寝てしまった。
ぐるんぐるん助手席で船を漕ぐ様子が面白くて、こっそり笑ってしまった。
街に近づいたあたりで、依子はハッと起きた。
「嫌だ、助手席で寝ちゃってごめんなさい!失礼なことしてしまって!」
「別に全然構いませんよ。そういうの怒る人いるけど、僕はむしろ寝てくれてオッケー、くらい。
自分の運転でリラックスしてくれてるのがわかるから。」
よかった~、と依子はほっとしているようだ。
譲治はまた、アパートまで送ってくれると言う。
「レンタカー代、半分払いますよ?結局ほとんどの行程ご一緒しちゃったし。
この後返しに行かれるお手間もとらせて。」
「いいんです、いいんです。
依子さんの夏休みに図々しく横入りしたのは僕なんですから。」
「そうですか? じゃあお言葉に甘えて。ありがとうございます。」
依子が頭を下げる。
アパート下に到着する。
「依子さんさえ良ければ、また、どこか行きましょう。
僕はとても楽しかったです。」
あなたが、誰かと共有したいという色んな感情を、僕が受け止めますから。
寂しい、と思わせたりしない、と、本当は言いたかった。
「私も。とても楽しかった。寂しくなかったです。
今度は一日中の釣りでもいいですよ。」
そう言って、依子は帰っていった。
ーーー
レンタカーを返して、自宅アパートに帰ってきた譲治は、着ていたポロシャツの胸ポケットから、依子が描いてくれた自分の肖像を取り出した。
メモ帳への走りがきだから、罫線が入っている。
でも、それが、その時その場で描いた臨場感のようなものを伝えているようだった。
急いで描いたラフスケッチだが、鉛筆の線が柔らかく、慈しみを持って描いてくれたのだろう、と思えた。
サインと日付書いてもらえば良かった、そう思って、自分で付箋に書いて貼っておいた。
今度、小さな額を買ってこなくちゃ、と思った。
今はとりあえず、仕事机のパソコンの横、以前依子から買った和紙小箱に挿しておくことにする。
単純にうれしかった。
ヴェスプレームは、依子の泊まるバラトンアルマーディからは、内陸へ10数キロ入った所で、有名な古都である。
路線バスで向かうのだが、いまいちよくわからなかったので、バスターミナルに行って、出たとこ勝負である。
周囲の人に聞き込みをしてなんとか辿り着けた。幸い有名観光地なので、本数は多かった。
バスに乗れるか怪しかったので、余裕を持って来たから、だいぶ時間がある。
城の通り、と言われる丘の上のメイン通り沿いのカフェでハチミツカモミールティーを飲んだ。
時間が近づいたので待ち合わせ場所に向かう。
王と王妃の像は、街を望む丘の突端に立っている。
丘は、ヴェスプレーム城やカフェ、土産物屋、資料館など様々な施設の入った石造りの建築物が複合的に立っていて、中世の城下町の雰囲気が再現されている。
ゆっくりメイン通りを歩いて抜け、丘の突端に着いた。
しばらく街を眺める。
眼下には、オレンジ色の屋根瓦が美しい、絵本に出てくるような街並みが見渡せた。
「依子さん」
少し離れた斜め後ろから声がした。
「こんにちは。おつかれさまです。」
依子は譲治の顔を見ると、とてもうれしそうに微笑む。
「車停められました?」
「ええ、この砦のすぐ下に。観光地みたいなんで駐車場いっぱいありました。」
2人で並んで、景色を見ながら、ぽつぽつとおしゃべりをする。
「邪魔じゃなかったですか? なんか勢いで来ちゃいましたけど。」
譲治は心配顔だ。
「全然全然~!うれしいですよ。
私こそ、せっかくの夏休みの邪魔になりません?」
依子は風景を見ながら聞く。
「とんでもない。依子さんに言われなきゃ出かけもしなかったでしょうし。」
「ここね、以前カロリンと来た場所なの。
さっきいたバラトンアルマーディの丘の上も、彼女と行った所。
その時は、真冬の雪と氷で固まった世界だったから、良い季節にもう一回来たくて。」
