68 / 125
第69話 折れた剣、頑鉄との出会い
しおりを挟む
オーガとの死闘は、まさに消耗戦の様相を呈していた。
アルトは満身創痍になりながらも、確実にオーガの体力を削っていく。
膝への一撃が効いたのか、オーガの動きは明らかに鈍くなっている。
とどめを刺す好機は近い。
オーガが、最後の力を振り絞るかのように、巨大な棍棒を横薙ぎに振るってきた。
アルトはそれをバックラーで受け流し、がら空きになったオーガの胸元(あるいは首元)へ、渾身の力を込めてショートソードを突き出した!
狙いは心臓部!
確かな手応え!
剣先はオーガの分厚い皮膚を貫いたかに見えた。
しかし、その瞬間、オーガが暴れるように体を捻り、剣が内部の硬い骨か何かに阻まれた。
そして――パキィン!という、乾いた、嫌な音が響いた。
手にしたショートソードの感触が変わる。
見ると、剣身が半ばから、無残にもぽっきりと折れてしまっていたのだ!
「なっ……!?」
武器を失い、アルトは一瞬、思考が停止する。
その隙を見逃さず、オーガが勝利を確信したかのように、再び棍棒を振り上げる。
絶体絶命。
しかし、アルトは諦めなかった。
咄嗟にバックラーを前面に構え、オーガの棍棒の一撃を全身で受け止める。
凄まじい衝撃!
だが、アルトは意識を飛ばすまいと必死に耐え、最後の切り札、ギフトを発動させる。
「反射ァァァ!!」
カウンター反射、そして、あの時と同じように、極限状態で「守る」という強い意志が働いたのか、再び蒼白い閃光が迸る!
反射ダメージと麻痺効果(?)がオーガを直撃し、その巨体が大きく痙攣して動きを止める!
アルトはこの一瞬の隙を逃さず、腰の予備のナイフを引き抜き、麻痺して無防備になったオーガの、唯一の弱点である眼球めがけて、渾身の力を込めて突き刺した!
「グオオオッ!」
オーガは最後の断末魔を上げ、ついにその巨体を大地に横たえた。
戦闘が終わった後の静寂の中で、アルトの心を占めていたのは、オーガ討伐の達成感よりも、むしろ折れてしまったショートソードへの喪失感だった。
アッシュフォード村の鍛冶屋の親方が、アルトのために作ってくれた、信頼できる相棒だったのに…。
自分の未熟さゆえに、剣を折ってしまった。
その事実が、アルトの胸に重くのしかかった。
(もっと、強くて、信頼できる武器が必要だ…)
この戦いで、アルトは改めてその必要性を痛感した。
ナイフだけでは、オーガのような強敵には太刀打ちできない。
アルトは、討伐の証拠としてオーガの巨大な牙を一本、苦労して折り取り、疲労困憊の体を引きずって王都へと帰還した。
ギルドの扉を開け、カウンターへと向かう。
そのボロボロの姿と、肩に担いだ巨大なオーガの牙に、ギルド内にいた冒険者たちは一斉に息をのんだ。
「おい、あれ……オーガの牙じゃねえか!?」
「まさか、あの街道荒らしのか!?」
「誰が倒したんだ…って、アルト!?お前がやったのか!?」
アルトがカウンターにオーガの牙を置くと、その場は騒然となった。
ギルドマスターは、信じられないといった表情で牙とアルトの姿を何度も見比べ、そしてゴクリと喉を鳴らした。
「……アルト君。これは……まさか、君が、単独で、あの街道のオーガを……?」
「はい。依頼のオーガで間違いありません。討伐してきました」
アルトは、努めて冷静に報告した。
ギルドマスターは、しばらく言葉を失っていたが、やがて大きく息を吐き出すと、その声は驚愕と称賛で震えていた。
「信じられん……!Dランクになったばかりの君が、単独でオーガを討伐するなど!前代未聞だ!これは、とんでもない大金星だぞ!」
周囲の冒険者たちからも、驚きの声が上がる。
「マジかよ、オーガをソロで!?」
「化け物か、あいつは…」
談話室の隅では、クラウスとマルコが、顔面蒼白になってアルトを見つめていた。もはや、彼らにアルトを嘲笑う余裕など、微塵も残っていないだろう。
アルトは、討伐の経緯を説明した。
