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第86話 技の名は『インパクト・パルス』
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忘れられた神殿での死闘を乗り越え、アルトはギルドから正式に【Cランク】冒険者として認められた。
鉄製のプレートは、彼のこれまでの功績と、中堅冒険者の仲間入りを果たしたことの証だ。
ギルド内でのアルトを見る目は、もはや完全に変わっていた。
驚きと称賛、そして時にはわずかな嫉妬も含めて、彼は間違いなく注目される存在となっていた。
Cランクに昇格し、破格の報酬も手にしたアルトだったが、彼の心は次なる目標へと向いていた。
さらなる実力の向上、そして未だ謎多き自身のギフト【ダメージ反射】の探求。
彼は、王都ギルドの訓練場を借り、新しい相棒である黒曜の剣とバックラー、そしてギフトの連携を磨くための地道な訓練に、再び没頭する日々を送っていた。
特に力を入れていたのが、あの衝撃波のような力のコントロールだ。
エリアーヌの研究によれば、これは単なる物理衝撃ではなく、魔力とも違う特殊なエネルギー波らしい。
威力はまだ小さいが、これを自在に操れるようになれば、戦術の幅は格段に広がるはずだ。
アルトは、木製の的や壁に向かい、意識を集中させ、腕から、あるいはバックラーから、その不可視の力を放つ練習を繰り返していた。
そんなある日の午後。
アルトが訓練場で汗を流していると、ひょっこりと見慣れた顔が現れた。
小柄なローグの少女ノエルと、頑強なドワーフの戦士ゴルドー。
忘れられた神殿で共に死線を乗り越えた、初めてのパーティ仲間だ。
「ふん、精が出るな、若造。Cランクになったからといって、調子に乗って訓練を怠けてるかと思えば、感心感心」
ゴルドーが、いつものぶっきらぼうな口調ながらも、どこかアルトの昇格を祝うような響きで声をかけてきた。
ノエルも、フードの下からアルトを見上げ、小さく、しかしはっきりと「……おめでとう。……訓練、熱心」と呟いた。
無表情は相変わらずだが、その声にはわずかな祝福の響きが感じられた。
「ゴルドーさん、ノエル!ありがとう!」
アルトは、仲間からの言葉に素直に喜び、笑顔で応えた。
三人が言葉を交わしていると、訓練場の入り口から、もう一人、予想外の人物が現れた。
軽やかな足取りで近づいてくるのは、美しい青いマントを翻す、Bランク冒険者「閃光」のシルヴィだった。
彼女の突然の登場に、アルトだけでなく、ゴルドーとノエルも少し驚いた表情を見せる。特にゴルドーは、「げっ、なんで“閃光”のお嬢様がこんなところに…」と、小声で悪態をつきながらも、その目には隠しきれない緊張の色が浮かんでいた。王都で彼女を知らない冒険者はいないのだ。
シルヴィは、そんな三人の様子には構わず、興味深そうにアルトの訓練――特に、彼が放っていた力の波――を見つめていた。
「あら、アルト君。あなた、その技…まだ練習していたのね」
「あ、シルヴィさん!はい、なんとか、もっと上手く使えるようにならないかと思って…」
「ふぅん…」シルヴィはアルトが放つ力の波を観察し、そして言った。「あなた、その技に名前はつけているのかしら?」
「え?名前ですか?いえ、特に…衝撃波みたいだな、って勝手に…」
「そう。なら、私が名付けてあげるわ」シルヴィは、悪戯っぽく微笑むと、きっぱりと言った。「それはね、『インパクト・パルス (Impact Pulse)』よ」
「インパクト…パルス?」アルトと、そして隣で聞いていたゴルドーとノエルも、その名前を反芻する。
「ええ」シルヴィは頷く。「それは、単なる衝撃じゃないわ。あなたのギフト…ダメージ反射の根源にある『反発』や『反動』のエネルギーを、指向性を持った『脈動(パルス)』として体外に放出する技術。魔力とは異なる、純粋な斥力エネルギーの波動。使いこなせば、物理的なものを弾き飛ばすだけでなく、集中度と練度次第では、弱い魔法障壁を揺さぶったり、実体を持つ魔法弾を弾き逸らしたりすることも可能になるかもしれないわ」
シルヴィの説明は、以前エリアーヌが語っていた分析とも重なる部分があり、アルトは自分のギフトの応用技に、確かな名前と可能性が与えられたことに興奮を覚えた。
シルヴィは、アルトが放つインパクト・パルスを、どこか懐かしむような、それでいて少し寂しげな目で見つめながら、続けた。
「昔…そうね、私がまだあなたと同じくらいの、ほんの駆け出しだった頃。一度だけ、とても変わったギフトを持つ冒険者と、短い間だけれどパーティを組んだことがあったわ」
その場の空気が、少しだけ変わる。ゴルドーもノエルも、黙ってシルヴィの言葉に耳を傾けている。
