【完結】腹ペコ貴族のスキルは「種」でした

シマセイ

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第64話『支配された村とワクワクの種』

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カラン村の人々に見送られ、アレンたちの「移動式・炊き出しキャラバン」は、次の目的地を目指して、再び街道を進んでいた。

「アレン先輩、すごいです!
僕、村の人たちが、あんなに力強い顔をしてるの、初めて見ました!」

キャラバンに新たに参加したレオが、興奮した様子でアレンに話しかける。
彼をはじめ、元々はアレンを英雄と慕うだけだった有志の仲間たちも、カラン村での経験を通して、この旅が持つ本当の意味を理解し、その顔には、確かな使命感が宿っていた。
彼らは、旅の道中、リナリアから応急処置を、グレイから護身術を学び、ただの学生ではない、頼もしいチームの一員へと成長していた。

アレンは、そんな彼らの様子を嬉しく思いながら、馬車に揺られ、ゴードンさんから託された『旅の書』を、興味深そうに読みふけっていた。

「へー、この地方には、『空飛ぶイチゴ』っていうのがあるんだ!
どんな味がするんだろう。
見つけたら、絶対に食べてみたいなあ」

その、どこまでも変わらない呑気さに、リナリアは、呆れながらも、思わず笑みをこぼすのだった。



数日後。
一行は、次の目的地である『ロハン村』へと、到着した。
目の前に広がる光景に、誰もが言葉を失う。
カラン村と同様、いや、それ以上に、村は『怠惰の麦』に蝕まれ、完全に、その活力を失っていた。

だが、カラン村と、決定的に違う点が一つあった。
村の入り口に、魔族のものと思われる、禍々しい紋章が描かれた、黒い旗が掲げられているのだ。

アレンたちが、炊き出しの準備を始めようとすると、数人の、態度の悪い男たちが、一行の前に立ちはだかった。

「おい、お前ら、何者だ。
見かけない顔だな」

「我々は、偉大なる魔王ゾルディアス様の、ありがたい庇護の下にある!
魔王様は、我らに、働かずとも腹を満たすことができる、聖なる恵みを与えてくださったのだ!
余計な世話は、一切無用だ!」

彼らは、この村の村人の中から、魔族に取り込まれ、その支配の代行者となった、『管理人』だった。
魔王軍は、ただ麦をばらまくだけでなく、一部の村人を、甘言と、ささやかな権力で取り込み、村を、内側から、より強固に支配するという、さらに進んだ統治手法を、確立させていたのだ。

管理人たちは、他の村人たちが、アレンたちに近づかないように、威嚇し、監視の目を光らせている。
これでは、カラン村の時のように、ポトフの香りで、人々を引き寄せることは難しい。

「……ちっ。
思った以上に、厄介だな」

グレイが、静かに呟いた。
状況は、完全に膠着していた。



「そっかぁ。
美味しいだけじゃ、だめなんだ」

膠着した状況の中、アレンが、ぽつりと呟いた。

「美味しいだけじゃ、恐怖には勝てないんだね。
だったら……」

アレンは、にっと、いたずらっ子のように笑った。

「もっと、もっと、ワクワクしないと!」

彼は、スキルを発動させた。
その手に現れたのは、これまでの野菜や果物とは、全く違う、二種類の、不思議な種だった。

一つは、まるで、小さな花火のように、カラフルな色をした種。
もう一つは、綺麗なガラス玉のように、透き通った、まん丸の種。

アレンは、村の中央広場の、一番目立つ場所に、その二つの種を、そっと植えた。
そして、たっぷりと、魔力を注ぎ込む。

すると、まず、カラフルな種から、あっという間に、奇妙な木が生えてきた。
そして、その枝の先についた実が、ポップコーンのように、ポンッ!
ポンッ!と、次々と弾け始めたのだ。
弾けた実からは、キャラメルのような、甘くて、香ばしい、最高の香りが、あたりに立ち込める。
『はじけるお菓子の木』だ。

次に、ガラス玉の種からは、大きな、美しい花の蕾が、にょっきりと顔を出した。
そして、その蕾が、ゆっくりと、ぱかり、と開くと、その花の中心から、まるで、泉のように、虹色に輝く、綺麗なジュースが、こんこんと、湧き出てきたのだ。
『ジュースの泉』の誕生だった。



目の前で繰り広げられる、あまりにもファンタジックで、楽しげな光景。
そして、あたりに満ちる、抗いがたいほど、甘く、美味しそうな香り。

その光景に、最初に、心を奪われたのは、村の子供たちだった。
これまで、大人たちと同じように、虚ろな目をしていた子供たちの瞳に、好奇心の、キラキラとした輝きが、宿った。

「わあ……!」

「なんだ、あれ……!
お菓子が、なってる!」

アレンは、そんな子供たちに向かって、満面の笑みで、手招きをした。

「おいでよ!
どっちが美味しいか、みんなで、食べ比べてみて!」

その、悪魔のような、いや、天使のような誘惑に、子供たちは、もう、逆らえなかった。
「わーい!」という歓声と共に、彼らは、管理人たちの、怒りの制止を振り切って、一目散に、アレンの元へと、駆け出してきたのだ。

子供たちは、夢中で、はじけるお菓子を頬張り、泉のジュースを飲む。
その顔には、この村が、ずっと忘れていた、「笑顔」という名の花が、満開に咲き誇っていた。

その、あまりにも楽しげな光景と、幸せそうな子供たちの笑顔。
それを見て、これまで、恐怖と、無気力に支配されていた、親たちの、大人たちの心も、少しずつ、しかし、確実に、動き始めていた。

「管理人」の男たちも、その光景と、あまりに美味しそうな匂いに、どうしていいか分からず、ただ、立ち尽くすしかない。

魔王の、恐怖による「怠惰」の支配。
それに対し、アレンは、「楽しさ」と「ワクワク」という、子供たちの、純粋で、無垢な心で、その分厚い壁に、見事な風穴を、開けてみせた。
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