「ここもガッチガチに凍りついてて、確かこの像もビニルシートがかかってたと思うのよね。
どこもかしこもツルツルするから、そこの突端に行くと落っこちるんじゃないか、と思ったわ。手すりも凍ってるんだもの。」
依子は像を指差しながら言う。
「良い所ですね。」
譲治も感心したように、街を眺めて言う。
「でしょ? 素敵よね。
この街はね、ここに立ってる王妃の愛した街なんですって。
2人仲良く立ってて、街の方じゃなくて、訪れる人と城下町を迎えてる、てのが粋よね。
中世のことだから、誰も知らないけど、仲睦まじいご夫婦だったらいいなあ、って想像します。」
譲治は、依子の横顔を見つめる。
実は、依子より早く来て、突端から少し下がった位置まで見に行っている時に、依子を見つけたのだ。
しばらく、街を眺める依子をこっそり見ていた。
「寂しくないんですか? いつも旅行する時は1人なんですよね。」
「そうね。寂しいですよ。
美しいもの、美味しいもの、出会いがあるたびに、きれいだね、これおいしいね、って感動を共有できる人が、そばにいたらな、っていつも思います。
トラブルに遭った時の面白さなんかも。
でも、感動って強要できないですよね。
無理させちゃうくらいなら、1人でいいかな。
気持ちを共有できる人がいれば良かったけど、結局無理だったなあ。」
言ってて依子は胸が締め付けられるようだった。
夕暮れが近づく美しい街並みが、メランコリックな気分を招いたらしい。
きれいだ、と言いながらひどく悲しそうな顔の依子を見て譲治は。
僕ではだめですか。
僕があなたの隣にいたい、と、言いそうになって、自分にびっくりして思わず手で口を塞いだ。
どうしました? と依子が怪訝な顔で譲治の顔を覗き込む。
「いえ、なんでも。」
「これからどうします? もうすぐ夕方だし、釣りは明日するんでしょ?
そう言えば宿とりました?」
「いや、車中泊にしようかな、と。急に決めたし。」
譲治は気を取り直して、せっかくの夏休みを楽しもう、と思った。
「ほんと?」
依子が笑った。
「いいですね~。私もそういうの好き。
でも、今の時期はもう寒いですよ、ここらへん。おすすめしないなあ。」
譲治は依子の屈託ない笑い声を聞くといつも気持ちが軽くなる。
「私が泊まってるユース、全然空いてるから、もしかしたら直前でも泊まれるんじゃないかな。
日曜夜だから安いし。聞いてみましょうか?こっからだとバスなんだけど。」
「いやいや、僕は車ですから。普通に乗っけていきますよ。」
「あ、そっか。」
そうして、依子は路線バスで苦労してきた道のりをあっという間に、宿へと戻ったのだった。
ユースホステルのオーナーはあっさり直前予約を受け入れてくれて、気を利かせて譲治を依子の同室にしてくれた。
「同室でいいんですか?」
譲治はびっくりして聞く。
「こういうユース泊まったことあります?」
依子は面白そうに言う。
「いや、ないです。」
「そんなに気にするような環境じゃないから大丈夫。」
廊下を歩きながら部屋に向かう。
扉を開けると、狭い部屋に、二段ベッドが2台、4人部屋だった。
洗面台と鍵付きロッカーがついている。
「まあ、日本で言うと合宿所とか、国民宿舎とか、山小屋とか、そういう類ですよね。」
好きなとこどうぞ、と依子は言う。
「でも、ここは当たりな方だと思います。
わりと新しくて、きれい。共用のラウンジもおしゃれだし。トイレとシャワーは、廊下の先に共同のがありますよ。」
「へえ~、二段ベッドとはなんか懐かしいですね。」
譲治も面白くなってきた。
依子は一段目にしたようだ。荷物が置いてある。
「せっかくだから夕飯ご一緒しましょう。」
依子と反対側のベッドの2段目に決めた譲治がはしごを降りて来て言った。
「もちろん!」
依子が笑顔で言う。
「何か食べたいものありますか?