オーガのパワーと耐久力に苦戦したこと、カウンター反射が有効だったこと、そして最後に、ショートソードが折れてしまい、咄嗟の判断とギフトの力、そしてナイフでとどめを刺したことを。
武器が折れたという事実に、マスターも周囲の冒険者も、改めてオーガの脅威と、アルトの奮闘ぶりに驚きを隠せないでいた。
「そうか…剣が折れたか。それほどの激闘だったのだな。だが、それでも勝利し、生還した。見事としか言いようがない!」
マスターは、依頼報酬である銀貨4枚に加え、オーガ討伐という破格の功績に対する特別報酬として、さらに数枚の金貨を含む、莫大な額の報酬をアルトに手渡した。
「これは君の勇気と、卓越した実力に対する正当な対価だ。誇りに思うがいい。君はもはや、Dランクの域をも超えつつあるのかもしれんな」
多額の報酬と、ギルドからの最高級の評価。
そして、折れてしまった愛用の剣。
アルトは、新しい、もっと信頼できる武器を手に入れることを、固く、固く決意した。
ギルドを出たアルトは、新しい剣を求めて王都の武器屋を探し始めた。
ギルドで得た情報や、他の冒険者のアドバイスを元に、いくつかの武器屋を巡る。
しかし、なかなかピンとくるものがない。
そんな時、アルトはギルドの隅で、「頑鉄工房」という古びた武器屋の噂を耳にした。
「あそこの親父は偏屈で有名だが、腕は確かだ」「見る目がない客には、店の剣に触らせもしないらしいぞ」
その言葉に、アルトは何か惹かれるものを感じ、その店を訪ねてみることにした。
教えられた場所にあった店は、噂通り古びており、看板も小さい。
重い木の扉を押し開けると、中は薄暗く、壁には無骨ながらも質の良さそうな武具が並んでいる。
店の奥で、黙々と金槌で何かを叩いている、いかつい顔つきのドワーフの老人がいた。
「……ごめんください。剣を探しているんですが」
アルトがおずおずと声をかけると、ドワーフの老人はアルトの姿を一瞥し、鼻を鳴らした。
「ふん、ひよっこか。うちには、お前さんみたいな若造に扱えるような代物はねえよ。他所へ行きな」
やはり、噂通りの対応だ。
しかし、アルトは引き下がらなかった。
「お願いします!俺は本気で、信頼できる剣を探しているんです!この前のオーガとの戦いで、愛用していた剣が、俺の未熟さゆえに折れてしまって…!どんな相手と戦っても、決して折れないような、頑丈な剣が欲しいんです!」
アルトは、オーガとの死闘のこと、剣を失った悔しさ、そして、自分がアッシュフォード村出身で、村の鍛冶屋であるグレン親方にショートソードを譲ってもらった事などを、必死に、そして正直に語った。
「…なに?お前さん、アッシュフォードの、あの石頭のグレンの世話になったのか?」
ドワーフの老人は、アルトの言葉にピクリと反応し、初めてアルトの顔をまじまじと見た。
「……そうか。あの頑固爺の知り合いか。ふん、あいつはわしの若い頃の兄弟子でな…まあ、腐れ縁みてえなもんだ」
老人の表情が、わずかに和らいだように見えた。
「……グレンの知り合いで、オーガを倒したってんなら、ただのひよっこじゃねえようだな。お前さんのその目…覚悟はできてる目だ」
老人は、重々しく頷くと、店の奥へと向かった。
そして、しばらくして、一本の剣を手に戻ってきた。
それは、アルトが今まで使っていたショートソードより一回り大きく、厚みのある刀身を持つ、片手半で扱えそうなバスタードソードに近い形状の剣だった。
飾り気は一切ない。
しかし、その刀身は、まるで夜の闇をそのまま固めたかのように深く、吸い込まれるような黒色をしており、ただならぬ存在感を放っていた。
「こいつは、わしが若い頃、最高の素材と技術を注ぎ込んで鍛えた、業物(わざもの)だ。西方の魔境と呼ばれる山脈の奥深くでしか採れん、伝説の鉱石『夜闇鋼(ナイトスチール)』を、秘伝の製法で鍛え上げた」
ボルガンは、愛おしむように剣身を撫でながら言った。
