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第6話「黒い石ころと硬いお人形」
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「この、大バカ……!
心配させないでよ……!」
リナリアは、しゃくり上げながら、アレンの胸をぽかぽかと叩き続けた。
叩かれているアレンの方は、何が何だか分からず、ただ目をぱちくりさせている。
「い、痛いよリナリア。
それに、僕、ものすごくお腹が空いてるんだけど……。
一体どうしたのさ?」
「どうしたのさ、じゃないわよ!」
リナリアはひとしきり感情を爆発させた後、はぁ、と大きく息をついて涙を拭い、無理やり冷静さを取り戻した。
そして、アレンの両肩をもう一度、今度は優しく掴んで、真剣な瞳で彼を見つめた。
「いい、アレン、よく聞いて。
……ごめんなさい。
私が無茶をさせたせいで、あなたは死ぬ一歩手前だったの」
「え?
僕が?」
アレンは、まだ状況が飲み込めていない顔だ。
「ええ。
スキルで魔力を全部使っちゃうのが、あんなに危険なことだったなんて……。
ごめんなさい、私が悪かったの。
もう二度と、あんなことはさせないから……。
私、本当に怖かったんだから……」
リナリアの声は、後悔と安堵で震えていた。
そのただならぬ様子に、さすがのアレンも、事の重大さを少しだけ感じ取ったらしい。
「死んじゃうのは……嫌だなあ。
だって、死んじゃったら、リナリアのクッキーも、食堂のシチューも、もう食べられなくなっちゃうもんね」
その、あまりにもアレンらしい返答に、リナリアは思わず力が抜けて、ふっと笑ってしまった。
「……ええ、そうよ。
だから、もう無茶はしないって、約束してちょうだい」
「うん、分かった」
アレンは、素直にこくりと頷いた。
◇
一応の和解を果たした二人の目の前には、例の物が一つ、静かに転がっている。
アレンを死の淵に追いやった、元凶。
黒曜石のような光沢を放つ、奇妙な種だ。
「これ、なんだっけ?
僕が出したんだっけ?
なんだか、ただの石ころみたいだね」
アレンは、まるで覚えていないかのように、呑気なことを言う。
「ただの石ころなわけないでしょ……」
リナリアは、まだ警戒心を解かずに、おそるおそるその黒い種を拾い上げた。
「……っ!
重い……!」
見た目の大きさからは想像もつかないほどの重量が、ずしりと腕にのしかかる。
そして、その感触。
ひんやりとしていて、表面はどこまでも滑らかでありながら、ダイヤモンドのように硬い。
リナリアが指で弾いてみると、キィン、と金属同士がぶつかったかのような、澄んだ音がした。
(間違いない……。
これはただの種じゃない。
魔力で生成された、一種のアーティファクト……魔法の産物よ)
リナリアはゴクリと唾を飲んだ。
こんな危険物をどう処理すればいいのか。
捨てるわけにもいかないし、かといって、このまま持ち歩くのも危険すぎる。
すると、アレンが名案とでもいうように、手をぽんと叩いた。
「そうだ!
僕のポケットに入れておけばいいんじゃない?」
「はぁ!?
こんな物騒なものをポケットにですって!?」
リナリアは思わず素っ頓狂な声を上げた。
あまりにも無防備な提案に、頭が痛くなってくる。
「だって、僕が出したものだし。
それに、他に持っていく場所もないでしょ?」
「それは……そうだけど……」
アレンの言うことにも一理ある。
下手にどこかに隠すよりも、生成した本人であるアレンが持っている方が、まだ安全かもしれない。
「……しょうがないわね。
じゃあ、絶対に失くさないでよ!
それと、誰にも見せたり、これが何かなんて話しちゃ絶対にだめだからね!
いいわね!?」
リナリナは、何度も、何度も強く念を押すと、その黒い石のような種を、アレンの制服のズボンのポケットにねじ込んだ。
ポケットが、重みで少しだけ下に引っ張られる。
アレンは、そんなことなど気にもせず、「これで安心だね!」と笑っていた。
◇
「おばちゃーん!
スペシャルランチ、大盛りで!」
「はいよ、アレン坊!
今日は一段と元気だね!」
結局、二人はすぐに学生食堂へと向かっていた。
アレンは、魔力が回復した反動か、いつも以上に食欲旺盛で、山盛りのランチプレートをあっという間に平らげていく。
その時だった。
窓の外の中庭から、ひときわ大きな歓声と、ガキンッ!という激しい金属音が聞こえてきた。
「なんだろう?」
アレンとリナリアが窓から外を覗くと、そこでは剣術科の上級生たちが、実戦形式の訓練を行っていた。
相手は、訓練用のゴーレム。
魔力で自律駆動する、身の丈三メートルほどもある石人形だ。
その集団の中には、ライバルであるゼノンの姿もあった。
「はあっ!」
ゼノンは、自らの魔力を注ぎ込んで炎をまとわせた剣を、ゴーレムの腕に力いっぱい叩きつける。
しかし、甲高い金属音と共に火花が散っただけで、ゴーレムの硬い装甲には、白い線のような浅い傷がついただけだった。
「ちっ……!
