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第88話 鉱山潜入、迫るロードの影
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古びた鉱山跡の入り口。
ひんやりとした、そして埃と鉄錆の匂いが混じり合った空気が、暗い坑道の奥から不気味に流れ出してくる。
アルト、ノエル、ゴルドーの三人は、互いに短い目配せを交わすと、息を殺し、その闇の中へと足を踏み入れた。
Cランクパーティとしての初陣。
その舞台は、光の届かない地下深くへと続いていた。
先頭を行くのは、斥候役のノエルだ。
彼女は、まるで闇に溶け込むかのように、音もなく、滑るように坑道を進んでいく。
ランタンの灯りは最小限に絞られ、揺らめく光が照らし出すのは、湿った岩肌と、不規則に続く狭い通路、そして時折現れる不気味な分岐路だけだった。
天井は低く、壁からは常にパラパラと土砂が落ちてくる音がする。
空気も淀んでおり、長くいるだけで気分が悪くなりそうだ。
「……待って」
ノエルが、ふいに足を止め、小さく呟いた。
彼女の視線は、前方の床の一点に注がれている。
アルトとゴルドーも、緊張して足を止める。
ノエルは腰のポーチから、鳥の羽根のようなものを取り出すと、そっと前方の空間に放った。
羽根は、一見何もない空間で、ふわりと不自然な軌道を描き、そして、まるで何かに引っかかったかのように、空中で静止した。
「……糸。警報用」
ノエルは、極細の、ほとんど目に見えないほどの糸が通路に張り巡らされていることを見抜いたのだ。
彼女は腰から取り出した特殊なハサミのような道具で、音もなくその糸を切断する。
さらに進むと、今度は床の敷石のわずかなズレから、巧妙に隠された落とし穴を発見した。
これも、ノエルが持っていた楔(くさび)と金属板を使い、見事に作動を阻止してみせた。
この坑道には、ゴブリンたちが後から仕掛けたであろう稚拙な罠だけでなく、元々の鉱山作業で使われていた古い装置の残骸や、地盤の緩みによる自然の落とし穴なども点在しているようだった。
ノエルの存在がなければ、この闇と罠の迷宮を進むことすら、ままならなかっただろう。
「ちっ、ゴブリンの奴ら、意外と小賢しい真似をしやがる」
ゴルドーが、忌々しげに吐き捨てた。
しばらく進むと、前方の通路の曲がり角から、複数のゴブリンの気配が近づいてきた。
松明の明かりが、壁に揺らめく影を映し出す。
見張りか、巡回部隊か。
数は5匹。
「来るぞ!」
ゴルドーが低く唸り、巨大な戦斧を構える。
狭い通路では、彼の戦斧はその威力を最大限には発揮できないかもしれない。
だが、その圧倒的な存在感とパワーは、敵の突撃を受け止めるには十分すぎるほどだ。
ゴルドーは通路の中央に立ち、迫り来るゴブリンの先頭を、力任せの横薙ぎで迎え撃った!
ゴシャッ!
鈍い音と共に、先頭のゴブリンが壁に叩きつけられ、骨の砕ける音が響く。
アルトも即座に反応した。
ゴルドーの側面から回り込もうとしたゴブリンの槍を、左腕のバックラーで素早く弾き返す。
そして、返す刀で、黒曜の剣をそのゴブリンの胸元へと突き入れた。
剣先は、硬い革鎧のようなものを貫き、確かな手応えを残して沈黙させる。
さらに、別のゴブリンが放った、粗末な作りの矢。
アルトはそれを、ショートソードの腹で受け止め、即座にカウンター反射!