「名は、『黒曜(こくよう)』。夜闇鋼の特性でな、見た目よりも軽く感じるはずだ。そして何より……わしが知る限り、この世で最も頑丈な剣の一つだ。おそらく、ドラゴンの爪と打ち合っても、巨人の一撃を受けても、折れることはあるまい」
ボルガンは、その黒曜の剣を、アルトに差し出した。
「まあ、これほどの剣、今のひよっこのお前さんに、真に扱いきれるかどうかは分からんがな。こいつは、ただ頑丈なだけじゃない。使い手の魂に応える、気難しい剣でもある。…お前さんに、その資格があると思うなら、手に取ってみるがいい」
アルトは、ゴクリと唾を飲み込み、差し出された剣「黒曜」を、震える手で、しかし敬意を込めて受け取った。
ずしりとした、確かな重み。
しかし、ボルガンの言う通り、見た目ほどの重さは感じない。
まるで、自分の腕の延長であるかのように、驚くほどしっくりと手に馴染む。
そして、剣の柄を握りしめた瞬間、アルトは、まるで剣の鼓動が聞こえるかのような、不思議な一体感を覚えた。
この剣しかない。
この剣こそが、自分の求めていたものだ、と直感した。
「こ、これをください!お願いします!」
アルトは、興奮を抑えきれずに叫んだ。
ボルガンは、そんなアルトの様子を厳しい目で見ていたが、やがて小さく頷いた。
「…こいつは、本来売り物じゃなかったんだがな。まあ、いいだろう。グレンの顔もある。そして何より、お前さんのその目と、この剣がお前を選んだように見えたからな。…ただし、代価は安くはねえぞ。金貨で…そうだな、これだけだ」
提示された額は、アルトがオーガ討伐で得た報酬の、ほぼ全てに相当する金額だった。
しかし、アルトに迷いは一切なかった。
「はい!払います!必ず、この剣を使いこなしてみせます!」
アルトは、なけなしの金貨と銀貨を差し出した。
ボルガンはそれを受け取ると、「ふん、せいぜい励むがいい。半端な使い方をして、この黒曜の名を汚すようなことがあれば、わしが叩き折りに行くからな。覚えておけ」と、最後の釘を刺すことも忘れなかった。
武器を失うという、絶体絶命のピンチ。
しかし、その試練は、アルトを頑固だが真の職人である武器の匠と、そして新たな、そしておそらくは生涯の相棒となるであろう、特別な剣「黒曜」と巡り合わせたのだ。
アルトは、ボルガンに深く一礼し、工房を後にした。
その手には、頼もしい黒色の剣が、王都の陽光を浴びて、静かに、しかし力強い輝きを放っていた。
アルトは満身創痍になりながらも、確実にオーガの体力を削っていく。
膝への一撃が効いたのか、オーガの動きは明らかに鈍くなっている。
とどめを刺す好機は近い。
オーガが、最後の力を振り絞るかのように、巨大な棍棒を横薙ぎに振るってきた。
アルトはそれをバックラーで受け流し、がら空きになったオーガの胸元(あるいは首元)へ、渾身の力を込めてショートソードを突き出した!
狙いは心臓部!
確かな手応え!
剣先はオーガの分厚い皮膚を貫いたかに見えた。
しかし、その瞬間、オーガが暴れるように体を捻り、剣が内部の硬い骨か何かに阻まれた。
そして――パキィン!という、乾いた、嫌な音が響いた。
手にしたショートソードの感触が変わる。
見ると、剣身が半ばから、無残にもぽっきりと折れてしまっていたのだ!
「なっ……!?」
武器を失い、アルトは一瞬、思考が停止する。
その隙を見逃さず、オーガが勝利を確信したかのように、再び棍棒を振り上げる。
絶体絶命。
しかし、アルトは諦めなかった。
咄嗟にバックラーを前面に構え、オーガの棍棒の一撃を全身で受け止める。
凄まじい衝撃!
だが、アルトは意識を飛ばすまいと必死に耐え、最後の切り札、ギフトを発動させる。
「反射ァァァ!!」
カウンター反射、そして、あの時と同じように、極限状態で「守る」という強い意志が働いたのか、再び蒼白い閃光が迸る!
反射ダメージと麻痺効果(?)がオーガを直撃し、その巨体が大きく痙攣して動きを止める!
アルトはこの一瞬の隙を逃さず、腰の予備のナイフを引き抜き、麻痺して無防備になったオーガの、唯一の弱点である眼球めがけて、渾身の力を込めて突き刺した!
