落ちこぼれギフト【ダメージ反射】は諦めない ~1割返しから始まる異世界冒険譚~

シマセイ

文字の大きさ
9 / 125

第9話 ナイフと反射の連携

しおりを挟む
父の古いナイフを手にしてから、アルトの訓練は新たな段階に入っていた。
早朝の森。
彼はもう、ただ魔物の攻撃を待つだけではなかった。
手頃な木の枝を仮想敵に見立て、ナイフの基本的な動き――突き、払い、受け流し――を反復練習する。
そして、その動きと【ダメージ反射】をどう連携させるか、試行錯誤を繰り返していた。

「こう…受け流して、相手が体勢を崩したところに、あえて体当たりさせて…反射!」

アルトは汗だくになりながら、一人でブツブツと呟き、動きを確認する。
ナイフで攻撃を防ぎつつ、反射に適した攻撃だけを選んで受ける。
あるいは、ナイフで牽制して相手の動きを誘い、狙ったタイミングでカウンターのように反射を決める。

頭で考えるのは簡単だが、実際に体を動かすとなると思うようにいかない。
ナイフを持つ手に力が入りすぎたり、反射のタイミングが微妙にずれたり。
それでも、練習を重ねるうちに、ぎこちなかった動きは少しずつ滑らかになり、ナイフと体が馴染んでいく感覚があった。

訓練を続ける中で、アルトはギフトについても新たな考察を始めていた。
ナイフという武器を得たことで、以前のように全ての攻撃を体で受け止める必要はなくなった。
どの攻撃を受け、どの攻撃を捌くか。
その選択が可能になったのだ。

「これなら、『質の高い経験』を、前よりも安全に、効率的に積めるかもしれない…」

ただ強い攻撃を受けるだけでなく、相手の攻撃の種類や威力を見極め、自分のギフトが最も効果を発揮するであろう一撃を選んで「受ける」。
それは、より戦略的な戦い方を可能にするだけでなく、ギフトレベルアップへの近道になるかもしれない。

さらに、あの「硬くなる感覚」についても考えた。

「あれは、ただ防御力が上がってるだけじゃない気がするんだよな…」

フォレストウルフ戦で感じた、渾身の反射を放つ直前の、全身に力がみなぎるような感覚。

「もしかしたら、あれは反射の威力を高めるための…エネルギーチャージみたいなものなのかも?だとしたら、受けた衝撃の強さや、集中力の度合いで、反射の威力も変わってくるんじゃ…?」

まだ確証はない。
だが、もしそうなら、ただ攻撃を受けるだけでなく、「どう受けるか」が非常に重要になってくる。

「試してみる価値はあるな」

アルトは、訓練の成果を実戦で試すことにした。
相手は、以前苦戦した棍棒持ちのゴブリンだ。
フォレストウルフほどの強さはないが、今の自分の連携がどこまで通用するか試すには、ちょうどいい相手だろう。
幸い、森の中を少し探索すると、単独でうろついているゴブリンをすぐに見つけることができた。

「キィ!」

ゴブリンはアルトの姿を認めると、威嚇の声を上げ、手に持った棍棒を振りかぶってきた。
以前なら、反射ダメージ覚悟で腕で受け止めていたかもしれない一撃。
しかし、今のアルトは違った。

「そこ!」

アルトは素早く懐に潜り込み、ナイフの腹を使ってゴブリンの棍棒を側面から強く叩いた。
バキン!という音と共に、棍棒が手元から弾き飛ばされる。
武器を失ったゴブリンは一瞬怯むが、すぐに体勢を立て直し、今度は頭からアルトに体当たりを仕掛けてきた。

「狙い通り!」

アルトはゴブリンの突進を、革を巻いた左腕でしっかりと受け止めた。
そして、ぶつかってくる瞬間に意識を集中させる。
「硬くなる感覚」を引き出し、反射のエネルギーを溜めるイメージ。

「――ッ!」

ギフト発動!
ドンッ!という鈍い衝撃音と共に、ゴブリンはまるでゴム毬のように後方へ吹き飛ばされた。

「ギャイン!?」

地面に叩きつけられたゴブリンは、しばらく起き上がれない様子で体を丸めている。
ダメージは大きいようだ。

「やった!」

ナイフによる防御・牽制と、狙ったタイミングでの反射。
その連携が、初めて上手く機能した瞬間だった。
しかし、安堵したのも束の間、ゴブリンは憎悪に満ちた目でアルトを睨みつけ、再び立ち上がってきた。
まだ戦意は失っていない。

「しつこいな…!」

アルトはナイフを構え直し、再びゴブリンと対峙する。
その後も、何度か同じような攻防が繰り返された。
ナイフで捌き、隙を見て反射を決める。
確実にダメージは与えているはずなのに、ゴブリンはなかなか倒れない。
そして、アルト自身も、完璧に立ち回れているわけではなかった。

ナイフで受け流すつもりが、タイミングがずれて腕に衝撃を受けたり、反射に集中しすぎて足元の注意が疎かになったり。
ナイフと反射、二つの異なる動作に同時に意識を向けるのは、思った以上に難しく、体力的にも精神的にも消耗が激しい。

「もっと…もっと自然に、体が動かないと…!」

それでも、アルトは諦めなかった。
何度も繰り返すうちに、少しずつだが、ナイフ捌きと反射のタイミングが合ってくる。
そして、十数回目の反射が決まった時、ついにゴブリンは力尽き、その場に倒れて動かなくなった。

「はぁ…はぁ…倒した…」

アルトはその場にへたり込み、荒い息をついた。
ゴブリン一匹を倒すのに、これほど苦労するとは。
しかし、以前のように一方的に殴られ続け、運良く相手が逃げるのを待つしかなかった頃と比べれば、大きな進歩だ。
自分の意志で、敵を打ち倒すことができたのだ。

「連携は、まだまだだけど…方向性は間違ってないはずだ」

確かな手応えと共に、新たな課題も見えた。
もっとスムーズな連携、咄嗟の判断力、そして基礎体力。
やるべきことは、まだまだ山積みだ。

その数日後、アルトは久しぶりに村の冒険者ギルドを訪れた。
自分の力が、世間一般の冒険者の中でどの程度のものなのか、少し知りたくなったのだ。
そして、何かギフトのレベルアップに繋がるような情報がないか、という期待もあった。

ギルドの中は、昼間から酒を飲む冒険者たちで賑わっていた。
アルトが入っていくと、数人がこちらに気づき、ヒソヒソと囁き合う声が聞こえる。

内容は分からないが、以前のようなあからさまな嘲笑や侮蔑の響きは、少し薄れているような気がした。
誰も積極的に話しかけてはこないが、完全に無視されるわけでもない。
そんな、微妙な距離感がそこにはあった。

アルトは、まず壁に貼られた依頼掲示板を眺めた。
『薬草採取:指定の薬草を10本。報酬銅貨5枚』
『スライム討伐:村の近くに発生したスライムを5匹討伐。報酬銅貨8枚』
簡単な依頼ばかりだが、今の自分なら、あるいはこなせるかもしれない、と思った。
ゴブリンを倒せたのだから、スライムなら…。
いや、油断は禁物だ。

次に、他の冒険者たちの会話に、それとなく耳を傾けてみた。

「聞いたか?最近、森の奥でブルーキャップが大量発生してるらしいぜ。毒胞子が厄介なんだよな」

「フォレストウルフの目撃情報も増えてるって話だ。新人だけじゃ近づかない方がいいぞ」

「おいおい、まさかドラゴンってわけじゃあるまいし」

そんな物騒な話が飛び交っている。
ブルーキャップは毒キノコの魔物で、集団で現れると厄介だと聞く。
ウルフの情報も気になる。
やはり、森の奥は危険が多いようだ。
ギフトに関するような情報は、残念ながら聞こえてこなかった。

アルトは、特に誰と話すでもなく、ギルドを後にした。
まだ、自分がこの場所に馴染めるようになるには、時間がかかりそうだ。
それでも、以前のような完全な疎外感はなかった。
ほんの少しだけ、変化が起きているのかもしれない。

「まずは、ゴブリンやホーンラビットを、安定して倒せるようにならないとな」

アルトは当面の目標を定めた。
ナイフと反射の連携をもっとスムーズにすること。
そして、基礎体力をさらに上げること。

「依頼を受けるのは、それからだ」

いつか、他の冒険者たちのように、もっと難しい依頼に挑戦できるようになりたい。
そのためにも、今は地道な訓練を続けるしかない。
ギフトレベルアップへの道も、焦らず、一歩ずつ進んでいこう。
アルトは、気持ちを新たに、家路についた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~

枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。 同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。 仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。 ───────────── ※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。 ※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。 ※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

処理中です...