「ギャッ!」
放たれた矢は、信じられないという表情のゴブリン自身の喉元へと跳ね返り、突き刺さった。
その間にも、ノエルは物陰から素早く動き、ゴブリンたちの足元に撒菱(まきびし)のようなものをばら撒き、その動きを効果的に封じていく。
そして、混乱し、動きの鈍ったゴブリンの背後から音もなく忍び寄り、腰の短剣で的確に急所を突いていく。
彼女の動きには、一切の無駄も、躊躇もなかった。
三人の連携は、まだ完璧とは言えないまでも、それぞれの役割を理解し、互いの長所を活かし、短所を補い合う形で、確実に機能していた。
アッシュフォード村で一人戦っていた頃とは違う、パーティ戦闘ならではの効率性と安心感。
アルトは、仲間と共に戦うことの意味を、改めて実感していた。
遭遇したゴブリンの小隊は、ほとんど抵抗らしい抵抗もできないまま、あっという間に全滅した。
坑道を進むうちに、彼らはかつての鉱山の痕跡をいくつも目の当たりにした。
錆びつき、朽ち果てたツルハシやシャベル。
レールから脱線し、放置された鉱石運搬用のトロッコ。
そして、壁には、ドワーフ文字で刻まれた古い警告文。
ゴルドーが、埃を払いながら、その文字をかろうじて解読する。
「むむ…『この先、メタンガス…発生の…危険…火気、厳禁…』だと?ふん、ゴブリンどもは、そんなことお構いなしに松明を使っとるようだがな。まあ、今はもうガスは抜けておるかもしれんが、用心するに越したことはないわい」
エリアーヌが警告していた、鉱山跡特有の危険。
崩落しやすい天井、有毒なガス、そして、鉱物スライムや、壁の岩に擬態する小型のロックリザードのような、この場所ならではの魔物との遭遇もあった。
それらの危険も、三人は冷静に連携し、乗り越えていく。
坑道の奥深くへと進むにつれて、遭遇するゴブリンの数が増え、その質も明らかに上がってきた。
ただの棍棒持ちだけでなく、槍や弓で武装したゴブリン・ソルジャーや、小柄だが素早いゴブリン・スカウトのような個体も混じるようになる。
彼らの抵抗も激しくなり、戦闘に時間を要する場面も増えてきた。
アルトの革鎧にも、ゴルドーの金属鎧にも、新たな傷が刻まれていく。
そして、坑道のさらに奥から、ひときわ大きく、そして他のゴブリンたちを従わせるような、威圧的な咆哮が、断続的に響いてくるようになった。
ドンドン、と何か硬いものを叩くような音も混じっている。
間違いない。
ゴブリンロードの気配だ。
アルトたちは、ついに、この巣窟の主の目前まで迫っていた。
最後の通路を抜けると、そこは巨大な空洞だった。
かつて鉱石を大量に採掘していた場所なのだろう。
天井は高く、広々とした空間が広がっている。
しかし、その空間は今や、ゴブリンたちの根城と化し、悪臭と、無数の松明が放つ煙で満たされていた。
広間の奥。
積み上げられた鉱石や、壊れた採掘機械の残骸で作られた、粗末ながらも威圧的な玉座のようなものの上に、ひときわ巨大なゴブリンが、ふんぞり返るように座っていた。
身長は2メートルを優に超え、緑色の肌は醜い傷跡で覆われている。
その顔には、狡猾そうな光を宿した赤い目が爛々と輝き、口からは鋭い牙が覗いていた。
手には、人間の騎士が使うような、しかし禍々しい装飾が施された巨大な戦鎚(ウォーハンマー)が握られている。
あれが、ゴブリンロード…!
その存在感は、ホブゴブリンをも上回るかもしれない。
そして、そのゴブリンロードの周囲には、屈強な体格をした10匹以上のゴブリン兵が、槍や斧を手に、まるで親衛隊のように控えている。
彼らは、アルトたちの侵入に気づくと、一斉に武器を構え、唸り声を上げながら、敵意をむき出しにしている。
一行はついに、目標の目前までたどり着いた。
ひんやりとした、そして埃と鉄錆の匂いが混じり合った空気が、暗い坑道の奥から不気味に流れ出してくる。
アルト、ノエル、ゴルドーの三人は、互いに短い目配せを交わすと、息を殺し、その闇の中へと足を踏み入れた。
Cランクパーティとしての初陣。
その舞台は、光の届かない地下深くへと続いていた。
先頭を行くのは、斥候役のノエルだ。
彼女は、まるで闇に溶け込むかのように、音もなく、滑るように坑道を進んでいく。
ランタンの灯りは最小限に絞られ、揺らめく光が照らし出すのは、湿った岩肌と、不規則に続く狭い通路、そして時折現れる不気味な分岐路だけだった。
天井は低く、壁からは常にパラパラと土砂が落ちてくる音がする。
空気も淀んでおり、長くいるだけで気分が悪くなりそうだ。
「……待って」
ノエルが、ふいに足を止め、小さく呟いた。
彼女の視線は、前方の床の一点に注がれている。
アルトとゴルドーも、緊張して足を止める。
ノエルは腰のポーチから、鳥の羽根のようなものを取り出すと、そっと前方の空間に放った。
羽根は、一見何もない空間で、ふわりと不自然な軌道を描き、そして、まるで何かに引っかかったかのように、空中で静止した。
「……糸。警報用」
ノエルは、極細の、ほとんど目に見えないほどの糸が通路に張り巡らされていることを見抜いたのだ。
彼女は腰から取り出した特殊なハサミのような道具で、音もなくその糸を切断する。
さらに進むと、今度は床の敷石のわずかなズレから、巧妙に隠された落とし穴を発見した。
これも、ノエルが持っていた楔(くさび)と金属板を使い、見事に作動を阻止してみせた。
この坑道には、ゴブリンたちが後から仕掛けたであろう稚拙な罠だけでなく、元々の鉱山作業で使われていた古い装置の残骸や、地盤の緩みによる自然の落とし穴なども点在しているようだった。
ノエルの存在がなければ、この闇と罠の迷宮を進むことすら、ままならなかっただろう。
「ちっ、ゴブリンの奴ら、意外と小賢しい真似をしやがる」
ゴルドーが、忌々しげに吐き捨てた。
しばらく進むと、前方の通路の曲がり角から、複数のゴブリンの気配が近づいてきた。
松明の明かりが、壁に揺らめく影を映し出す。
見張りか、巡回部隊か。
数は5匹。
「来るぞ!」
ゴルドーが低く唸り、巨大な戦斧を構える。
狭い通路では、彼の戦斧はその威力を最大限には発揮できないかもしれない。
だが、その圧倒的な存在感とパワーは、敵の突撃を受け止めるには十分すぎるほどだ。
ゴルドーは通路の中央に立ち、迫り来るゴブリンの先頭を、力任せの横薙ぎで迎え撃った!