「グオオオッ!」
オーガは最後の断末魔を上げ、ついにその巨体を大地に横たえた。
戦闘が終わった後の静寂の中で、アルトの心を占めていたのは、オーガ討伐の達成感よりも、むしろ折れてしまったショートソードへの喪失感だった。
アッシュフォード村の鍛冶屋の親方が、アルトのために作ってくれた、信頼できる相棒だったのに…。
自分の未熟さゆえに、剣を折ってしまった。
その事実が、アルトの胸に重くのしかかった。
(もっと、強くて、信頼できる武器が必要だ…)
この戦いで、アルトは改めてその必要性を痛感した。
ナイフだけでは、オーガのような強敵には太刀打ちできない。
アルトは、討伐の証拠としてオーガの巨大な牙を一本、苦労して折り取り、疲労困憊の体を引きずって王都へと帰還した。
ギルドの扉を開け、カウンターへと向かう。
そのボロボロの姿と、肩に担いだ巨大なオーガの牙に、ギルド内にいた冒険者たちは一斉に息をのんだ。
「おい、あれ……オーガの牙じゃねえか!?」
「まさか、あの街道荒らしのか!?」
「誰が倒したんだ…って、アルト!?お前がやったのか!?」
アルトがカウンターにオーガの牙を置くと、その場は騒然となった。
ギルドマスターは、信じられないといった表情で牙とアルトの姿を何度も見比べ、そしてゴクリと喉を鳴らした。
「……アルト君。これは……まさか、君が、単独で、あの街道のオーガを……?」
「はい。依頼のオーガで間違いありません。討伐してきました」
アルトは、努めて冷静に報告した。
ギルドマスターは、しばらく言葉を失っていたが、やがて大きく息を吐き出すと、その声は驚愕と称賛で震えていた。
「信じられん……!Dランクになったばかりの君が、単独でオーガを討伐するなど!前代未聞だ!これは、とんでもない大金星だぞ!」
周囲の冒険者たちからも、驚きの声が上がる。
「マジかよ、オーガをソロで!?」
「化け物か、あいつは…」
談話室の隅では、クラウスとマルコが、顔面蒼白になってアルトを見つめていた。もはや、彼らにアルトを嘲笑う余裕など、微塵も残っていないだろう。
アルトは、討伐の経緯を説明した。
オーガのパワーと耐久力に苦戦したこと、カウンター反射が有効だったこと、そして最後に、ショートソードが折れてしまい、咄嗟の判断とギフトの力、そしてナイフでとどめを刺したことを。
武器が折れたという事実に、マスターも周囲の冒険者も、改めてオーガの脅威と、アルトの奮闘ぶりに驚きを隠せないでいた。
「そうか…剣が折れたか。それほどの激闘だったのだな。だが、それでも勝利し、生還した。見事としか言いようがない!」
マスターは、依頼報酬である銀貨4枚に加え、オーガ討伐という破格の功績に対する特別報酬として、さらに数枚の金貨を含む、莫大な額の報酬をアルトに手渡した。
「これは君の勇気と、卓越した実力に対する正当な対価だ。誇りに思うがいい。君はもはや、Dランクの域をも超えつつあるのかもしれんな」
多額の報酬と、ギルドからの最高級の評価。
そして、折れてしまった愛用の剣。
アルトは、新しい、もっと信頼できる武器を手に入れることを、固く、固く決意した。
ギルドを出たアルトは、新しい剣を求めて王都の武器屋を探し始めた。
ギルドで得た情報や、他の冒険者のアドバイスを元に、いくつかの武器屋を巡る。
しかし、なかなかピンとくるものがない。
そんな時、アルトはギルドの隅で、「頑鉄工房」という古びた武器屋の噂を耳にした。
「あそこの親父は偏屈で有名だが、腕は確かだ」「見る目がない客には、店の剣に触らせもしないらしいぞ」
その言葉に、アルトは何か惹かれるものを感じ、その店を訪ねてみることにした。
教えられた場所にあった店は、噂通り古びており、看板も小さい。
重い木の扉を押し開けると、中は薄暗く、壁には無骨ながらも質の良さそうな武具が並んでいる。
店の奥で、黙々と金槌で何かを叩いている、いかつい顔つきのドワーフの老人がいた。
「……ごめんください。剣を探しているんですが」
アルトがおずおずと声をかけると、ドワーフの老人はアルトの姿を一瞥し、鼻を鳴らした。
「ふん、ひよっこか。うちには、お前さんみたいな若造に扱えるような代物はねえよ。他所へ行きな」
やはり、噂通りの対応だ。
しかし、アルトは引き下がらなかった。
「お願いします!俺は本気で、信頼できる剣を探しているんです!この前のオーガとの戦いで、愛用していた剣が、俺の未熟さゆえに折れてしまって…!どんな相手と戦っても、決して折れないような、頑丈な剣が欲しいんです!」
アルトは、オーガとの死闘のこと、剣を失った悔しさ、そして、自分がアッシュフォード村出身で、村の鍛冶屋であるグレン親方にショートソードを譲ってもらった事などを、必死に、そして正直に語った。
