鈍色の空と四十肩

いろは

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48 ー仕事始めー

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「明けましておめでとうございます!」
 新年最初の金曜日の朝。
 元気に『さくら』のドアを開ける。

「おう!明けましておめでとう!」
「おめでとうございまーす!」
 厨房から、斉藤と愛の張りのある声が聞こえた。

 バックヤードに荷物を置いて、エプロンをつけ、早速いつも通り店内の掃除を始める。
 なんとなく首筋の視線を感じ振り向くと、厨房の中の、パッと視線を逸らす斉藤と、張り付いたような笑顔の愛が見えた。
 なんだろ?と思ったが、特に用事はなさそうなので、仕事に戻る。

 お昼の営業が終わり、休憩時間。
 いつものように斉藤の賄いをいただく。
 今日は正月らしくお雑煮だ。ひとしきり、お雑煮と地域性について雑談をする。

 食べ終わると、斉藤が言う。
「依子さんさあ、ちょっとお使い頼まれてくれない? 
 新年のお花、いけたいから、最寄りの花屋さんで適当に見繕ってきてくれる?できるだけ日本ぽいやつ。お任せするから。」
「はい、了解しました。」
 そうして依子は代金を預かって、早速出かける。
「ゆっくり行ってきていいからね。」
 はーい、と行って依子は出ていった。

 にこやかに依子を見送った斉藤が、一転して渋い顔でくるりと回れ右をして厨房の愛に言う。
「どう思う?」
 愛も仕込み作業の手は止めず言う。
「ヤバいっすね。ヤバすぎです。」
「俺さあ、午前中だけで近所の常連さん、3人も声かけられちゃったよ。
 依子さんてフリーなのか、って。
 今までそんなこと聞かれなかったのに。
 向かいのゲオルク爺さんだろ、裏の肉屋のトマス坊やだろ、あとあの角行った所の本屋のおやじ。」
 腕組みしてしかめ面して斉藤は言う。

「依子さんどエロいっすね。女の私でも目を逸らしたくなるくらいです。」
「君ねえ。だからオブラートに包みなさいっていつも、」
 斉藤は、はあ、とため息をつく。
「シャイなハンガリー人が思い切って聞いてくるってことはよっぽどですね。
 私も2人聞かれましたよ。あの雰囲気美人は誰だって。観光客かな。」
「俺が言うとセクハラで訴えられそうだから、君から言ってやってよ~。
 もうちょっとイモいカッコしてこいって。」

「いやあ、依子さん今までだって、イモい、、と言っちゃなんですが飾りっけなかったですよ?今日だっていつものカットソーとジーパンじゃないですか。」
「何が違うんだろ。」
 斉藤が顎に手をやって考えている。

「もう肌艶が違うんですよ。瑞々しくて、血色いいし。あとやっぱ表情かな。
 口角が上がって、頬も上がって、にこやかなんですよ。 
 それから、なんつうんですか、なんかこう...仕草? すげえ色っぽいですよね。姿勢かな。ちょっとした瞬間の。」
 愛が滔々と分析結果を披露する。

「よく見てんねえ!」
 斉藤が感心する。
「そりゃ女同士ですからね。自然にチェック厳しくなりますよ。
 一緒に温泉行った仲だし。あの時と全然違う。」

「なんでだ?? 正月になんかあったか?」
 斉藤が眉根を寄せている。
「そりゃ決まってるでしょ!」
 愛がニヤニヤしだす。
「う~~ん! 田中君ついにやったか。
 くそお。今度呼び出していぢめてやろ。」
 斉藤は本気で悔しそうだ。

「師匠、そういうとこっすよ。そんなんだから彼女できないんすよ。」
 愛が吐き捨てるように言う。
「それはさておきさあ、どうするか。
 カッチリした性差のない制服で防御するか? 
 ちょうど俺たちのコックコートもよれてきたし、全員お揃いで、ビシっとしっぶ~い、色気もくそもないコート買おう! 
 うん。それがいいや。そしたら女ぽさもなくなるだろ。」
 斉藤はなんとか妥協策を考えて、早速専門店に注文の電話をする。

「このままだと、田中君に依子さんの勤務を止められるような修羅場になるやもしれんし。手は打っとかんとな。」
 斉藤はぶつぶつ言っている。
「上手くいきますかね。」
 愛はぼそっとつぶやいた。