相変わらず、無駄に硬いな、こいつは!」
ゼノンは、忌々しげに舌打ちをする。
周りの上級生たちも、「さすがは騎士団訓練用のゴーレムだ」「あれを一体で倒せたら、卒業後は騎士団入りも夢じゃないぞ」などと話している。
学院の生徒にとって、あのゴーレムを打ち負かすことは、一つの大きな目標なのだった。
その光景を遠巻きに眺めながら、リナリアは改めて、魔法や剣術の厳しさを感じていた。
その隣で、アレンは。
ゼノンの一撃が、いとも簡単にゴーレムに弾かれたのを見て、ふと、自分のズボンのポケットに手を入れた。
そして、その中にある、ひんやりと重い、黒い石の感触を確かめながら、ぽつりと、何気なくこう呟いた。
「あのお人形さん、僕が持ってるこの石ころより、なんだか柔らかそうだなぁ」
「……え?」
リナリアは、アレンのその呟きを聞き逃さなかった。
彼女が驚いてアレンの顔を見ると、彼は全く悪気のない、純粋な顔で首を傾げている。
「だって、この石を握ってると、なんだかすごく落ち着くんだ。
絶対に壊れないっていうのが、持ってるだけで分かる感じ。
ぎゅってしても、びくともしないよ」
アレンはそう言うと、まるでただの遊び道具のように、ポケットの中の黒い種を無邪気に握りしめた。
リナリアは、その言葉の意味を理解し、背筋にぞっと冷たいものが走るのを感じた。
(学院最強クラスのゼノン様が、全力で斬りつけても傷一つつけられない、あのゴーレムよりも……。
アレンが生み出した、この黒い石ころの方が、硬い……?)
信じがたい事実。
常識はずれの現実。
リナリアは改めて、友人が持つスキルの、とてつもない可能性と、そしてそれと同じくらいのとてつもない危険性を、心の底から再認識させられた。
この力は、本当に、使い方を一つ間違えれば、世界を救うことも、滅ぼすこともできてしまうのかもしれない。
(私が……。
私がこの子の隣で、この力の行く末を、ちゃんと見届けてあげなくちゃ……)
リナリアが固く決意を固めていると。
「ねえ、リナリア、早くしないと!
僕、デザートのプリンも食べたいんだけど、売り切れちゃうよ!」
アレンは、そんなリナリアの深刻な心境など全く知る由もなく、彼女の手をぐいぐいと引っ張った。
シリアスな決意と、呑気な食欲。
あまりにも対照的な二人の、奇妙な学院生活は、始まったばかりだった。
心配させないでよ……!」
リナリアは、しゃくり上げながら、アレンの胸をぽかぽかと叩き続けた。
叩かれているアレンの方は、何が何だか分からず、ただ目をぱちくりさせている。
「い、痛いよリナリア。
それに、僕、ものすごくお腹が空いてるんだけど……。
一体どうしたのさ?」
「どうしたのさ、じゃないわよ!」
リナリアはひとしきり感情を爆発させた後、はぁ、と大きく息をついて涙を拭い、無理やり冷静さを取り戻した。
そして、アレンの両肩をもう一度、今度は優しく掴んで、真剣な瞳で彼を見つめた。
「いい、アレン、よく聞いて。
……ごめんなさい。
私が無茶をさせたせいで、あなたは死ぬ一歩手前だったの」
「え?
僕が?」
アレンは、まだ状況が飲み込めていない顔だ。
「ええ。
スキルで魔力を全部使っちゃうのが、あんなに危険なことだったなんて……。
ごめんなさい、私が悪かったの。
もう二度と、あんなことはさせないから……。
私、本当に怖かったんだから……」
リナリアの声は、後悔と安堵で震えていた。
そのただならぬ様子に、さすがのアレンも、事の重大さを少しだけ感じ取ったらしい。
「死んじゃうのは……嫌だなあ。
だって、死んじゃったら、リナリアのクッキーも、食堂のシチューも、もう食べられなくなっちゃうもんね」
その、あまりにもアレンらしい返答に、リナリアは思わず力が抜けて、ふっと笑ってしまった。
「……ええ、そうよ。
だから、もう無茶はしないって、約束してちょうだい」
「うん、分かった」
アレンは、素直にこくりと頷いた。
◇
一応の和解を果たした二人の目の前には、例の物が一つ、静かに転がっている。
アレンを死の淵に追いやった、元凶。
黒曜石のような光沢を放つ、奇妙な種だ。
「これ、なんだっけ?
僕が出したんだっけ?
なんだか、ただの石ころみたいだね」
アレンは、まるで覚えていないかのように、呑気なことを言う。
「ただの石ころなわけないでしょ……」
リナリアは、まだ警戒心を解かずに、おそるおそるその黒い種を拾い上げた。
「……っ!
