十三月の風

アオバ

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8話

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 明かりや音がないのは園内に入っても変わらずで、この場所を知らない霊感のある人間が、今わたしを目撃したら、ここを心霊スポットと勘違いするかもしれない。
 ただ、そんな巨大なお化け屋敷の従業員は自分でも驚くほど高揚していた。
「魔法の力でさ、動かしたりできないの?」
 悲しいかな、わたしには周りのアトラクションがルークと同じに思える。
 空想上の生き物に連れられ、テレビの中の世界へ。B級と言われそうな設定だが、好みとはわからないもので、わたしをそんな作品に虜になっていた。
「無理やり動しても壊れるだけだし、上手く動かせても明日、大騒ぎになってしまう。だからできない」
 仕事を終えた夢の塊達はルークの言葉に安心したのか、吹いた安堵の溜息は暗闇に潜んでいた緊張感を連れていく。
「それも、ちょっと見てみたいけどね」
 明日という言葉は、何処かで目が覚めるのではという不安をかき消す。
「じゃあ、ルークにジェットコースターに変身してもらおっかな」
 目の前にある世界一を謳うアトラクションを指差しながら、いたずらにルークを見つめる。
「ざんねん。機械にはなれないんだ。それにコイツと同じスピードは出せない」
 冗談だったので、返答の内容に対して感情は動かないが、今までより楽しそうな声が返って来たことには興味が沸いた。
「もしかして、遊園地好き?」
 スルスルとジェットコースターの方へと向かうルークを追う。
「正しい楽しみ方をしたことはない。ただ、たまに人を眺めるスポットとしては使っている」
「そうか......それだったら、ちょっと似合っちゃうな......」
「どういう意味だ?」
 質問は苦笑と共にやって来る。
「ルークがはしゃいでる姿が想像できないから、こういう場所が好きなら意外だと思ったんだけどね」
 残念だったなとまた彼は笑う。
「仕事もなければ、命に限りもない暇人だからな。ボーっとしてるだけだ」
 
 怪我する可能性がなくても暗闇の階段は怖いもので、手すりを掴むわたしの歩調は慎重になる。
「大丈夫か?」
「うん。でも、なんでジェットコースターに?動かないのに」
 日中とは違い、待ち時間なくスムーズに乗り場まで辿り着く。だが、この時間唯一の利点も、その先がなければ意味はない。
「どうせ、散歩することしかできないなら、普通の人が歩けない道の方が楽しいだろ」
 そう言うと、ルークはレールの上に降り、そして、手招きをしてきた。
「ジェットコースターの途中に幽霊が居たら、見える人は二重で怖いね」
 彼の行動にわたしの好奇心は惹かれ、後を追いレールへと近づく。
「結果すり抜けるんだが、昔、度胸試しをして轢かれそうになっている魔物を見たことがある」
 見えない手が、がっちりとわたしの体を支えてくれる。どうやら、この姿になってもこの手は見えないままのようだ。
「そんなの見えないからいいけど、トラウマだよ」
 大丈夫と分かっているが、若干、足元がすくむ。
「やめておくか?」
 日中だったらもっと怖かったはずだろう。今日初めて暗闇に感謝をした。
「ううん。大丈夫」 
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