「彼もね、あなたとよく似ていた。受けた力を返す、というギフトを持っていたの。そして、ただ守るだけでなく、時折、今あなたが見せたような、反発の力を外に向けて放っていたわ……。彼はそれを、自分の身を守るため、そして……彼が命懸けで守ろうとしていた、たった一人の誰かのために、使っていた」
シルヴィの声には、深い感傷の色が滲んでいた。
「……とても不器用で、頑固で、でも……誰よりも強い意志を持った人だったわね」
その過去の冒険者が誰なのか、その後どうなったのか。シルヴィはそれ以上語ることはなく、ただ、遠い目をして、アルトの持つ黒曜の剣に視線を落とした。
アルトは、シルヴィの話に深く心を動かされていた。
自分と同じようなギフトを持つ者が、過去にいた。
そして、その力は「守る」という意志と深く結びついていたのかもしれない。
それは、ホブゴブリン戦で体験した、あの麻痺効果の謎を解く鍵となるかもしれない、重要なヒントのように思えた。
「インパクト・パルス……」
アルトは、自分の放つ力に与えられた新しい名前を、改めて口にした。
その響きが、自分の力への理解を、また一段階深めてくれた気がした。
「ありがとうございます、シルヴィさん!技の名前も、そして貴重なお話も…!俺、もっとこの力を使いこなせるように、頑張ります!」
アルトは、シルヴィに向かって深く頭を下げた。
シルヴィは、満足そうに微笑むと、
「礼には及ばないわ。あなたの成長は、見ていて飽きないもの。期待しているわよ、アルト君。…また、面白い技を見せてちょうだいね」
そう言い残し、ゴルドーとノエルに軽く会釈すると、風のように軽やかに訓練場を去っていった。
後に残されたのは、アルトと、少し呆気にとられたようなゴルドーとノエルだった。
「……おい、アルト。お前さん、あの“閃光”に気に入られてるのか?とんでもねえ奴だな…」ゴルドーが、呆れたように言う。
ノエルも、アルトの左腕のバックラーと、彼がインパクト・パルスを放った空間を、じっと見つめている。彼女の興味も、アルトのギフトへと向いているようだ。
正式にCランク冒険者となり、ギフトの応用技「インパクト・パルス」の名前と、その可能性についてのヒントを得たアルト。
彼の前には、さらに広大で、挑戦に満ちた冒険の世界が広がっている。
シルヴィとの再会、そして彼女が残した言葉と、過去の記憶の断片。
ノエルとゴルドーという、個性的だが頼れる仲間との絆。
それらは、アルトの運命に、そして彼の持つギフトの謎の解明に、これからどのような影響を与えていくのだろうか。
鉄製のプレートは、彼のこれまでの功績と、中堅冒険者の仲間入りを果たしたことの証だ。
ギルド内でのアルトを見る目は、もはや完全に変わっていた。
驚きと称賛、そして時にはわずかな嫉妬も含めて、彼は間違いなく注目される存在となっていた。
Cランクに昇格し、破格の報酬も手にしたアルトだったが、彼の心は次なる目標へと向いていた。
さらなる実力の向上、そして未だ謎多き自身のギフト【ダメージ反射】の探求。
彼は、王都ギルドの訓練場を借り、新しい相棒である黒曜の剣とバックラー、そしてギフトの連携を磨くための地道な訓練に、再び没頭する日々を送っていた。
特に力を入れていたのが、あの衝撃波のような力のコントロールだ。
エリアーヌの研究によれば、これは単なる物理衝撃ではなく、魔力とも違う特殊なエネルギー波らしい。
威力はまだ小さいが、これを自在に操れるようになれば、戦術の幅は格段に広がるはずだ。
アルトは、木製の的や壁に向かい、意識を集中させ、腕から、あるいはバックラーから、その不可視の力を放つ練習を繰り返していた。
そんなある日の午後。
アルトが訓練場で汗を流していると、ひょっこりと見慣れた顔が現れた。
小柄なローグの少女ノエルと、頑強なドワーフの戦士ゴルドー。
忘れられた神殿で共に死線を乗り越えた、初めてのパーティ仲間だ。
「ふん、精が出るな、若造。Cランクになったからといって、調子に乗って訓練を怠けてるかと思えば、感心感心」
ゴルドーが、いつものぶっきらぼうな口調ながらも、どこかアルトの昇格を祝うような響きで声をかけてきた。
ノエルも、フードの下からアルトを見上げ、小さく、しかしはっきりと「……おめでとう。……訓練、熱心」と呟いた。
無表情は相変わらずだが、その声にはわずかな祝福の響きが感じられた。
「ゴルドーさん、ノエル!ありがとう!」
アルトは、仲間からの言葉に素直に喜び、笑顔で応えた。
三人が言葉を交わしていると、訓練場の入り口から、もう一人、予想外の人物が現れた。
軽やかな足取りで近づいてくるのは、美しい青いマントを翻す、Bランク冒険者「閃光」のシルヴィだった。
彼女の突然の登場に、アルトだけでなく、ゴルドーとノエルも少し驚いた表情を見せる。特にゴルドーは、「げっ、なんで“閃光”のお嬢様がこんなところに…」と、小声で悪態をつきながらも、その目には隠しきれない緊張の色が浮かんでいた。王都で彼女を知らない冒険者はいないのだ。
シルヴィは、そんな三人の様子には構わず、興味深そうにアルトの訓練――特に、彼が放っていた力の波――を見つめていた。
「あら、アルト君。あなた、その技…まだ練習していたのね」
「あ、シルヴィさん!はい、なんとか、もっと上手く使えるようにならないかと思って…」
「ふぅん…」シルヴィはアルトが放つ力の波を観察し、そして言った。「あなた、その技に名前はつけているのかしら?」
「え?名前ですか?いえ、特に…衝撃波みたいだな、って勝手に…」
「そう。なら、私が名付けてあげるわ」シルヴィは、悪戯っぽく微笑むと、きっぱりと言った。「それはね、『インパクト・パルス (Impact Pulse)』よ」
「インパクト…パルス?」アルトと、そして隣で聞いていたゴルドーとノエルも、その名前を反芻する。
「ええ」シルヴィは頷く。「それは、単なる衝撃じゃないわ。あなたのギフト…ダメージ反射の根源にある『反発』や『反動』のエネルギーを、指向性を持った『脈動(パルス)』として体外に放出する技術。魔力とは異なる、純粋な斥力エネルギーの波動。使いこなせば、物理的なものを弾き飛ばすだけでなく、集中度と練度次第では、弱い魔法障壁を揺さぶったり、実体を持つ魔法弾を弾き逸らしたりすることも可能になるかもしれないわ」
シルヴィの説明は、以前エリアーヌが語っていた分析とも重なる部分があり、アルトは自分のギフトの応用技に、確かな名前と可能性が与えられたことに興奮を覚えた。
シルヴィは、アルトが放つインパクト・パルスを、どこか懐かしむような、それでいて少し寂しげな目で見つめながら、続けた。
「昔…そうね、私がまだあなたと同じくらいの、ほんの駆け出しだった頃。一度だけ、とても変わったギフトを持つ冒険者と、短い間だけれどパーティを組んだことがあったわ」
その場の空気が、少しだけ変わる。ゴルドーもノエルも、黙ってシルヴィの言葉に耳を傾けている。
「彼もね、あなたとよく似ていた。受けた力を返す、というギフトを持っていたの。そして、ただ守るだけでなく、時折、今あなたが見せたような、反発の力を外に向けて放っていたわ……。彼はそれを、自分の身を守るため、そして……彼が命懸けで守ろうとしていた、たった一人の誰かのために、使っていた」
シルヴィの声には、深い感傷の色が滲んでいた。
「……とても不器用で、頑固で、でも……誰よりも強い意志を持った人だったわね」
その過去の冒険者が誰なのか、その後どうなったのか。シルヴィはそれ以上語ることはなく、ただ、遠い目をして、アルトの持つ黒曜の剣に視線を落とした。
アルトは、シルヴィの話に深く心を動かされていた。
自分と同じようなギフトを持つ者が、過去にいた。
そして、その力は「守る」という意志と深く結びついていたのかもしれない。
それは、ホブゴブリン戦で体験した、あの麻痺効果の謎を解く鍵となるかもしれない、重要なヒントのように思えた。
「インパクト・パルス……」
アルトは、自分の放つ力に与えられた新しい名前を、改めて口にした。
その響きが、自分の力への理解を、また一段階深めてくれた気がした。
「ありがとうございます、シルヴィさん!技の名前も、そして貴重なお話も…!俺、もっとこの力を使いこなせるように、頑張ります!」
アルトは、シルヴィに向かって深く頭を下げた。
シルヴィは、満足そうに微笑むと、
「礼には及ばないわ。あなたの成長は、見ていて飽きないもの。期待しているわよ、アルト君。…また、面白い技を見せてちょうだいね」
そう言い残し、ゴルドーとノエルに軽く会釈すると、風のように軽やかに訓練場を去っていった。
後に残されたのは、アルトと、少し呆気にとられたようなゴルドーとノエルだった。
「……おい、アルト。お前さん、あの“閃光”に気に入られてるのか?とんでもねえ奴だな…」ゴルドーが、呆れたように言う。
ノエルも、アルトの左腕のバックラーと、彼がインパクト・パルスを放った空間を、じっと見つめている。彼女の興味も、アルトのギフトへと向いているようだ。
正式にCランク冒険者となり、ギフトの応用技「インパクト・パルス」の名前と、その可能性についてのヒントを得たアルト。
彼の前には、さらに広大で、挑戦に満ちた冒険の世界が広がっている。
シルヴィとの再会、そして彼女が残した言葉と、過去の記憶の断片。
ノエルとゴルドーという、個性的だが頼れる仲間との絆。
それらは、アルトの運命に、そして彼の持つギフトの謎の解明に、これからどのような影響を与えていくのだろうか。
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