ゴシャッ!
鈍い音と共に、先頭のゴブリンが壁に叩きつけられ、骨の砕ける音が響く。
アルトも即座に反応した。
ゴルドーの側面から回り込もうとしたゴブリンの槍を、左腕のバックラーで素早く弾き返す。
そして、返す刀で、黒曜の剣をそのゴブリンの胸元へと突き入れた。
剣先は、硬い革鎧のようなものを貫き、確かな手応えを残して沈黙させる。
さらに、別のゴブリンが放った、粗末な作りの矢。
アルトはそれを、ショートソードの腹で受け止め、即座にカウンター反射!
「ギャッ!」
放たれた矢は、信じられないという表情のゴブリン自身の喉元へと跳ね返り、突き刺さった。
その間にも、ノエルは物陰から素早く動き、ゴブリンたちの足元に撒菱(まきびし)のようなものをばら撒き、その動きを効果的に封じていく。
そして、混乱し、動きの鈍ったゴブリンの背後から音もなく忍び寄り、腰の短剣で的確に急所を突いていく。
彼女の動きには、一切の無駄も、躊躇もなかった。
三人の連携は、まだ完璧とは言えないまでも、それぞれの役割を理解し、互いの長所を活かし、短所を補い合う形で、確実に機能していた。
アッシュフォード村で一人戦っていた頃とは違う、パーティ戦闘ならではの効率性と安心感。
アルトは、仲間と共に戦うことの意味を、改めて実感していた。
遭遇したゴブリンの小隊は、ほとんど抵抗らしい抵抗もできないまま、あっという間に全滅した。
坑道を進むうちに、彼らはかつての鉱山の痕跡をいくつも目の当たりにした。
錆びつき、朽ち果てたツルハシやシャベル。
レールから脱線し、放置された鉱石運搬用のトロッコ。
そして、壁には、ドワーフ文字で刻まれた古い警告文。
ゴルドーが、埃を払いながら、その文字をかろうじて解読する。
「むむ…『この先、メタンガス…発生の…危険…火気、厳禁…』だと?ふん、ゴブリンどもは、そんなことお構いなしに松明を使っとるようだがな。まあ、今はもうガスは抜けておるかもしれんが、用心するに越したことはないわい」
エリアーヌが警告していた、鉱山跡特有の危険。
崩落しやすい天井、有毒なガス、そして、鉱物スライムや、壁の岩に擬態する小型のロックリザードのような、この場所ならではの魔物との遭遇もあった。
それらの危険も、三人は冷静に連携し、乗り越えていく。
坑道の奥深くへと進むにつれて、遭遇するゴブリンの数が増え、その質も明らかに上がってきた。
ただの棍棒持ちだけでなく、槍や弓で武装したゴブリン・ソルジャーや、小柄だが素早いゴブリン・スカウトのような個体も混じるようになる。
彼らの抵抗も激しくなり、戦闘に時間を要する場面も増えてきた。
アルトの革鎧にも、ゴルドーの金属鎧にも、新たな傷が刻まれていく。
そして、坑道のさらに奥から、ひときわ大きく、そして他のゴブリンたちを従わせるような、威圧的な咆哮が、断続的に響いてくるようになった。
ドンドン、と何か硬いものを叩くような音も混じっている。
間違いない。
ゴブリンロードの気配だ。
アルトたちは、ついに、この巣窟の主の目前まで迫っていた。
最後の通路を抜けると、そこは巨大な空洞だった。
かつて鉱石を大量に採掘していた場所なのだろう。
天井は高く、広々とした空間が広がっている。
しかし、その空間は今や、ゴブリンたちの根城と化し、悪臭と、無数の松明が放つ煙で満たされていた。
広間の奥。
積み上げられた鉱石や、壊れた採掘機械の残骸で作られた、粗末ながらも威圧的な玉座のようなものの上に、ひときわ巨大なゴブリンが、ふんぞり返るように座っていた。
身長は2メートルを優に超え、緑色の肌は醜い傷跡で覆われている。
その顔には、狡猾そうな光を宿した赤い目が爛々と輝き、口からは鋭い牙が覗いていた。
手には、人間の騎士が使うような、しかし禍々しい装飾が施された巨大な戦鎚(ウォーハンマー)が握られている。
あれが、ゴブリンロード…!
その存在感は、ホブゴブリンをも上回るかもしれない。
そして、そのゴブリンロードの周囲には、屈強な体格をした10匹以上のゴブリン兵が、槍や斧を手に、まるで親衛隊のように控えている。
彼らは、アルトたちの侵入に気づくと、一斉に武器を構え、唸り声を上げながら、敵意をむき出しにしている。
一行はついに、目標の目前までたどり着いた。
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