「…なに?お前さん、アッシュフォードの、あの石頭のグレンの世話になったのか?」
ドワーフの老人は、アルトの言葉にピクリと反応し、初めてアルトの顔をまじまじと見た。
「……そうか。あの頑固爺の知り合いか。ふん、あいつはわしの若い頃の兄弟子でな…まあ、腐れ縁みてえなもんだ」
老人の表情が、わずかに和らいだように見えた。
「……グレンの知り合いで、オーガを倒したってんなら、ただのひよっこじゃねえようだな。お前さんのその目…覚悟はできてる目だ」
老人は、重々しく頷くと、店の奥へと向かった。
そして、しばらくして、一本の剣を手に戻ってきた。
それは、アルトが今まで使っていたショートソードより一回り大きく、厚みのある刀身を持つ、片手半で扱えそうなバスタードソードに近い形状の剣だった。
飾り気は一切ない。
しかし、その刀身は、まるで夜の闇をそのまま固めたかのように深く、吸い込まれるような黒色をしており、ただならぬ存在感を放っていた。
「こいつは、わしが若い頃、最高の素材と技術を注ぎ込んで鍛えた、業物(わざもの)だ。西方の魔境と呼ばれる山脈の奥深くでしか採れん、伝説の鉱石『夜闇鋼(ナイトスチール)』を、秘伝の製法で鍛え上げた」
ボルガンは、愛おしむように剣身を撫でながら言った。
「名は、『黒曜(こくよう)』。夜闇鋼の特性でな、見た目よりも軽く感じるはずだ。そして何より……わしが知る限り、この世で最も頑丈な剣の一つだ。おそらく、ドラゴンの爪と打ち合っても、巨人の一撃を受けても、折れることはあるまい」
ボルガンは、その黒曜の剣を、アルトに差し出した。
「まあ、これほどの剣、今のひよっこのお前さんに、真に扱いきれるかどうかは分からんがな。こいつは、ただ頑丈なだけじゃない。使い手の魂に応える、気難しい剣でもある。…お前さんに、その資格があると思うなら、手に取ってみるがいい」
アルトは、ゴクリと唾を飲み込み、差し出された剣「黒曜」を、震える手で、しかし敬意を込めて受け取った。
ずしりとした、確かな重み。
しかし、ボルガンの言う通り、見た目ほどの重さは感じない。
まるで、自分の腕の延長であるかのように、驚くほどしっくりと手に馴染む。
そして、剣の柄を握りしめた瞬間、アルトは、まるで剣の鼓動が聞こえるかのような、不思議な一体感を覚えた。
この剣しかない。
この剣こそが、自分の求めていたものだ、と直感した。
「こ、これをください!お願いします!」
アルトは、興奮を抑えきれずに叫んだ。
ボルガンは、そんなアルトの様子を厳しい目で見ていたが、やがて小さく頷いた。
「…こいつは、本来売り物じゃなかったんだがな。まあ、いいだろう。グレンの顔もある。そして何より、お前さんのその目と、この剣がお前を選んだように見えたからな。…ただし、代価は安くはねえぞ。金貨で…そうだな、これだけだ」
提示された額は、アルトがオーガ討伐で得た報酬の、ほぼ全てに相当する金額だった。
しかし、アルトに迷いは一切なかった。
「はい!払います!必ず、この剣を使いこなしてみせます!」
アルトは、なけなしの金貨と銀貨を差し出した。
ボルガンはそれを受け取ると、「ふん、せいぜい励むがいい。半端な使い方をして、この黒曜の名を汚すようなことがあれば、わしが叩き折りに行くからな。覚えておけ」と、最後の釘を刺すことも忘れなかった。
武器を失うという、絶体絶命のピンチ。
しかし、その試練は、アルトを頑固だが真の職人である武器の匠と、そして新たな、そしておそらくは生涯の相棒となるであろう、特別な剣「黒曜」と巡り合わせたのだ。
アルトは、ボルガンに深く一礼し、工房を後にした。
その手には、頼もしい黒色の剣が、王都の陽光を浴びて、静かに、しかし力強い輝きを放っていた。
13
あなたにおすすめの小説
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~
枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。
同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。
仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。
─────────────
※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。
※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。
※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる