【完結】翠玉の森

シマセイ

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第六話:認められし功績と深まる謎

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夜明け前の薄明かりの中、フィンとリーナは疲労困憊の体で集落へとたどり着いた。

月の泉での激闘は、二人の体力と精神力を大きく消耗させていた。

集落の入り口では、心配そうに待っていた見張りのエルフたちが二人を出迎え、すぐに長老たちの元へと案内した。

エルロンド長老をはじめとする長老たちは、広場に集まり、厳しい表情で二人を待っていた。

フィンとリーナは、長老たちの前に進み出て、深く頭を下げた。

「長老、申し訳ありません。
掟を破り、勝手な行動をとりました」

フィンが代表して謝罪した。

「…全くじゃ。
どれほど心配したと思っておる」

エルロンド長老は厳しく言ったが、その声には安堵の色も混じっていた。

「しかし、お前たちが無事に戻ったことは何よりだ。
そして、その顔…ただでは済まなかったようだな。
何があったのか、詳しく話してみよ」

フィンとリーナは、交互に月の泉での出来事を語った。

泉の様子、闇の門の兆候、門の番人との遭遇、銀葉草の効果、そして番人が最後に口にした『主』と『計画』という言葉。

二人の報告を聞き終えた長老たちの間には、重い沈黙が流れた。

「月の泉に、やはり門が…そして、門の番人までいたとは…」

「銀葉草が、奴らに効果があることも確かか…」

「だが、『主』…? 一体、何者が裏で糸を引いているというのだ…」

長老たちは顔を見合わせ、事態の深刻さを改めて認識した。

エルロンド長老は、厳しい表情ながらも、フィンとリーナに向き直った。

「フィン、リーナ。
お前たちの行動は、確かに掟に背くものだった。
その点は、厳しく反省せねばならぬ。
しかし…」

長老は言葉を続ける。

「お前たちが持ち帰った情報は、我々にとって極めて重要だ。
そして、その勇気ある行動が、一時的とはいえ門の脅威を退けたことも事実。
その功績は、認めねばなるまい」

その言葉に、フィンとリーナは顔を上げた。

特にフィンにとっては、長老から功績を認められるなど、初めての経験だった。

周囲のエルフたちからも、驚きと、そして称賛の視線が注がれるのを感じる。

もはや、フィンを単なる変わり者として揶揄する者は、そこにはいなかった。

「月の泉の監視は、さらに強化する。
そして、集落の者たちには、銀葉草の収集を命じよう。
その活用法については、知恵ある者たちで早急に検討せねばならぬ」

エルロンド長老は、矢継ぎ早に指示を出していく。

そして、最後にフィンに向き直った。

「フィンよ。
お前には、引き続き古文書の調査を任せたい。
特に、あの門の番人が口にした『主』、そして奴らの『計画』について、何か手がかりがないか探ってほしい。
お前の探求心と洞察力は、あるいはこの危機を乗り越える鍵となるかもしれん」

「僕が…ですか?」

フィンは驚いて聞き返した。

長老から直接、重要な任務を託されるなど、考えもしなかったことだ。

「うむ。
お前には、他の者にはない視点がある。
リーナ、お前もフィンを助けてやってくれ。
お前の知識も必要になるだろう」

「はい、長老」

リーナは力強く頷いた。

フィンは、胸に込み上げてくる熱いものを感じていた。

認められた喜び、託された責任の重さ、そして、故郷のために役立てるかもしれないという希望。

彼の心の中で、エルフであることへの誇りが、少しずつ芽生え始めているのを感じていた。

その日から、集落の雰囲気は変わった。

危機感は依然として高かったが、フィンとリーナがもたらした情報によって、具体的な対抗策が見え始め、人々の間には希望の光も灯っていた。

エルフたちは、一丸となって銀葉草の収集に励んだ。

森のあちこちに自生する銀葉草は、夜になると美しい銀色の光を放ち、集落全体が幻想的な輝きに包まれた。

集められた銀葉草は、薬師や工匠たちによって加工され始めた。

矢じりに塗り込んだり、粉末にして守りの護符に混ぜ込んだり、細かく編み込んで結界の一部を補強したりと、様々な活用法が試された。

フィンとリーナは、再び書庫に籠り、古文書の解読を進めた。

エルロンド長老から託された、『主』と『計画』に関する手がかりを探す。

「この記述…『古の闇の王、再び目覚める時、星霜の封印は破られん』…闇の王…これが『主』のことだろうか?」

フィンがある巻物の一節を指差す。

「可能性はあるわね。
でも、あまりにも漠然としているわ。
その『闇の王』が誰なのか、封印とは何なのか…」

リーナは慎重に言葉を選ぶ。

二人は、膨大な古文書の中から、断片的な情報を繋ぎ合わせようと試みた。

それは、まるで複雑なパズルのピースを探すような、根気のいる作業だった。

共に困難な作業に取り組む中で、フィンとリーナの間の絆は、以前にも増して強くなっていた。

互いの存在が、心の支えとなっていることを、二人は理解していた。

調査と準備が進む一方で、魔族の脅威が完全に去ったわけではなかった。

月の泉の監視を強化したにも関わらず、森の別の場所で、小規模ながら魔族の斥候が出没する事例が報告された。

「門は月の泉だけではないのか…?」

「あるいは、すでに入り込んでいる魔族が、森の中に潜んでいるのか…」

新たな不安要素が、集落に影を落とす。

魔族の『計画』は、エルフたちの想像以上に広範囲に、そして巧妙に進められているのかもしれない。

フィンは、書庫の窓から、銀葉草の光に照らされた集落を眺めながら、決意を新たにしていた。

(『主』の正体、そして奴らの本当の目的を突き止めなければ、この戦いは終わらない…そのためには、もっと深く、もっと危険な領域に踏み込む必要があるかもしれない)

古文書に残されたヒントは少ない。

ならば、直接情報を得るしかないのではないか。

それは、さらなる危険を伴う行動を意味していた。

しかし、今のフィンには、以前のようなためらいはなかった。

故郷を守るため、仲間を守るため、そして、エルフとしての誇りを取り戻すために。

変わり者の少年は、今や、森の希望を背負う者として、次なる試練へと立ち向かおうとしていた。

翠玉の森の未来は、依然として不透明だが、フィンと仲間たちの決意は、闇を照らす銀葉草の光のように、確かな輝きを放ち始めていた。
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