 翌日、すぐに近所の専門店から無事制服は届き、3人お揃いで、首元まで詰まった紺色のカッチリしたコックコートで、新年の『さくら』は始まったのだった。
 もっとも、カッチリしたコックコートは、依子の豊かな胸やヒップを強調し、深い紺色は、その白い肌の艶かしさを強調することになり、解決策にはならなかった。
 こうなったら田中君にちょっと控えろと直談判するしかない、と本気でプンスカしている斉藤を、愛が叱りつけて、仕事始めの週末は過ぎていくのだった。

ーーー

 日曜の勤務が終わって、夜9時。
 譲治が来るはずだから、何か食材買って帰るか、と思い、依子は『さくら』を出たところでLINEした。

「どんな週末を過ごしましたか? 今バイト終わりました。 
 近所のスーパー寄って帰ります。欲しいものあったらリクエストしてね。」
 すぐに返信が来る。待っていてくれたようで、胸が熱くなる。
「ずっと会いたかったです。 
 迎えに行きますからスーパーに行っててください。実はもう近くまできてます。」
 いつも譲治は直球で依子に気持ちを投げてくれる、それがうれしくもあり、怖くもあった。
 あんまり好きになってしまって、いつか飽きられた時に、正気でいられるかしら、と。

 歩いてすぐのスーパーで野菜や果物を見てまわる。
 正月早々なので、品揃えはあまり良くない。
 柑橘類やりんごを買って、あとはお惣菜コーナーで済ませることにする。

 すると、少し後ろから声をかけられた。
 譲治の控えめないつものトーン。
たった3日なのに、すごく久しぶりな気がして、うれしくて胸が張り裂けそうだ。振り返って、譲治の姿を捉える。
 自分の頬が上がって熱くなるのがわかる。
 譲治は、いつもの静かな表情だが、口の端はにこやかに上がって、目が依子を見てキラキラしていた。

「わざわざ来てもらってごめんなさいね。夜も遅いのに。寒かったでしょ?」
 依子は言いながら、カゴを持っていない手で、そっと譲治の手に触れる。
 譲治の手は冷やされて、氷のようだった。
 譲治はその手を握り返して言う。
「大丈夫です。僕が一刻でも早く会いたかったんだから。それにすぐあったかくなるし。」

 そして、2人は軽い夜食を買って、スーパーを出る。
 外に出ると、雪がちらついていた。
 譲治が、依子のコートのフードを被せてあげる。
 そして、荷物を持っていない方の手で依子の手を握り、自分のコートの大きなポケットに突っ込んだ。
 ポケットの中で、依子の爪や指や手のひらを優しく撫でさする。
 2人は無言で微笑みを交わし見つめ合う。
 しばらくして、トラム乗り場まで歩き始めた。

 道路を挟んで向かい側では、ちょうど店を出て歩いてきた斉藤と愛がその様子を見てしまった。
 斉藤はたまたま今日は商店会の寄り合いで酒を飲んでしまったので、地下鉄通勤だった。

「いやーーー。当てられちゃうなあ。。。」
 愛がぼそっと言う。
「デバガメか。ったく。歩きの日に限って現場に居合わせちゃうんだもんなあ。 
 わざわざ迎えに来るって。どんだけだよ。」
 斉藤が苦々しげに言う。
 まあまあ、と愛に宥められながら、2人も帰宅するのだった。

 無言でトラムに乗りながら、譲治は考えていた。
 手は繋いだまま、自分のポケットの中なのをいいことに、好きなように依子の手を撫でさすっている。

 依子に会えない3日間は非常に辛かった。
 あまりに濃厚な、天国にいるようなひとときを、依子と過ごした後だったので、落差が激しかった。
 それでも金曜日は業務があるので、なんとか必死で仕事に集中した。
 あとの土日は、のんびりしているとすぐ依子のことを考えてしまい、どうしようもなかった。
 気を抜くと、すぐ、脳裏に依子のあまりに煽情的な肢体が浮かび上がる。
 仕方ないので、めちゃくちゃに筋トレと動画編集をする。
 真冬なので外にジョギングに出かけられないのがつらい。こんな時こそ、全力疾走で走り込みたいのに。
 その代わり、溜まる一方だった素材をあらかた編集し、アップする動画をストックできた。

 隣の依子を見ると、安心したような顔で目を閉じている。
 バイトで疲れているのだろう。その前だって、自分ががっついたせいで疲れさせたかもしれない。
 依子を疲れさせたくない、大事に包んでおきたい、と思いつつ、依子の前に立ちその肌に触れると、もうどうしようもなく止められなくなる。