僕は完全に無計画で来てるのでなんでも良いんですけどね。」
譲治は誘ったもののプランがなくて困った。
「私の今回の旅は、というか今回も、ケチケチ貧乏旅行なので、レストランに行くつもりはなかったんです。
まっとうな服も持って来てないし。
というわけで、スーパーで買い物して部屋呑みはいかがでしょう?」
依子が提案する。
「いいですね。大変僕好みです。」
譲治も大賛成であった。
車があるとやっぱり便利である。
最寄りの大きめのスーパーで、譲治が飲みたいと言った地元産のワイン、黒パンとチーズ、ぶどうとハム、ピクルス、水、チョコレートなどを買う。
「旅先で地元の人が通うスーパーをまずチェックする、てのが旅の醍醐味だと私は思っとるんですよ。相場感がわかるし。」
依子は、買うわけではないが、スーパー中くまなく見ている。
「女性は好きですよね、こういうの。」
譲治も笑いを堪えながら付き合う。
「おやおやあ?呆れてますね。 まあ人によるでしょうけど。
私が旅が好きなのは、世界は広くていろんな人のいろんな価値観が見れるからですよ~。
自分の悩みとか、考え方がどんなに局所的か、ってわかるでしょ。」
見てみて~、これ!、なんだろう?、とか譲治に言いながらぐるっとスーパー見学を楽しんで、譲治はと言えばそんな依子が何かの小動物のようで、見ていて面白かった。
ーーー
夏休みが終わって、ハイシーズンは過ぎたのか、結局、部屋に他の客人は来ず、2人の貸切りになったようだ。
最初は共用部分のラウンジで飲もうか、と言っていたのだが、部屋で広げることにした。
ワインをちびちびやりながら、おしゃべりをする。
と言っても、しゃべるのは主に依子で、譲治は面白そうに聞いている。
「なんか、だいたい私が1人で喋ってますけど、退屈じゃありません?
飽きたら言ってくださいね。
それか、そろそろ寝るんで、とか態度に表してもらって。」
依子が言う。
「いや、依子さんの話面白いですよ。僕の知らない世界のことばかりだから。」
譲治はフォローする。
2人にはけっこうな年齢差があるので、ジェネレーションギャップもあるのだが、それもまた面白いのだった。
「そう言えば、この辺りって有名なフェスが夏にあるらしいんですよね。
詳しくわからないんだけど。私フェスって行ったことないんですよね。」
依子が言った。
「フェスねえ。ロック系かな。調べてみましょうか。
若い時はちょくちょく行きましたね。もう、今はなんか混んでる所がしんどくて縁遠くなっちゃったけど。」
譲治が言う。
「どんな音楽が好きなんです?」
依子が聞いてくる。
「ロックかな。メタルとか。学生時代はバンド組んでエレキギターやってたんです。」
譲治は若干気恥ずかしさを覚えながら言う。
「えええー!!すごい意外! 見たかった~!」
依子がなぜかはしゃいでいる。
聞けば、なんと偶然にも、好きなバンドが2人とも一緒だった。
こんな偶然ある?!と言って、ひとしきり盛り上がる。
「私のうちってなんせお固いから、習い事もピアノで、結局好みの方向性がクラシックなんですよ。
でも唯一ハマったロックバンドが○○○なのよ。」
「僕はそれのコピーバンドやってたんです。」
「ひえええ~、聞きたい聞きたい!今はギターやってないの?」
「実はやってますけどね。内緒です。下手すぎて。
依子さんが、ピアノ聴かせてくれるなら、僕も弾きますよ。」
譲治はニヤリとして言った。
「いや、無理だな。ピアノないし。
楽器って、毎日何時間もやらないと簡単に腕が鈍るでしょ。もうずいぶん触ってないもの。」
でも久しぶりに弾きたいねえ、としみじみ依子は言った。
その後もとりとめなく、いろんな雑談をした。
大した内容でなくとも、少しずつお互いの理解が深まっていく。
翌日は釣りを少しして帰りたい、と譲治が言うので、おしゃべりもほどほどに切り上げて寝ることにする。
シャワーに行く準備などをしながら依子は聞く。
「釣りする人って、1人で黙々と何時間も過ごすのが好きなわけでしょ?