重い……!」
見た目の大きさからは想像もつかないほどの重量が、ずしりと腕にのしかかる。
そして、その感触。
ひんやりとしていて、表面はどこまでも滑らかでありながら、ダイヤモンドのように硬い。
リナリアが指で弾いてみると、キィン、と金属同士がぶつかったかのような、澄んだ音がした。
(間違いない……。
これはただの種じゃない。
魔力で生成された、一種のアーティファクト……魔法の産物よ)
リナリアはゴクリと唾を飲んだ。
こんな危険物をどう処理すればいいのか。
捨てるわけにもいかないし、かといって、このまま持ち歩くのも危険すぎる。
すると、アレンが名案とでもいうように、手をぽんと叩いた。
「そうだ!
僕のポケットに入れておけばいいんじゃない?」
「はぁ!?
こんな物騒なものをポケットにですって!?」
リナリアは思わず素っ頓狂な声を上げた。
あまりにも無防備な提案に、頭が痛くなってくる。
「だって、僕が出したものだし。
それに、他に持っていく場所もないでしょ?」
「それは……そうだけど……」
アレンの言うことにも一理ある。
下手にどこかに隠すよりも、生成した本人であるアレンが持っている方が、まだ安全かもしれない。
「……しょうがないわね。
じゃあ、絶対に失くさないでよ!
それと、誰にも見せたり、これが何かなんて話しちゃ絶対にだめだからね!
いいわね!?」
リナリナは、何度も、何度も強く念を押すと、その黒い石のような種を、アレンの制服のズボンのポケットにねじ込んだ。
ポケットが、重みで少しだけ下に引っ張られる。
アレンは、そんなことなど気にもせず、「これで安心だね!」と笑っていた。
◇
「おばちゃーん!
スペシャルランチ、大盛りで!」
「はいよ、アレン坊!
今日は一段と元気だね!」
結局、二人はすぐに学生食堂へと向かっていた。
アレンは、魔力が回復した反動か、いつも以上に食欲旺盛で、山盛りのランチプレートをあっという間に平らげていく。
その時だった。
窓の外の中庭から、ひときわ大きな歓声と、ガキンッ!という激しい金属音が聞こえてきた。
「なんだろう?」
アレンとリナリアが窓から外を覗くと、そこでは剣術科の上級生たちが、実戦形式の訓練を行っていた。
相手は、訓練用のゴーレム。
魔力で自律駆動する、身の丈三メートルほどもある石人形だ。
その集団の中には、ライバルであるゼノンの姿もあった。
「はあっ!」
ゼノンは、自らの魔力を注ぎ込んで炎をまとわせた剣を、ゴーレムの腕に力いっぱい叩きつける。
しかし、甲高い金属音と共に火花が散っただけで、ゴーレムの硬い装甲には、白い線のような浅い傷がついただけだった。
「ちっ……!
相変わらず、無駄に硬いな、こいつは!」
ゼノンは、忌々しげに舌打ちをする。
周りの上級生たちも、「さすがは騎士団訓練用のゴーレムだ」「あれを一体で倒せたら、卒業後は騎士団入りも夢じゃないぞ」などと話している。
学院の生徒にとって、あのゴーレムを打ち負かすことは、一つの大きな目標なのだった。
その光景を遠巻きに眺めながら、リナリアは改めて、魔法や剣術の厳しさを感じていた。
その隣で、アレンは。
ゼノンの一撃が、いとも簡単にゴーレムに弾かれたのを見て、ふと、自分のズボンのポケットに手を入れた。
そして、その中にある、ひんやりと重い、黒い石の感触を確かめながら、ぽつりと、何気なくこう呟いた。
「あのお人形さん、僕が持ってるこの石ころより、なんだか柔らかそうだなぁ」
「……え?」
リナリアは、アレンのその呟きを聞き逃さなかった。
彼女が驚いてアレンの顔を見ると、彼は全く悪気のない、純粋な顔で首を傾げている。
「だって、この石を握ってると、なんだかすごく落ち着くんだ。
絶対に壊れないっていうのが、持ってるだけで分かる感じ。
ぎゅってしても、びくともしないよ」
アレンはそう言うと、まるでただの遊び道具のように、ポケットの中の黒い種を無邪気に握りしめた。
リナリアは、その言葉の意味を理解し、背筋にぞっと冷たいものが走るのを感じた。
(学院最強クラスのゼノン様が、全力で斬りつけても傷一つつけられない、あのゴーレムよりも……。
アレンが生み出した、この黒い石ころの方が、硬い……?)
信じがたい事実。
常識はずれの現実。
リナリアは改めて、友人が持つスキルの、とてつもない可能性と、そしてそれと同じくらいのとてつもない危険性を、心の底から再認識させられた。
この力は、本当に、使い方を一つ間違えれば、世界を救うことも、滅ぼすこともできてしまうのかもしれない。
(私が……。
私がこの子の隣で、この力の行く末を、ちゃんと見届けてあげなくちゃ……)
リナリアが固く決意を固めていると。
「ねえ、リナリア、早くしないと!
僕、デザートのプリンも食べたいんだけど、売り切れちゃうよ!」
アレンは、そんなリナリアの深刻な心境など全く知る由もなく、彼女の手をぐいぐいと引っ張った。
シリアスな決意と、呑気な食欲。
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