【完結】腹ペコ貴族のスキルは「種」でした

シマセイ

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第28話『夜の裁定と新たな使命』

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「そこまでだ!」

学院長の厳粛な声が、混沌とした夜の庭に響き渡った。
松明の光に照らし出されたのは、荒れ果てた畑、神々しく光る聖なる花、そして、怒りと憎悪の表情で対峙する二人の少年。
その異常な光景に、駆けつけた警備員たちも息を呑んだ。

学院長は、黒焦げになったトマトの残骸と、ゼノンが侵入に使ったであろう地下水路の穴を一瞥し、全てを瞬時に理解した。

「ゼノン様!
これは、その、アレンが先に襲いかかってきて……!」

ゼノンの取り巻きの一人が、慌てて虚偽の証言をしようとするが、学院長はそれを冷たい視線で黙らせる。

「言い訳は後で聞こう。
二人とも、身柄を確保しなさい」

学院長の命令一下、警備員たちがアレンとゼノンを、それぞれ取り押さえた。
リナリアとゴードンさんも、重要参考人として、その場に残るよう命じられた。



場所は、再び学院長室へと移された。
深夜にもかかわらず、緊急の事情聴取が、重々しい雰囲気の中で始まった。

「では、ヴァイス君。
説明してもらおうか。
君が、なぜ最高機密区画であるこの場所に、しかも破壊行為をもって侵入したのかを」

学院長の問いに、ゼノンはあくまで白を切るつもりだった。

「ですから、私はアレンの不審な行動を調査していただけです。
そうしたら、いきなり彼の操る植物に襲われた。
畑を燃やしたのも、抵抗してきた植物を排除したまでのこと。
正当防衛です」

その、あまりにもふてぶてしい態度に、リナリアが「そんな!」と声を上げかけた時、ゴードンさんが静かに一歩前に出た。

「学院長。
これをご覧くだされ」

ゴードンさんが指し示したのは、警備員が現場から持ってきた、ゼノンの靴だった。
その靴底には、秘密の庭の土だけでなく、旧中央教会の裏庭にしか生えていない、特殊な苔がべったりと付着していた。

「ゼノン様が、我々を尾行していたことは、これで明らか。
そして、この地下水路の穴。
正面の門が施錠されていた以上、ゼノン様が、この庭に正当な理由なく、破壊の意思をもって侵入した動かぬ証拠でございます」

ゴードンさんの冷静な証言が、ゼノンの嘘を打ち砕く。
物的証拠を突きつけられ、ゼノンはぐっと言葉に詰まった。

学院長は、その姿に深いため息をつくと、最終的な裁定を、冷たく言い渡した。

「ゼノン・フォン・ヴァイス君。
君の行為は、もはや単なる生徒間のいさかいではない。
学院の最高機密区画への不法侵入、及び器物損壊。
度重なる虚偽の証言と、反省の色なきその態度。
……もはや、君を生徒として、この学び舎に置いておくことはできん」

学院長は、厳かに告げた。

「よって、君を、本日付で、王立アストライア学院からの退学処分とする」

「なっ……!」

ゼノンは、信じられないといった顔で絶叫した。

「ぼ、僕を、この僕を退学だと!?
父が黙ってはいないぞ!
ヴァイス公爵家の名誉を傷つける気か!」

「公爵家には、私から全ての事実を、ありのままに報告する。
それでも文句があるというのであれば、喜んで受けて立とう。
……連れていきなさい」

警備員に両脇を固められ、ゼノンは引きずられるようにして部屋から連れ出されていく。
彼は、最後まで、アレンのことを、全てを焼き尽くさんばかりの憎悪の目で睨みつけていた。



嵐が、去った。
残された学院長室で、学院長は、今度はアレンに向き直った。

「さて、リンク君。
君とて、許されるわけではない。
君もまた、怒りに任せて、旧実験農場そのものを凶器に変え、過剰な力を行使した。
これもまた、看過できん問題だ」

アレンは、リナリアに背中を押され、素直にこくりと頭を下げた。

「……はい。
ごめんなさい」

「君のその力は、使い方を一つ間違えれば、容易に人を傷つける。
その強大すぎる力を、君は、自分自身で制御できるかね?」

学院長からの、核心を突く問い。
アレンは、隣で心配そうに見守るリナリアの顔を見て、そして、少しだけ考えた後、正直に答えた。

「……分かりません。
今日の僕は、すごく頭に血が上って、ゼノンをやっつけることしか考えられませんでした」

そして、彼は続けた。

「でも、もう、怒りに任せて誰かをやっつけたいとは思いません。
それより……僕の作った野菜を、みんなに食べてもらって、『美味しい』とか、『元気が出た』って言ってもらえる方が、ずっと、ずっと嬉しいです」

その、あまりにも純粋な答え。
それは、彼がこの一連の事件の中で見つけ出した、確かな真実だった。
学院長は、その答えを聞くと、その厳しかった表情をふっと緩め、静かに微笑んだ。

そして、アレンへの処分を告げる。

「よろしい。
では、アレン・リンク。
君には、罰として、その力の全てを、人々のために使うことを命じる」

「え……?」

「この秘密の庭で、病や怪我に苦しむ人々を癒すための『奇跡の作物』を、作り続けるのだ。
それが、君の力の正しい使い方であり、君への罰であり、そして、君がこの学院にいる、新しい理由となるだろう」

それは、処分という名のアレンへの最大限の信頼であり、期待だった。
アレンは、「罰」として、大好きな農業を、大手を振って続けられることになったのだ。

一つの大きな事件が終わりを告げ、アレンの力は、学院に公的に認められた。
彼のスキルは、もう「クズスキル」でも、隠すべき「秘密の力」でもない。
人々を救うための、「希望の力」として、今、新たなスタートを切ったのだった。
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