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9話
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見えない手の力によって体は右へ左へと傾jき、そして今、わたしの足は頭よりも高い位置あった。
「生身だったら、吐いてたと思う」
もはや、自分の意思で歩いているのか、手に押されているのかはわからない。
「楽しんでもらえているなら何よりだ」
会話が成立しているのかもわからない。
「これって、もし落ちたらさ、痛みは感じるの?」
地面の方、頭上へと視線を向けると、意識したことを後悔する高さを認識してしまう。
「感じないはずだ」
「はず?」
強風が体をすり抜ける。
「……私には感情や記憶があると思うか?」
「あ……あると思うけど……」
突然の言葉はまるでミステリーの犯人が殺人を行う時のようで体が強張る。
「じゃあ、多分。痛みは感じない」
「どういうこと?」
勝手に納得しようとするルークの言葉を必死で掴む。
「感情や記憶が魂に紐づいているなら、器しかない魔物はそれらがないはずだ」
「確かに」
「だが、あると言ってくれた。ならば、器に紐づいているのだろう。それならば、魂だけの姿であれば痛いという感情はないはずだ」
「いや……でも、わたし、今、焦る感情があるけどね」
知らない世界を教えてくれるというだけで、これまでは何処か盲信的になっていたのだろうか。今までになく、彼の言葉が頭に入り、彼と会話をしようとしている自分がいる。
「それに、悪霊は思いによって縛り付けられたんでしょ。なら、魂にも感情が紐づいてるんじゃないかな」
冴えた意識にはルークの笑い声が良く聞こえる。
「感じないはずというのも本当なんだ」
急に答え合わせを始めるルークに頭が混乱する。
「物に触れた時、触れている感覚はあっただろ。器である体がないのに」
「……うん」
いつの間にかルークの腕を掴んでいたことに気付くが、離すタイミングを見失ってしまい、とりあえず力を緩めておく。
「感情や記憶は魂に紐づき、触れ合うためには器がいる。どちらかが欠けている存在は結局、偽物に頼るんだ」
「ルークの感情は偽物ってこと?」
「あぁ、多分。何かはわからないが、足りないものを補う力が魂にも器にもあるんだろう。これも私の意見ではない。魂について考えた魔物の考えだ」
人間代表としては本物だと言いたくなってしまう。
「無意識に立っている地面の感覚も、意識的に触れた色々な感覚も、今の君の感覚は全て偽物である。それを心の底から理解すれば、ここから落ちても、痛みは感じないと思う。そもそも、触れていても触れていないのだから」
ここまで体験してきた経験のために本物だと言いたくなってしまう。
「まぁ、落としても、意外と痛くない。で、終わると思うがな」
「えっ」
「実際に折れたりする体がないからな。魂が想像できる範囲になるはずだが、骨とか折ったことないだろ」
「うん」
「じゃあ、きっと大丈夫だ」
「だとしても、落とさないでね」
また、ルークを掴む力が強くなる。
「そういえば、今ならわたしも魔法使えないかな」
終盤に差し掛かってきたレール上の冒険は、新しい体験がなくなり、気持ちは次を探し始めていた。
「あとでやってようか」
「答えは教えてくれないの?」
「これは私もわからない」
いよいよゴールが見えてくる。このジェットコースターに乗った人は何万人もいるだろうが、歩いた人は何人いるのだろうか。これは、小学生ならば嘘つきと馬鹿にされる体験だ。そして、それでも自信を持って自慢できる体験でもあった。
「どっちだと思う?」
真面目に悩んでくれる隣の存在も含めて。
「生身だったら、吐いてたと思う」
もはや、自分の意思で歩いているのか、手に押されているのかはわからない。
「楽しんでもらえているなら何よりだ」
会話が成立しているのかもわからない。
「これって、もし落ちたらさ、痛みは感じるの?」
地面の方、頭上へと視線を向けると、意識したことを後悔する高さを認識してしまう。
「感じないはずだ」
「はず?」
強風が体をすり抜ける。
「……私には感情や記憶があると思うか?」
「あ……あると思うけど……」
突然の言葉はまるでミステリーの犯人が殺人を行う時のようで体が強張る。
「じゃあ、多分。痛みは感じない」
「どういうこと?」
勝手に納得しようとするルークの言葉を必死で掴む。
「感情や記憶が魂に紐づいているなら、器しかない魔物はそれらがないはずだ」
「確かに」
「だが、あると言ってくれた。ならば、器に紐づいているのだろう。それならば、魂だけの姿であれば痛いという感情はないはずだ」
「いや……でも、わたし、今、焦る感情があるけどね」
知らない世界を教えてくれるというだけで、これまでは何処か盲信的になっていたのだろうか。今までになく、彼の言葉が頭に入り、彼と会話をしようとしている自分がいる。
「それに、悪霊は思いによって縛り付けられたんでしょ。なら、魂にも感情が紐づいてるんじゃないかな」
冴えた意識にはルークの笑い声が良く聞こえる。
「感じないはずというのも本当なんだ」
急に答え合わせを始めるルークに頭が混乱する。
「物に触れた時、触れている感覚はあっただろ。器である体がないのに」
「……うん」
いつの間にかルークの腕を掴んでいたことに気付くが、離すタイミングを見失ってしまい、とりあえず力を緩めておく。
「感情や記憶は魂に紐づき、触れ合うためには器がいる。どちらかが欠けている存在は結局、偽物に頼るんだ」
「ルークの感情は偽物ってこと?」
「あぁ、多分。何かはわからないが、足りないものを補う力が魂にも器にもあるんだろう。これも私の意見ではない。魂について考えた魔物の考えだ」
人間代表としては本物だと言いたくなってしまう。
「無意識に立っている地面の感覚も、意識的に触れた色々な感覚も、今の君の感覚は全て偽物である。それを心の底から理解すれば、ここから落ちても、痛みは感じないと思う。そもそも、触れていても触れていないのだから」
ここまで体験してきた経験のために本物だと言いたくなってしまう。
「まぁ、落としても、意外と痛くない。で、終わると思うがな」
「えっ」
「実際に折れたりする体がないからな。魂が想像できる範囲になるはずだが、骨とか折ったことないだろ」
「うん」
「じゃあ、きっと大丈夫だ」
「だとしても、落とさないでね」
また、ルークを掴む力が強くなる。
「そういえば、今ならわたしも魔法使えないかな」
終盤に差し掛かってきたレール上の冒険は、新しい体験がなくなり、気持ちは次を探し始めていた。
「あとでやってようか」
「答えは教えてくれないの?」
「これは私もわからない」
いよいよゴールが見えてくる。このジェットコースターに乗った人は何万人もいるだろうが、歩いた人は何人いるのだろうか。これは、小学生ならば嘘つきと馬鹿にされる体験だ。そして、それでも自信を持って自慢できる体験でもあった。
「どっちだと思う?」
真面目に悩んでくれる隣の存在も含めて。
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