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第56話 幻惑の終焉、晴れ渡る森
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一体目のフォギーモスを地に墜とし、アルトは即座に残る三匹へと意識を向けた。
周囲を舞う幻惑の鱗粉は、わずかに薄まったように感じられる。
そして何より、一度敵を倒したという経験が、アルトの心に確かな自信と、戦術への確信を与えていた。
もう、ただ幻覚に翻弄されるだけの自分ではない。
「衝撃波!」
アルトは迷うことなくギフトを発動させる。
腕から放たれた不可視の力が、周囲の霧と鱗粉を薙ぎ払うように吹き飛ばす。
一瞬だけ切り開かれたクリアな視界の中に、敵の姿を正確に捉える。
二匹目のフォギーモスが、予測不能な軌道でひらひらと舞いながら接近し、体当たりを仕掛けてきた。
その動きは速いが、アルトは冷静に見切っていた。
左腕のバックラーで、その衝撃を最小限の動きで受け止める。
そして、間髪入れずにカウンター反射!
「ギィィ!」
甲高い、耳障りな悲鳴。
美しい羽が黒く焼け焦げ、二匹目のフォギーモスもまた、力なく地面へと墜ちていった。
確立された戦術――衝撃波で視界確保、物理攻撃を誘って反射で撃破――は、この幻惑の魔物に対して、極めて有効だった。
アルトは、このパターンを冷静に繰り返した。
衝撃波を放ち、敵の位置を確認し、物理攻撃を誘う。
三匹目のフォギーモスも、アルトの術中にはまり、反射ダメージを受けて地面に叩きつけられ、動かなくなった。
残るは、最後の一匹。
しかし、その最後の個体は、仲間たちが次々と倒されていくのを見て、明らかに警戒レベルを引き上げていた。
これまでの個体のように、単純な体当たりを仕掛けてくることはない。
低空を素早く飛び回りながら、アルトの顔面めがけて、より濃密な、幻覚効果の高い鱗粉を集中的に噴射してきたのだ。
同時に、鎌のように鋭い前脚(?)のようなものを振りかざし、斬りかかってくる。
幻覚攻撃と物理攻撃の、厄介な複合技だ。
「くっ…!」
再び強烈な幻覚がアルトを襲う。
視界がぐにゃりと歪み、地面が揺れる。
目の前のフォギーモスが、何匹にも分裂して見える。
それでも、アルトはもはや動じなかった。
リナにもらった気付け薬を噛みしめ、精神を無理やり引き締める。
バルガスとの訓練で培った集中力で、幻覚のノイズの中から、現実の敵の気配だけを探り当てる。
そして、鱗粉の嵐を、断続的な衝撃波で弾き飛ばし、迫りくる物理攻撃を、ショートソードとバックラーで的確に捌いていく!
最後のフォギーモスも、アルトの粘り強い抵抗の前に、徐々に消耗していくのが分かった。
そして、アルトが放った渾身のカウンター反射が、その胴体を直撃した瞬間。
フォギーモスは甲高い断末魔のような音を発し、撒き散らしていた鱗粉が最後の輝きを放つかのようにキラキラと舞った後、地面に激突し、完全に動きを止めた。
四匹全てのフォギーモスを討伐した。
アルトが、荒い息をつきながら立ち上がった、その時だった。
周囲で、信じられないような変化が起こり始めたのだ。
あれほど濃く、視界を奪っていた乳白色の霧が、まるで朝靄が太陽に溶かされるかのように、急速に薄れ始めたのだ。
木々の輪郭がはっきりと姿を現し、森の奥深くまで見通せるようになっていく。
空からは、遮られていた陽の光が、木々の隙間から優しく差し込んできた。
森は、本来の穏やかで美しい姿を取り戻したのだ。
「霧が……晴れた……」
アルトは、その劇的な変化を呆然と見つめていた。
原因となっていたフォギーモスを排除したことで、この「惑わしの森」の呪いが解けたのだ。
確かな達成感が、疲労しきったアルトの心を満たしていった。
霧が完全に晴れた森の中で、アルトは安堵の息をついた。
依頼は、原因究明と排除の両方を、完璧に達成できたことになる。
彼は、討伐の証拠として、フォギーモスの色鮮やかで大きな羽を数枚と、鱗粉が詰まっていると思われる腹部の袋のような器官(もし存在すればだが)を、それぞれの死体から慎重に回収した。
これらの素材は、錬金術の材料などとして、あるいは珍しいものとして、何かの役に立つかもしれない。
戦闘は終わった。
しかし、アルトの精神には、まだ強烈な幻覚との戦いの残滓が、わずかに残っていた。
