十三月の風

アオバ

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10話

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「これを掴んでみるか」
 目の前にやって来たゴミ箱は空き缶を一つ吐き出す。さすが魔法と言うべきか、受け取った宝石は暗闇の中でも色が変わるのが確認できた。
「コツとかはあるの?他の魔法が出たりしない?」
「実際に自分の手で掴むイメージをするだけで大丈夫だ」
「OK」
 無駄に、宝石を握った右手を前に突き出す。
「よし、いくよ!」
 拾う。ゴミ箱に入れる。拾う。ゴミ箱に入れる。
 缶の元へ駆け寄りそうな気合を持って、慎重に想像を巡らせる。
「あっ」
 確認してはいないが、下から上になんて風は吹いていないだろう。
 人間が挑戦することすら初めてかもしれないとルークは言っていた。もしそうであれば、たとえ魔物の世界でも、浮き上がった缶はわたしが世界へ貢献した最初で最後の出来事となるのかもしれない。
「使えたな」
 偉業を特等席で目撃した魔物はこれまでと変わらぬ声色で話す。
「もっと驚いてよ。使えるの知らなかったんでしょ」
「驚いてるさ」
 地面に缶が落ちる音が響く。
 反応が薄いルークに気が向くと、すぐに魔法は解けてしまった。
「人類初の偉業なのに……」
「学者を呼んでおけばよかったな」
 手を出すルークに宝石を返すと、水を得た魚のように缶は飛び上がり、ゴミ箱の中へ帰っていく。
「なんでそんな簡単に使えるの?」
「慣れだ。何回か使えば片手間で動かせるようになる」 
 帰路につくゴミ箱は余所目に、二人はこの後について話し始めた。

「うわっ」
 突然聞こえた叫び声に体が硬直する。聞こえて来たのは元々ゴミ箱があった方から。
 わたしは夢から目覚めることを覚悟しながら、恐る恐る体をそちらへ向ける。
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