【完結】腹ペコ貴族のスキルは「種」でした

シマセイ

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第80話『天空の方舟と最後の旅立ち』

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「僕が、行きます。
魔大陸へ」

アレンの、その静かだが、揺るぎない決意の言葉に、王城の会議室は、一瞬、静まり返った。

「馬鹿を言うな!
あまりにも、危険すぎる!」

国王陛下が、即座に、猛反対する。
学院長も、グレイも、彼のその、あまりにも無謀な提案に、賛成することはできなかった。

だが、アレンの決意を、本当に理解していたのは、ずっと、彼のそばにいた、仲間たちだった。

「……私も、行きます」

リナリアが、アレンの隣に立ち、その手を、強く握った。

「アレンが行くところに、私がいないなんて、絶対に、ありえません。
最後まで、あなたのそばで、あなたを支えます」

「当然、私もです」

ルミナもまた、その翡翠の瞳に、強い意志を宿して、一歩、前に出た。

「魔大陸の、禍々しい瘴気や、魔族の特殊な魔法については、私の知識が、必ず、役に立つはずです。
仲間として、この世界の未来を、アレンにだけ、背負わせるわけにはいきません」

そして、グレイが、アレンの肩に、その大きな手を、ぽん、と置いた。

「決まり、ですな、陛下。
この老いぼれの命、我が主君の、そして、この大陸の未来の、盾となるならば、これ以上の本望はございません。
儂も、お供つかまつる」

三人の、揺るぎない決意。
そして、アレンの、全てを救おうとする、その純粋な瞳。
国王陛下と学院長は、彼らを止めることが、もはや、誰にもできないことを、悟った。



敵の本拠地、魔大陸へ乗り込むための、最後の準備が、大陸同盟の、その総力を挙げて、行われた。

ドワーフの国からは、どんな攻撃にも耐えうる、しかし、羽のように軽い、伝説の金属『ミスリル銀』で鍛えられた、四人分の、特注の防具が、急遽、届けられた。
エルフの国からは、強力な魔力を秘め、瘴気を防ぐ効果のある、世界樹の若葉で編まれた、美しい緑色のマントが、四人に贈られた。
リナリアとゴードンさんは、これまでの研究の集大成として、『聖女の涙』の貴重な雫を調合した、究極の回復薬や、万能解毒薬を、夜を徹して、作り上げた。

そして、アレン自身も、この、最後の旅のために、自らの力の、その全てを注ぎ込み、特別な「種のセット」を、生成していた。
予備の『絶対防御の黒い石の種』。
いかなる呪いも浄化する『聖女の涙の種』。
そして、あの、禍々しい『支配の呪いの種』。
さらには、一口食べれば、一時的に、身体能力が、爆発的に向上するという、究極の戦闘補助食、『闘神の果実』の種。

準備は、万端だった。
だが、一つだけ、解決不可能な問題が、残されていた。
どうやって、魔族の鉄壁の防衛網を突破し、魔大陸へと、たどり着くか。
船では、暗黒海流と、魔族の艦隊に阻まれ、到底、不可能だった。

絶望的な状況の中、アレンが、ふと、ゴードンさんの『旅の書』の一節を思い出して、言った。

「ねえ、船がだめならさ、空を、飛んでいけばいいんじゃないかな?」

彼は、倭の国で聞いた、あの『空飛ぶイチゴ』の、不思議な伝承。
そして、天を突き、雲を貫くほどに、巨大な、あの『世界樹』の、圧倒的な生命力。
その、二つのイメージを、頭の中で、融合させた。



アストライア王国の、最大の港。
アレンは、その埠頭の、一番、端に立つと、海に向かって、スキルを発動させた。
イメージするのは、「大切な仲間たちを乗せて、荒れ狂う海を越え、どんな嵐の中でも、安全に、空を飛ぶことができる、巨大な、生きている船」。

それは、アレンの、これまでの、どんな奇跡をも、遥かに超える、最大規模の、そして、最後の、力の行使だった。

彼の魔力に応え、港の海面が、大きく、盛り上がったかと思うと、そこから、巨大な、巨大な、一つの種が、芽を出す。
そして、その種は、まるで、神話の光景のように、一瞬にして、巨大な植物へと、その姿を変えていった。

それは、海の王者である、巨大なクジラのような、流線型のフォルムを持ち、その両脇には、世界樹の葉で作られたかのような、巨大な、翼を持つ、『天空の方舟(アーク・プラント)』だった。

アレン、リナリア、ルミナ、そして、グレイ。
四人の勇者は、その、まだ、朝露に濡れた、生きている方舟へと、乗り込んだ。

港には、国王陛下、学院長、ゴードンさん、レオたち、そして、アレンに救われた、たくさんの人々が、見送りに、集まっていた。

「アレン坊!
必ず、必ずや、生きて、帰ってくるんじゃぞ……!」

ゴードンさんが、涙ながらに、叫ぶ。

「アレン先輩!
畑のことは、僕たちが、命に代えても、守り抜きます!
だから、安心して、行ってきてください!」

レオが、仲間たちの代表として、力強く、誓う。

アレンは、そんな、大切な仲間たちの声援を、その胸に、深く、深く、刻み込むと、方舟の先頭に立ち、暗雲が渦巻く、東の空を、まっすぐに見据えた。

彼の、強い意志に応え、『天空の方舟』は、その巨大な葉の翼を、ゆっくりと、しかし、力強く、広げた。
そして、ふわり、と、その巨体を、大空へと、舞い上がらせる。

目指すは、全ての元凶である、魔王ゾルディアスが待つ、魔大陸。
大陸中の、全ての人々の、希望と、祈りを、その翼に乗せて。
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