軽い目眩と、現実感が少し希薄になるような奇妙な浮遊感。
肉体的な疲労もさることながら、精神的な消耗が、今回の戦いでは特に大きかった。
幻覚攻撃がいかに厄介で、冒険者にとって精神力がどれほど重要な武器となるか。
アルトは、この戦いを通じて、それを骨身にしみて学んだ。
回収した証拠品を丁寧にしまい、アルトは晴れ渡った森を抜け、村へと帰還した。
ギルドへ直行し、カウンターで待つギルドマスターに報告する。
「東の森の異常調査、完了しました。原因はフォギーモスという蛾型の魔物で、計4体、全て討伐してきました。これで、あの霧は晴れるはずです」
アルトは、証拠としてフォギーモスの羽などをカウンターに置いた。
ギルドマスターは、アルトが無事に生還したことにまず安堵の表情を浮かべ、そして提出された証拠と、アルトの落ち着いた報告内容に、目を見張った。
「フォギーモス…やはりそうだったか。しかも4体も存在したとは……。あの強烈な幻覚に打ち勝ち、原因を突き止め、そして排除まで成し遂げるとは……アルト、君は本当に……」
マスターは、もはや驚きを通り越して、感嘆の言葉しか出てこないようだった。
「Eランクとしては、いや、このギルド全体で見ても、これは規格外の功績だ。Dランクへの昇格は、もはや確実と言っていいだろう!素晴らしい働きだった!」
マスターは力強く宣言し、依頼の基本報酬に加えて、最高ランクに値するであろう特別報酬をアルトに与えた。
近くで聞いていたバルガスも、「幻覚との戦いは、並の精神力じゃ乗り越えられん。お前さん、また一段とタフになったようだな。大したもんだ」と、短い言葉の中に最大限の称賛を込めてアルトを労った。
幻惑の森での厳しい試練。
それを乗り越えたアルトは、また一つ、冒険者として大きな成長を遂げた。
物理的な強さだけでなく、精神的な強さ、そしてギフトの応用力。
それら全てが試され、そして見事に証明されたのだ。
Dランク昇格は、もはや目前。
アルトは、手にした報酬と、揺るぎない自信を胸に、次なる目標へと視線を向ける。
周囲を舞う幻惑の鱗粉は、わずかに薄まったように感じられる。
そして何より、一度敵を倒したという経験が、アルトの心に確かな自信と、戦術への確信を与えていた。
もう、ただ幻覚に翻弄されるだけの自分ではない。
「衝撃波!」
アルトは迷うことなくギフトを発動させる。
腕から放たれた不可視の力が、周囲の霧と鱗粉を薙ぎ払うように吹き飛ばす。
一瞬だけ切り開かれたクリアな視界の中に、敵の姿を正確に捉える。
二匹目のフォギーモスが、予測不能な軌道でひらひらと舞いながら接近し、体当たりを仕掛けてきた。
その動きは速いが、アルトは冷静に見切っていた。
左腕のバックラーで、その衝撃を最小限の動きで受け止める。
そして、間髪入れずにカウンター反射!
「ギィィ!」
甲高い、耳障りな悲鳴。
美しい羽が黒く焼け焦げ、二匹目のフォギーモスもまた、力なく地面へと墜ちていった。
確立された戦術――衝撃波で視界確保、物理攻撃を誘って反射で撃破――は、この幻惑の魔物に対して、極めて有効だった。
アルトは、このパターンを冷静に繰り返した。
衝撃波を放ち、敵の位置を確認し、物理攻撃を誘う。
三匹目のフォギーモスも、アルトの術中にはまり、反射ダメージを受けて地面に叩きつけられ、動かなくなった。
残るは、最後の一匹。
しかし、その最後の個体は、仲間たちが次々と倒されていくのを見て、明らかに警戒レベルを引き上げていた。
これまでの個体のように、単純な体当たりを仕掛けてくることはない。
低空を素早く飛び回りながら、アルトの顔面めがけて、より濃密な、幻覚効果の高い鱗粉を集中的に噴射してきたのだ。
同時に、鎌のように鋭い前脚(?)のようなものを振りかざし、斬りかかってくる。
幻覚攻撃と物理攻撃の、厄介な複合技だ。
「くっ…!」
再び強烈な幻覚がアルトを襲う。
視界がぐにゃりと歪み、地面が揺れる。
目の前のフォギーモスが、何匹にも分裂して見える。
それでも、アルトはもはや動じなかった。
リナにもらった気付け薬を噛みしめ、精神を無理やり引き締める。
バルガスとの訓練で培った集中力で、幻覚のノイズの中から、現実の敵の気配だけを探り当てる。
そして、鱗粉の嵐を、断続的な衝撃波で弾き飛ばし、迫りくる物理攻撃を、ショートソードとバックラーで的確に捌いていく!