私なんかが一緒にいていいんですか?」
「全然オッケーです。依子さんもやりたかったら一緒にやりましょう。
釣り道具貸してくれるスポット探しておいたんです。」
譲治が言う。
「やった!初の釣り体験。楽しみ~!」
依子もうれしそうだ。
2人でバタバタと寝支度や、洗面台を使っていると、譲治が言う。
「なんか部屋の仕様のせいもあるけど、こうしていると、学生時代に戻ったような気分になりますね。」
「ほんとね。」
洗面台の鏡の中の譲治に、依子はにっこりした。
すっかり寝支度も終わり、電気を消してそれぞれの場所で布団に入る。
「それじゃおやすみなさい。
あ、いびきがうるさかったら殴って止めてください。」
譲治が言った。
「あはは、まさかそんな。大丈夫。私のほうかもしれないし。」
おやすみなさい、と言って依子も布団をかぶった。
いつもは、真っ暗だと怖くて寝られない依子だったが、今日は同じ部屋の中に譲治の気配があって安心できた。
早朝からたくさん歩き回ったので、すぐに眠りに落ちていった。
ーーー
翌朝。
昨晩残ったぶどうを朝ごはんがわりに摘んで、のんびり支度する。
チェックアウトして、車で譲治が目星をつけていた釣り場へ向かう。
「ちゃんと寝られました?」
寝癖がいつにも増してひどい譲治に依子はたずねる。
「うーん、まあまあ。久しぶりに枕変わるとちょっと落ちつかなかったです。」
譲治は目をショボショボさせている。
「もし眠くなったら遠慮なく休憩してくださいね。
私も一応免許持ってるんだけど、こっちでは一回も運転してないから自信ないの。」
間もなく目的地に着いた。
今日も幸い、天気は良い。
バラトン湖の水色が素晴らしく美しい。
湖岸の釣り場では、レンタルや、水上アクティビティもできるらしい。真夏には湖水浴も。
景色を楽しみつつ、2人は2時間ほど釣りを楽しんだ。
もちろんキャッチ&リリースである。
依子はすぐにビギナーズラックで一匹釣ったが、すぐに飽き始める。
無の境地で釣りを続ける譲治の横顔や後ろ姿をこっそり手帳にスケッチしたりする。
それから湖岸をプラプラと散歩に出かけた。
夏休みシーズンを少し過ぎたバラトン湖は、ほどよい人出と賑やかさで、落ち着いて散策を楽しめた。
ショップやカフェも多い。
自然の風景はもちろん、人々が思い思いに楽しんでいる光景は、見るだけで楽しく、幸せのお裾分けをもらっているような気分だ。
途中でジェラート屋を見つけた。
意外と小さめで安かったので一つ買う。レモンソルベと、ミルクのダブル。
スプーンで掬いながらチビチビ食べて、譲治の元へ戻る。
依子が近づくと譲治が小さく微笑んだ。
「食べます?」
依子はジェラートを差し出す。
「スプーン一個しかもらわなかったから、かぶりついていいですよ。
こっち側、私食べてないので。レモンとミルク。」
重い釣竿を両手で支えていた譲治は、思わず言われた通りかぶりついてしまった。
「おいしい?」
依子は首をかしげて聞く。
口の中がいっぱいの譲治は、うんうん、と無言でうなずいた。
レモンの甘酸っぱさが、過ぎ去っていった夏の残り香を想起させるようだった。
昨晩の宿の部屋でもそうだし、依子はこういう距離感が近いところがあった。
あまり年齢性別を気にせず気を許せるのが、譲治にとってはありがたかった。
ほっといても自分で楽しみを見つけに行くし。見つけに行ったものを、さらに譲治に分けてくれる。
ジェラートの柔らかな甘さが口の中ですっと溶けていった。