 深い関係になってまだ数日とはとても信じられなかった。
もうずっと、依子に溺れていたような気がした。いや、実際そうだったのかもしれない。気づいていなかっただけで。
 初めてマックで会った時は多分まだ。
 2回目に苺をもらった時には、もう惹きつけられていた。
 あの鮮やかな赤は、依子の存在の象徴であるかのように、いつも心に残っていたから。

 譲治は思う。
 依子はまだ完全に自分を信じていない。
 いつか譲治が、歳をとった依子を捨てる、と思ってる。
 もう僕は彼女から離れられないのに。
 この人と違う線上の人生を生きるなんて耐えられない。彼女と1ミリの隙間もなく一つになって溶け合いたい。
 彼女の中に、1番奥で、自分を放ちたかった。

 以前、斉藤が言っていたように、確かに依子の年齢から言って、避妊せず肉体関係を持ち続けるのは、女性にとっても、妊娠した場合その子にとっても、ハイリスクだ。ハンデを持って生まれてくる可能性が高い。
 その年齢で子作りするなんて、生まれてくる子供がかわいそうだ、と責める人も多い。ただ、健康な男女が、ほぼ最後のチャンスを捉えに行くことは、罪だろうか?
 何歳であっても、生まれてきた子を、その状態によらず愛し育てると覚悟を決めて臨むのは、罪だろうか。
 なかなか結論は出ない。
それでも、シンプルに考えて、2人のありようは、2人の肉体関係の持ち方は、2人で納得して決めていいはずだ、と思っている。

 譲治は、これから依子を抱くたびに、自らを依子の中で解き放ちたい、という究極の欲求を、押さえ続ける自信がなかった。この前でさえ、すんでのところで外に出せたのだ。
 まあ、彼女の健康に差し障りがあるのなら、避妊することになんの躊躇もないんだけども。
 依子さんだって、止めてくれればいいのに。
 決して拒否せず、縋るような目で僕を見て、その柔らかい体が絡み付いてくるから、僕は...。と考えたところで、トラムの中で押し倒したいような気分になってしまったので、すぐ脳みそにストップをかけた。

ーーー

 依子は、目を閉じてはいるが、感じるのは暖かなポケットの中で自分の指を撫でる譲治の手の動きだけ。
 冷たかったお互いの手は、すぐに温かくなった。

 譲治の手の動きを感じていると、3日前に、依子の身体中を撫でさすり、中を、外を、犯すように暴いた、その骨ばった手を思い出す。
 そうしていると、体の中心部が、下腹部の奥が、潤って熱くなってくる。なんだか落ち着かなくなって、それを紛らわすように隣の譲治を見た。譲治も依子を見る。
 2人は無言で相手の目の中に、自分の姿を見て、そっと微笑む。

「あ、そう言えば。
 斉藤さんが男同士で新年会しよう、って。伝えてくれって言ってました。
 愛ちゃんの旦那さんのコルムのパブに連れてってくれるって。」
「そうですか。じゃ、週中にでも『さくら』に行ってみます。
 披露宴のご招待受けてるのに、旦那さんにお会いしときたいな、と思ってたんです。」
 
 そう譲治は依子には言ったが、内心は、チッ、と若干毒付いている。
 やっぱりきたか。勘のいい斉藤のことだから、年明けに依子さんを見て、何か勘づくに違いないとは思っていた。
 譲治自身が、依子のここ数日の艶やかさを見て、できれば家に閉じこめておきたいと思っていたのだ。そうはいかないから止むなしである。

 トラムを降りて、雪の中、依子のアパートへ歩く。
「なんか、いつもごめんね。休みが合わなくて。
 譲治くんのおやすみの時に私も時間を空けられれば良かったんだけど。」
「いいんですよ別に。
 在宅とは言え僕は定時であがれるサラリーマンですから。 
 依子さんは時間があれば、寝てる時間以外ほとんど仕事してるでしょ? 
 だから僕がほどよく邪魔してあげます。そうしないと依子さんは休まないんだから。」
「あははっ、そうね。たしかに。
 譲治くんがいてくれれば、仕事はできないわ。」
 依子が声をあげて笑った。
 譲治はそんな依子の屈託ない笑い方が大好きだった。

 間隔を開いて灯る街灯の、弱い光に照らされ舞い落ちる雪は、冷たく美しかった。
「きれいね。」
 依子が上を見て呟く。
「そうですね。
 でも、僕にとってはあなたの方がきれいだ。」
 譲治はそう言って、握っていた依子の手を唇に近づけ、キスをした。
 依子の心臓は急に跳ね上がる。
「譲治くん...」
 切なそうに依子が名前を呼ぶ。
 依子の声を聞いて、譲治は一気に体が燃え上がったようだった。
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