落ちこぼれギフト【ダメージ反射】は諦めない ~1割返しから始まる異世界冒険譚~

シマセイ

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第49話 激闘の果て、覚醒の兆し

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洞窟の最深部。揺らめく焚き火の光が、対峙する二つの影を不気味に照らし出す。
ホブゴブリンが振り下ろす、渾身の力を込めた戦斧。
それを迎え撃つ、満身創痍の少年、アルト。
交差する剣と盾。
勝敗を決する、最後の一撃。

ズガァァァァン!!!

想像を絶する衝撃が、アルトの全身を襲った。
左腕のバックラーはミシリと軋み、革鎧の胸当てには、さらに深い亀裂が入る。
ショートソードを持つ右手は痺れ、剣が手から弾き飛ばされそうになるのを、必死にこらえる。
視界が白く染まり、意識がブラックアウトしかける。

(もう……ダメか……)

全身の骨がきしむような感覚。
抵抗する力も、もはや残されていない。
アルトの心に、初めて明確な諦めの念がよぎった。
しかし、その絶望の淵で――何かが弾けた。

それは、心の奥底から湧き上がる、原始的なまでの生存本能だったのかもしれない。
あるいは、自分を信じ、待っていてくれる人々の顔が脳裏をよぎったからか。
「守りたい」――漠然としていたその想いが、この極限状況下で、一つの強烈な意志へと昇華した。

その瞬間、アルトのギフト【ダメージ反射】が、これまでとは全く異なる輝きを放った!
受け止めた衝撃を、ただ相手に返すのではない。
アルトの体そのものから、眩いほどの蒼白い閃光が迸り、嵐のようにホブゴブリンの巨体を包み込んだのだ!

「グ……ギ……!? な、なんだ、これは……!?」

ホブゴブリンの赤い瞳が、驚愕と、理解不能な現象への恐怖に見開かれる。
その巨体が、まるで金縛りにあったかのように、不自然に硬直した。
手足が、意志に反して震え、動かない。
蒼白い閃光は、相手の動きを麻痺させるような、未知の効果を秘めていたのだ!

(……動かない!?)

何が起こったのか、アルト自身にも完全には理解できていなかった。
だが、目の前に訪れた、千載一遇の好機を逃すほど、彼は鈍くはなかった。
麻痺し、完全に無防備になったホブゴブリン。
アルトは、最後の気力と、アドレナリンを振り絞り、落としそうになっていたショートソードを強く、強く握り締めた。

そして、狙いを定める。
敵の、がら空きになった心臓部。
そこに、残された全ての力を込めて、剣を突き出した!

「うおおおおおっ!!」

ズブリ!
生々しい、肉を貫く感触が手に伝わる。
アルトのショートソードは、ホブゴブリンの粗末な革の胸当てを貫通し、分厚い胸筋を越え、その命の源を、確かに捉えた。

「ゴ……フ……ッ……」

ホブゴブリンの口から、断末魔ともつかない、くぐもった呼気が漏れる。
その巨体から、急速に力が抜けていくのが分かった。
ゆっくりと、しかし確実に、その体は前のめりに傾き始め……やがて、大きな地響きのような音を立てて、洞窟の硬い床に完全に倒れ伏した。
もう、二度と動くことはないだろう。

しん……。
広間に、絶対的な静寂が訪れた。
残ったのは、パチパチと爆ぜる焚き火の音と、アルト自身の、肩で息をする激しく乱れた呼吸音だけだった。

「………勝った…………」

アルトは、その場に崩れ落ちるように座り込んだ。
勝ったのだ。
あの絶望的な状況から、あの強大なホブゴブリンに、勝ったのだ。
しかし、勝利の昂揚感よりも先に、全身を襲う激しい疲労感と、耐え難いほどの痛みが、彼の意識を支配していた。

左腕はバックラーごと砕けたかのように感覚がなく、身に着けた革鎧は半壊状態と言っていい。
ショートソードも、最後の突きでホブゴブリンの硬い骨か何かに当たったのか、刃こぼれを起こしているかもしれない。
体力も、精神力も、文字通り、完全に燃え尽きていた。

しばらくの間、アルトは動くことすらできなかった。
ただ、荒い息を繰り返し、自分がまだ生きていることを確かめるだけで精一杯だった。

やがて、少しだけ意識がはっきりしてくると、アルトは最後の力を振り絞って立ち上がり、ホブゴブリンの亡骸へと近づいた。
依頼達成の証拠を確保しなければならない。
アルトは、ホブゴブリンが手にしていた巨大な戦斧と、その大きな耳を一つ、腰のナイフで慎重に切り取った。
他に何か価値のあるものはないかと探したが、身に着けていた粗末な防具以外には、特にめぼしいものは見当たらなかった。

戦利品を採取袋にしまいながら、アルトは先ほどの戦闘中に起こった、ギフトの不可解な現象を思い出していた。
あの蒼白い閃光。
そして、相手を麻痺させるような効果。
あれは一体何だったのだろうか?
自分のギフト【ダメージ反射】には、まだ自分自身も知らない力が秘められている。
その確信が、アルトに新たな目標と、尽きることのない探求心を与えた。

ボロボロの体を引きずりながら、アルトは洞窟からの脱出を開始した。
巣のリーダーを失ったゴブリンたちは、混乱しているのか、あるいはアルトの放った尋常ならざる気配に恐れをなしたのか、彼の前に姿を現すことはなかった。
長く暗い洞窟通路を抜け、ようやく外の、夕暮れに染まり始めた森の光を浴びた時、アルトは心からの安堵を覚えた。
生きて帰れる。
その当たり前の事実が、今は何よりも尊く、そして重く感じられた。

ホブゴブリン討伐。
それは、Eランク冒険者アルトが成し遂げた、間違いなくこれまでの最大の功績だった。
しかし、その代償もまた、計り知れないほど大きかった。
心身ともに限界まで消耗し、愛用してきた装備も大きな損傷を受けた。

だが、彼は生き延びた。
そして、ギフトの新たな可能性という、大きな収穫も得たのだ。
この過酷な戦いを乗り越えたアルトを、ギルドで、そしてアッシュフォード村で待つものは何か。
物語は、一つの大きな転換点を迎えた。
アルトの冒険は、さらなる深みへと進んでいく。
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