「おいしい」
思わずつぶやく。
そろそろ行くか、と片付けて、釣った魚をリリースする。
「ちょっとは気晴らしできました?」
依子がにこにこと様子を見ている。
「ええ、やっぱりいいですね。また来よう。今度は一日中。」
譲治はその楽しさを思い出した。
「さっき、風景のスケッチでもしてたんですか?」
譲治はボートハウスに道具を返して、車へ戻りながら聞いた。
「見たい?」
依子はなぜかニヤニヤしている。
「ぜひぜひ。」
譲治は依子が差し出した手帳を受け取った。
パラパラめくると、いろんな角度の譲治が描いてある。
譲治は顔がちょっと熱くなった。
横から身を乗り出して覗いている依子が面白そうに言う。
「すごいカワイイお兄さんがいたから、描いたの。」
「僕こんなふうに見えます?猫背だなあ。。。髪ボッサボサだし。」
真剣な横顔がステキでしたよ、依子は言った。
「これ一枚もらってもいいですか?」
譲治は、一番カッコよく描いてもらったと思える立ち姿のスケッチを指差す。
「どうぞどうぞ。こんなメモ帳で申し訳ないけど。」
「忘れられない思い出になります。」
そう言って、大事そうに胸ポケットにしまった。
ーーー
この後は、真っ直ぐブダペストに戻る。
明るいうちに帰れそうだ。
依子は疲れたのか、まもなく寝てしまった。
ぐるんぐるん助手席で船を漕ぐ様子が面白くて、こっそり笑ってしまった。
街に近づいたあたりで、依子はハッと起きた。
「嫌だ、助手席で寝ちゃってごめんなさい!失礼なことしてしまって!」
「別に全然構いませんよ。そういうの怒る人いるけど、僕はむしろ寝てくれてオッケー、くらい。
自分の運転でリラックスしてくれてるのがわかるから。」
よかった~、と依子はほっとしているようだ。
譲治はまた、アパートまで送ってくれると言う。
「レンタカー代、半分払いますよ?結局ほとんどの行程ご一緒しちゃったし。
この後返しに行かれるお手間もとらせて。」
「いいんです、いいんです。
依子さんの夏休みに図々しく横入りしたのは僕なんですから。」
「そうですか? じゃあお言葉に甘えて。ありがとうございます。」
依子が頭を下げる。
アパート下に到着する。
「依子さんさえ良ければ、また、どこか行きましょう。
僕はとても楽しかったです。」
あなたが、誰かと共有したいという色んな感情を、僕が受け止めますから。
寂しい、と思わせたりしない、と、本当は言いたかった。
「私も。とても楽しかった。寂しくなかったです。
今度は一日中の釣りでもいいですよ。」
そう言って、依子は帰っていった。
ーーー
レンタカーを返して、自宅アパートに帰ってきた譲治は、着ていたポロシャツの胸ポケットから、依子が描いてくれた自分の肖像を取り出した。
メモ帳への走りがきだから、罫線が入っている。
でも、それが、その時その場で描いた臨場感のようなものを伝えているようだった。
急いで描いたラフスケッチだが、鉛筆の線が柔らかく、慈しみを持って描いてくれたのだろう、と思えた。
サインと日付書いてもらえば良かった、そう思って、自分で付箋に書いて貼っておいた。
今度、小さな額を買ってこなくちゃ、と思った。
今はとりあえず、仕事机のパソコンの横、以前依子から買った和紙小箱に挿しておくことにする。
単純にうれしかった。
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