【完結】グランヴェルの薔薇

シマセイ

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第二十一話:王都の影

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静かな夜の空の下、私たちは王都へと続く道を急いだ。
レオンの傷はまだ完治とは言えないが、彼の決意は固く、馬上で私を力強く支えてくれる。セラの夜の森での斥候は目覚ましく、危険な獣や人目を避けながら、最短距離で王都を目指すことができた。

道中、イザベラからの伝書鳩が何度か届いた。彼女の情報網は侮れず、先代公爵の動きや、王宮内の噂などを逐一知らせてくれる。ロシュバロン子爵は、予定通り先代公爵の偽証に協力する手はずとなっていること、そして、謁見の日の王宮の警備体制なども、詳細に伝えられてきた。

王都に近づくにつれて、街の喧騒が遠くから聞こえ始めた。煌びやかな灯りが夜空を照らし、眠らない街の活気が感じられる。しかし、今の私たちにとって、その光は希望というよりも、むしろ敵の牙城を照らす灯火のように思えた。

私たちは、王都の城壁の手前で馬を降り、人目を避けて裏道を進んだ。セラが事前に調べてくれた、抜け道を通って、私たちはひっそりと王都内へと潜入することに成功した。

まずは、身を隠す場所を確保する必要があった。セラが案内してくれたのは、王都の片隅にある、古びた元宿屋だった。今は誰も使っておらず、隠れ家としては最適だった。

宿屋の一室に集まり、私たちは改めて作戦を練り直した。

「謁見の場に、どうやって偽の証拠を提出させないようにするかが、鍵ね」

私の言葉に、イザベラからの手紙を読み返していたセラが答えた。

「先代公爵は、謁見の場でグランヴェル伯爵の反逆を示す『密書』を提出するらしい。そして、それを裏付けるための『証人』として、ロシュバロン子爵が証言する手はずだ」

「その密書と証拠さえ潰せれば……」

レオンが低い声で呟いた。

「だが、どうやって?謁見の場は厳重な警備が敷かれているだろう」

そこで、イザベラから届いた情報が役に立った。彼女は、王宮の古文書庫に詳しい人物と密かに連絡を取り、ある情報を手に入れていた。

「王宮の古文書庫には、歴代の貴族たちの記録が保管されている。先代公爵の過去の悪行を暴くような記録が、眠っている可能性があるわ」

セラがそう言うと、私の心に一つの考えが浮かんだ。

「なるほど……。先代公爵の過去の不正を暴き、彼の信用を失墜させれば、彼の証言の信憑性も揺らぐはず。それに、もし決定的な証拠が見つかれば、反逆罪を捏造しているのは彼の方だと、王に訴えることができるかもしれない」

「だが、古文書庫への侵入は容易ではないだろう」

レオンが懸念を示す。

「ええ。そこで、セラの力が必要になるわ」

私はセラに向き直った。

「あなたは、森で培った隠密行動の技術で、王宮の警備を掻い潜り、古文書庫へ侵入してほしいの。そして、先代公爵に関する記録を探し出して」

セラは、少しも迷うことなく頷いた。

「承知した。森で鍛えたこの身で、必ずや探し出してくる」

計画は決まった。セラは今夜、単独で王宮へ潜入する。私たちはこの宿屋で待機し、彼女からの連絡を待つ。

夜になり、セラは黒い装束に身を包み、静かに宿屋を後にした。
残された私とレオンは、部屋の中で、不安と期待が入り混じった時間を過ごした。

時折、王宮の方から聞こえてくる衛兵の巡回する足音や、遠くの街の喧騒が、私たちの緊張感を高める。
レオンは、怪我を押して剣の手入れを念入りに行い、私は、明日、王の前で話すであろう言葉を、何度も頭の中で繰り返していた。

どれくらいの時間が経っただろうか。
静まり返った部屋に、微かな物音が聞こえた。
警戒しながら扉を開けると、そこに立っていたのは、埃まみれの姿をしたセラだった。その手には、幾つかの古い羊皮紙の巻物が握られている。

「見つけた……!」

彼女の瞳は、興奮と安堵の色に輝いていた。

私たちはすぐに、セラが持ち帰った巻物を広げ、内容を調べ始めた。古文書は読み解くのに苦労したが、根気強く読み進めていくうちに、私たちは驚くべき事実を発見した。

それは、数十年前、先代公爵がまだ若かりし頃、王国の重要な鉱山を巡る不正な取引に関与し、莫大な富を得ていたという記録だった。その不正を告発しようとした者は、皆、不審な死を遂げているという記述もあった。

「これだ……!」

私は、震える声で言った。

「この記録があれば、先代公爵の信用は地に落ちる。反逆罪を訴える前に、彼の過去の悪行を暴くことができる!」

残された時間は、あとわずか。
私たちは、明日、王宮で開かれる謁見に向けて、最後の準備を始めるのだった。
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