最後のフォギーモスも、アルトの粘り強い抵抗の前に、徐々に消耗していくのが分かった。
そして、アルトが放った渾身のカウンター反射が、その胴体を直撃した瞬間。
フォギーモスは甲高い断末魔のような音を発し、撒き散らしていた鱗粉が最後の輝きを放つかのようにキラキラと舞った後、地面に激突し、完全に動きを止めた。
四匹全てのフォギーモスを討伐した。
アルトが、荒い息をつきながら立ち上がった、その時だった。
周囲で、信じられないような変化が起こり始めたのだ。
あれほど濃く、視界を奪っていた乳白色の霧が、まるで朝靄が太陽に溶かされるかのように、急速に薄れ始めたのだ。
木々の輪郭がはっきりと姿を現し、森の奥深くまで見通せるようになっていく。
空からは、遮られていた陽の光が、木々の隙間から優しく差し込んできた。
森は、本来の穏やかで美しい姿を取り戻したのだ。
「霧が……晴れた……」
アルトは、その劇的な変化を呆然と見つめていた。
原因となっていたフォギーモスを排除したことで、この「惑わしの森」の呪いが解けたのだ。
確かな達成感が、疲労しきったアルトの心を満たしていった。
霧が完全に晴れた森の中で、アルトは安堵の息をついた。
依頼は、原因究明と排除の両方を、完璧に達成できたことになる。
彼は、討伐の証拠として、フォギーモスの色鮮やかで大きな羽を数枚と、鱗粉が詰まっていると思われる腹部の袋のような器官(もし存在すればだが)を、それぞれの死体から慎重に回収した。
これらの素材は、錬金術の材料などとして、あるいは珍しいものとして、何かの役に立つかもしれない。
戦闘は終わった。
しかし、アルトの精神には、まだ強烈な幻覚との戦いの残滓が、わずかに残っていた。
軽い目眩と、現実感が少し希薄になるような奇妙な浮遊感。
肉体的な疲労もさることながら、精神的な消耗が、今回の戦いでは特に大きかった。
幻覚攻撃がいかに厄介で、冒険者にとって精神力がどれほど重要な武器となるか。
アルトは、この戦いを通じて、それを骨身にしみて学んだ。
回収した証拠品を丁寧にしまい、アルトは晴れ渡った森を抜け、村へと帰還した。
ギルドへ直行し、カウンターで待つギルドマスターに報告する。
「東の森の異常調査、完了しました。原因はフォギーモスという蛾型の魔物で、計4体、全て討伐してきました。これで、あの霧は晴れるはずです」
アルトは、証拠としてフォギーモスの羽などをカウンターに置いた。
ギルドマスターは、アルトが無事に生還したことにまず安堵の表情を浮かべ、そして提出された証拠と、アルトの落ち着いた報告内容に、目を見張った。
「フォギーモス…やはりそうだったか。しかも4体も存在したとは……。あの強烈な幻覚に打ち勝ち、原因を突き止め、そして排除まで成し遂げるとは……アルト、君は本当に……」
マスターは、もはや驚きを通り越して、感嘆の言葉しか出てこないようだった。
「Eランクとしては、いや、このギルド全体で見ても、これは規格外の功績だ。Dランクへの昇格は、もはや確実と言っていいだろう!素晴らしい働きだった!」
マスターは力強く宣言し、依頼の基本報酬に加えて、最高ランクに値するであろう特別報酬をアルトに与えた。
近くで聞いていたバルガスも、「幻覚との戦いは、並の精神力じゃ乗り越えられん。お前さん、また一段とタフになったようだな。大したもんだ」と、短い言葉の中に最大限の称賛を込めてアルトを労った。
幻惑の森での厳しい試練。
それを乗り越えたアルトは、また一つ、冒険者として大きな成長を遂げた。
物理的な強さだけでなく、精神的な強さ、そしてギフトの応用力。
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